大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

日本の問題点は閉鎖的な経済政策。「貸席経済」の成功事例を学べ

2008年07月15日 | ニュースの視点
国際通貨基金(IMF)の調査で、2007年のシンガポールの1人当たり国内総生産(GDP)が3万5000ドルを超え、日本の約3万4300ドルを抜くことが明らかになった。

資源に乏しいシンガポールは積極的な外資・外国人の誘致策で経済の活性化に取り組んでおり、市場開放が後手に回った日本との違いが鮮明になった格好だ。

シンガポールは、いわゆる「貸席経済」で大きく経済成長を遂げてきた、まさに私が提唱する「ボーダレス経済」の申し子のような国家だ。

私がシンガポールの国家アドバイザーを務めていた70年代後半、ちょうど日本の1人当たりGDPが1万ドルを突破した。

その頃、シンガポールの1人当たりGDPは約2000ドルだった。その5倍の差がひっくり返って、日本が抜かれてしまったというわけだ。

世界とアジアの主要国の1人当たりGDPを見てみると、アイスランド、アイルランド、スイス、デンマーク、スウェーデンといった北欧の小さな国が非常に強くなっているのが分かる。

通貨による影響もあるが、これらの国が日本の1人当たりGDP(3万4,312ドル)をはるかに凌いでいるのは、その実力として認めるべきだと私は思う。

このままで行けば、シンガポールに留まらず、香港(2万9,650ドル)にも追い抜かれる日が近いだろう。

さらには、韓国(1万9,751ドル)との差は、現在1万5,000ドルほどあるが、ウォン高に推移すれば半分くらいは縮まってしまう可能性も高いと私は見ている。

こうしたシンガポールの繁栄の要因は、自力だけに頼った経済ではなく、開放的な経済政策を打ち出した点にある。

規制を撤廃し、世界の力を借りて、経済を発展させていくという「貸席経済」の典型的なモデルだと思う。

それでも、私に言わせれば、日本がシンガポールに遅れをとる理由など全くないのだが、残念なことに、日本は第2の鎖国とも言えるきわめて閉鎖的な経済政策を進めてしまい、決定的な間違いを犯している。

「国家経済に対する見方の違い」「政策上の違い」が、今のシンガポールと日本を分かつ大きな違いとなって現れているのだということを、官僚・役人、そして国民も強く認識するべきだと私は思う。

そして、政治家はもっとこうした事例を勉強するべきだ。

シンガポール、アイスランド、アイルランド、フィンランドなど、こうした国々がどうして最近活躍しているのか、その理由をしっかりと学んでいる日本の政治家は殆どいないと私は思う。

かれこれ十数年前になるが、日本が1人当たりGDPでアメリカを抜いたという過去の栄光のイメージのまま思考停止状態に陥ってしまっている気がする。

アジアで日本を凌ぐ成長を遂げたシンガポール。そして、そのシンガポールの超巨大バージョンとも言える中国。どちらの国も「貸席経済」の典型的な成功事例だ。

日本は金融危機に際して、国民に対してツケを押し付けることで解決を試みた。

それに対して、中国は外資の一流銀行を招き入れた。今でも中国の銀行のほとんどは一流の外資系銀行の資本が10%程度入っていて、彼らの経営参画を受け入れている。これが、「貸席経済」のやり方なのだ。

世界に解決策を求めるのか、国民や子孫に解決策を求めるのか。

この日本と中国の例を見ても、「解決策をどこに求めるのか?」という根本的なアプローチの部分に大きな違いがあるということに気づくべきだろう。

この点について、私は20数年来、ボーダレス経済の中で主張しているが、皮肉なことに一向に理解してくれないのが日本という国だ。

もっと世界に目を向けて、その事例から学び、積極的に勉強する姿勢を身につけてもらいたいと強く願うばかりだ。

4 コメント

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個人か企業か (curonikeru)
2008-07-15 17:12:09
世界の力とは、個人か企業か。
企業はコスト高ではないか。
国内の個人は、無視か?
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Unknown (デンジャラス)
2008-07-16 00:28:33
じゃあ俺も世界中の孤児達に助けてもらうよ大前さん
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Unknown (デンジャラス)
2008-07-16 00:31:13
んで頭のいい孤児達が俺を助け
少しでも日本の力になれるようにやるよ
いろいろ
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一億総サラリーマン (ks)
2008-07-16 12:23:40
江戸時代から明治大正、昭和と、全ての時代で思うことは、給与を自分で得るのではなく、与えられることで安寧を得ることが、一部の時期を除いて、日本人に染み付いた習性かと感じます。

政治家も官僚もサラリーマン化…
外の新しい文化・仕組みを取り入れなくても、今の状況がそれなりに続けば良いと考える治世者と国民。


10年20年30年先を読む・想像するなんて…
教育の世界にすらない。

例えば、竹島の問題を文部科学省は急に教科書に記載しますと発表したけど、何故?もっと政治主導で、韓国側へ将来的な話し合いができる体制や方向を作らずに、こんな事をするのか理解に苦しみます。

やっぱり差別意識が国のトップにすらあるのか?

50代60代は意味も知らずに日常会話で『バカでも○○○でも…』と普通に話しているし…

経済の話しから逸れましたが、要は経済発展を遂げたこの国は、目標・目的を失い、将来へのビジョンがなくなっているということかなと思います。

追い付け追い越せの時代から、自分たちが世界の目標となるような考え方にならないと…

でも、未だに20年30年前に作られた計画にしがみつきダムや干拓事業を推し進める官僚組織と、それをコントロールできない政治家(国民)では、この先も変化することは難しいのかな?

リーダー不在ですもの…国も会社も社会も…
『責任』という言葉すら聞こえてこないし…
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