大前研一のニュースのポイント

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民主主義の弱点と独裁体制の利点/オバマ大統領はもっと世界視野で。日本は移民政策の検討を

2013年02月22日 | ニュースの視点

ベネズエラ情報省は15日、キューバでがん治療中のチャベス大統領の写真を公表した。チャベス氏は昨年末にがんが再発し、1月に予定されていた4期目の就任式を欠席していた。重篤状態と報じられ職務復帰が危ぶまれていたが、写真の公表により支持者や政敵に回復ぶりをアピールする狙いがあるとみられている。しかし、写真を見る限りとても大統領職を果たせるとは思えないから、ベネズエラは後継者を決める必要があるだろう。

ベネズエラが独裁国家か否かは意見が別れるところだろうが、近年、一般的に独裁体制と言われる国が民主化した事例を見ていると、私は次のように感じてしまう。すなわち、「民主化した国家よりも、独裁体制のほうが安定していた」ということだ。

民主主義を否定するつもりはない。しかし、現実的には「ギリシャの教訓」からも分かるように、民主主義は「啓発された市民」を前提に成立するものだ。スイスのように数百年にわたって自らを磨き続け、村レベルから統治について試行錯誤しているような国であれば、民主主義は非常に有効だろう。翻って日本をみてみると、今の日本のマスコミ、政治家を前提にすると、選挙をしても国が良くなっていないのは明らかだ。

では独裁者に全面的に賛成するか?と言えば、そうではない。しかし「Benevolent Dictatorship(善意ある独裁)」であれば、結果的に効率の良い国家運営ができるというのも事実だ。例えば、シンガポールのリー・クアンユー氏は良い例だ。

さらに言えば、サダム・フセインやムバラクは善意ある独裁者ではないが、彼らの時代のほうが国家は安定していたというのは、皮肉な事実だと思う。イラクもエジプトも市民は今よりも落ち着いていた。特にイラクは、当時は海外からの旅行も可能だったが、今は全く不可能な状況だ。

近年のリビア、エジプト、イラクの事例を見ると、民主主義的な解決策が、かえって部族間の対立を深め、多数民族の横暴を招いていると言える。これは歴史的に見ても同じことが言える。ギリシャ最大の教訓である「民主主義は啓発された市民でなければ維持できない」ということを、今あらためて認識すべきだと思う。


オバマ米大統領は12日の一般教書演説で経済政策に大きな比重を置き、中間所得層の底上げで米国経済の再生を目指す決意を示した。「数カ月以内に移民制度を改革する包括法案を通してくれれば、ただちに署名する」と述べ、増加する不法移民に市民権獲得への道を開くと言われる法案について、議会に協力を求めた。

2期目を迎えた米オバマ大統領の動きを見ていると、非常に「ドメスティック」だと感じる。1期目は「核なき世界を実現する」というテーマを筆頭に、世界中を幸せにするという大きなビジョンを掲げていた。チェコのプラハで行われた演説など、聞いているだけで興奮するほどのものだった。

しかし今回の一般教書演説を見ると、銃規制の問題、移民政策の問題など、どこに目を向けても基本的に「ドメスティック」な話題ばかりだ。米国内で低収入層であるヒスパニックの人口が南部を中心に増加傾向にあり、5000万人を突破したと言われている。そんな中、最低賃金の問題が話題になっているが、世界一の経済大国である米国の大統領が「最低賃金9ドルまでの引き上げ」を提案しなければならないのは、情けない話だ。

一般教書演説の中で唯一目新しいのは、環太平洋経済連携協定(TPP)と欧州連合(EU)との貿易・投資協定くらいだ。私に言わせれば3期目はないのだから、もっと世界全体を見据えた大胆な政策を実施してほしいと思う。

移民政策の問題については日本にとって他人事ではない。シンガポールやオーストラリアが移民政策で成功しているのに対し、日本は未だ手を付けておらず、人口減少への対策が遅れている状況だ。移民の受け入れに対し、石原慎太郎氏などは「日本中、新大久保になっていいのか?」と反論しているが、私はそうは思わない。無論、無計画に受け入れれば、そういう危険性はあるだろう。大切なのは、「日本に来てほしいのは、こういう人だ」というターゲットを明確にすることだ。例えば、シンガポールは移民の受け入れに際し、学歴に加えて、金融ディーラー、ITエキスパート、バイオ研究者など、自国に不足しているスキルや将来必要な資格を保有することを条件にしていた。

労働人口が年々減り続けているから、日本でも長期的には「優秀な人材」を「移民として」受け入れていかなければならないだろう。少なくとも、全面的に拒絶するのではなく、移民受け入れの試行錯誤くらいは始めるべきだと思う。


1 コメント

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Unknown (金欠次郎)
2013-05-15 09:47:45
人口の母数が少ない北欧は、移民増加によって「国家が消滅」するのは、もはや時間の問題となっています。ドイツやフランス、イギリスは人口が比較的多いので北欧ほどの事態には陥っていませんがさまざまな社会問題を抱えているのは周知の事実。 
イギリス社会をつぶさに観察する機会のある私は、脳天気な多文化主義がもたらした結果を目の当たりにして、日本がこうなってはおしまいだと確信するに至りました。「移民を厳しく制限している日本が羨ましい」・・・親しくなった欧州の友人たちから漏れてくる本音です。

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