
三 殺害場所は、放生の場所
ミヤサキは、4件の幼女殺しを犯しています。その殺害場所はいずれも、山林の中です。
ここで、当然のように、次のような疑問に襲われます。
殺害場所がなぜ山林の中なのか?
ミヤサキ関係の本を何冊読んだところで、どの著者もこの疑問には答えていません。
それは、自明のこととして、要するに、犯行がばれないように、人目につかない場所を選んだのだ、と答えるかもしれません。
それだけのことならば、埼玉で誘拐した幼女を都内の自宅の近くの五日市市(現あひるの市)の山林まで連れて行く必要はありません。埼玉県にある近くの山林だって構わないわけです。
この点を当時の新聞記事で確認を取りますと、最初の真理ちゃん事件ではなく、次の正美ちゃん事件でも同じ山林で行っているわけですから、単に、人目を避けるだけではなく、特別の意味があったといえるのではないでしょうか。
下は、平成2年3月31日付けの朝日新聞の見出し「連続幼女誘拐殺人 検察側の冒頭陳述(要旨)の紙面から抜粋したものです。
>「被害者今野真理に対する誘拐、殺人、死体損壊事件について」・・・被告は直ちに運転手席に乗り込み、ドアをロックして車を発進させ、八王子に入ったが、その途中、誘拐してきた真理ちゃんを解放すれば犯行の発覚が必至であるところから、この上は人目のない場所に誘い込んで殺害するほかないとの気持ちを抱き始め、同日夕刻、同市上川町141番地の東京電力株式会社新多摩変電所先の空地に至った。
なお、被告は、走行中車内のクーラーとラジオをつけ、ラジオの選局ボタンを指さしながら「ボタンに触ってもいいよ》などと話して、選局ボタンを押して遊ばせたり、「寝てもいいんだよ、お昼寝するんでしょう」などと話し、幼女が不安を抱くことがないよう努めた。
(三) 空地に駐車した後、「今度は電車に乗ろうね」と声をかけて、車から降ろし、そのまま林道入り口から約1200㍍入った同都西多摩郡五日市町戸倉字日向峰2、311番ハの山林内(入間ビレッジから約26㌔)まで連れ込んだ。
被告は、いつかは真理ちゃんを殺害しなければならないとの気持ちで、山林内に連れ込んだが、「休もう」と声をかけ、並んで山林の斜面に腰を降ろした際、真理ちゃんがしくしく泣き出したため、泣き声を山道の通行人等に聞かれることを恐れ、同所で殺害しょうと考えた。その場で仰向けに押し倒し、その上に覆いかぶさるようにしながら、自己の体重を両手の親指にかけ、頸部(けいぶ)を力いっぱい締め続け、同日午後六時三十分ごろ、その場で窒息死させて殺害した。
その後、被告は、半ズボン、パンツを脱がせ、死体を近くに投げ捨て、さらに、Tシャツを胸までまくり上げたものの、殺害した恐怖から、この日は死体に対しわいせつ行為をすることなく、放置したまま自宅に戻った。
>「被害者吉沢正美に対する誘拐、殺人事件について」・・・被告は、今野真理ちゃんを誘拐殺害して死体をもてあそんだ際の興奮を忘れかねていた。そして、エンジンをかけたまま車から降りて道路を横断し、正美ちゃんに近づき。・・・とうそを言い、道案内を依頼するように装った。
被告は、車の助手席のドアを開けて助手席に乗車させ、同日午後4時30分頃、東京電力株式会社新多摩変電所先の空地に至った。
被告は、「降りて休もう」と車から降ろし、さらに、はしゃぎまわっている正美ちゃんに「今度は電車に乗ろうね」と声をかけ、山林内まで連れ込んだ。
被告は、車内から持参した新聞紙を広げて地面に敷き、「ここで休もう」と言って、並んで座った。その頃、騒がれずに自己の欲望を遂げるには、殺害するほかないと決意して、同日午後5時ごろ、正美ちゃんが「いつ帰るの」と言って新聞紙の上に寝転んだのを機会に、その場で、いきなり頚部をを力いっぱい絞め続け、窒息死させて殺害した。(「朝日新聞」「連続幼女誘拐殺人・検察側の冒頭陳述」1990年3月31日)
見られるように、二件とも同じ「東京電力株式会社新多摩変電所先の空地」に車を止め、同じ「山林内」に連れ込んでいるわけです。
検察側はその誘拐目的を「騒がれずに自己の欲望を遂げるには、殺害するほかない」としていますが、一体「いかなる欲望」を満たすためのものであるかまでは読み取れません。
この点に関して、先に書いた『塗り潰されたシナリオ』の著者橋本一哉は、ミヤサキは人並みに「性欲がある」のだから「性欲を満たすため」という答えを出したと考えられます。
これに対して、私が考えているのは、「放生」のための幼女誘拐です。
この点に関して、小平義雄の殺害場所を調べてみますと、最初の「女子寮」を除けば、7件中6件の殺害場所は、「○○の雑木林」や「山道」となっています。
これは人目を避けたという意味もありましょうが、やはり、そこが「放生」の場所にほかならなかったから、その場所へ連れ込んだといえるのではないでしょうか。
仮にそうだとして、「性欲目的の」の誘拐と「放生目的」の誘拐は、どう違うのかという疑問に襲われたとしてもおかしくはありません。