Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」

2019-06-23 17:12:10 | 読書感想文(小説)


伊坂幸太郎の連作短編集「アイネクライネナハトムジーク」を読みました。
伊坂作品によくある、それぞれの話に共通する登場人物がいて、物語が連動しているようなそうでないような、不思議な距離感で繋がっています。

登場人物は共通していても、時間が何十年も飛んで、幼い子供だった登場人物が急に高校生になっていたりするので、読みながら「ん?この人どの話に出てきたっけ?」とページを遡ることが何度もありました。まあ、そんな風になるのは私だけなのかもしれませんが。人の顔も名前も覚えるのが苦手なもので…。

短編集なので、物語の内容を詳しく書くのは身も蓋もないと思うので、感想はざっくりめです。けして、元から貧相だった私の文章力が近頃ますますひどいことになってきているからではありません。はい。

「アイネクライネ」
ある若い男女が、出会ってから再会するまでの話…おっと、結末まで書いてしまった。すいません。でもその過程が面白いので、これから読む人はそこを楽しんで下さい。
主人公の佐藤の友人の織田一真が、つかみどころのない強烈なキャラクターで、たまに読んでてイラッとする場面もあったのですが、映画では矢本悠馬が演じるらしいので、「じゃあしょうがないか」と許す気持ちになりました。余談ですが伊坂幸太郎作品が映画化すると聞いて、今回も当然監督は中村義洋さんだと誤解してましたが、今泉力哉さんでした。だから濱田岳が出ないのね。
佐藤は主人公だけど周りの話に影響されて動き出すところで物語が終わるので、傍観者っぽくもあります。映画ではどうなるんだろう?

「ライトヘビー」
タイトルで予測される通り、ボクシングが出てくる話です。以上…じゃなくて、主人公の美奈子は美容師で、客の板橋香澄から香澄の弟・学を紹介されて、電話でやり取りする仲になるも、なかなか直接会うまでに至らない。そうこうしているうちに、美奈子は学があるボクシングの世界戦の結果次第で自分に告白するか否かを決めようとしていると知り…という話。半分くらい読んだら結末がわかってしまう話ですが、このボクシングの試合は連作短編集の軸になるものなので、そう思って読み返すと興味深いです。「うちの弟とつきあわない?」って紹介されて電話でやりとりするというのに時代を感じました。今ならLINEとかSNSでしょう。若者の出会いツールよく知らないけど。

「ドクメンタ」
妻と子に突然出ていかれた男・藤間の話。藤間は「アイネクライネ」の佐藤の会社の先輩。妻子に出ていかれたショックで、藤間は仕事中に大きなミスをしてしまう。でも、そのミスがきっかけで、佐藤は運命の女性(多分)と出会っていた…のが「アイネクライネ」。妻子はなぜ出て行ったのか、やり直すにはどうしたらいいのか、藤間が悶々と悩んだ結果、ある人の体験を聞いてやっと行動を起こす、というのがこの「ドクメンタ」です。文章にするとあっさりしてますが、悩んでから行動を起こすまでに5年かかっているので、スケールが小さいんだか大きいんだかわかりません。小説の中に出てくる、藤間の妻が夫に愛想をつかした理由に説得力があるので、世の既婚者は必読だと思います。私は結婚したことないので断言はできませんが。
運転免許センターで藤間が出会う女性が強烈に個性的だったので、映画にも出てきて欲しいけど、どうだろう?

「ルックスライク」
男子高校生久留米和人と女子高校生織田美緒に起きる、時空を超えた出来事の話。ちょっと大げさかな。
連作短編集を半分くらい読み進めると、登場人物の名前を見るや「この人は前の話に出てきたっけ?」と立ち止まったり、「このエピソードはどことつながってるのかな?」とあれこれ思い返したりして、読むのに時間がかかります。この「ルックスライク」の織田美緒の場合、苗字だけで「ああ、あの時の子だな」と気がつくし、同時に「アイネクライネ」から10年経っていることにも気がつけたので楽でしたけど。この「ルックスライク」は、10年どころかそれ以上に長い時間を行き来する物語なので、読んでて少し混乱することもありました。正直、単体で面白いかと言われると微妙でしたが、「アイネクライネ」の織田夫妻のその後を知ることができたという意味では面白かったです。

「メイクアップ」
化粧品メーカーに勤める結衣は、高校時代に自分をいじめていたクラスメート・亜季と偶然の再会をする。相手は広告会社に勤めており、結衣の会社の新商品のプロモーションのコンペに参加してきたのだ。結衣からいじめの話を聞いていた同僚の佳織は、相手が結衣のことに気づいてないことを利用して復讐しようと囁くが…。
亜季の誘いを断り切れなくて結衣が合コンに参加させらて男女の駆け引きに巻き込まれたり、亜季に結衣が元クラスメートだと気づかれるんじゃないかとひやひやしたり、他の収録作品とは毛色が違ってて面白かったです。ただ、思わせぶりな状態で話が終わってしまって、「この後どうなるんだろう」と思いながら最後の「ナハトムジーク」を読んだら…だったので、そこはちょっと残念でした。余白を楽しめばいいんでしょうけどね。

「ナハトムジーク」
連作短編集最後の話なので、全体を総括するような内容でした。何度も時間を行き来して話があっちっこちに飛ぶので、読むのは結構大変でした。読みながらメモ取ろうかと思ったくらい。
物語のベースは「ライトヘビー」に出てくる学と美奈子のその後の話で、そこに他の話の登場人物やエピソードが絡んできて、それが枝葉になってひとつの物語が完成する、という構成になっていました。
読み終わってカタルシスがあるかと聞かれたら、正直「あるにはあるが、ほとんどない」と答えるところですが、伊坂幸太郎作品って大体そうだよなと思うので、これはこれでアリなのでしょう。一見さんにはキツイかもしれませんが。
映画にはサンドウィッチマンの2人も出演するそうで、何の役なのか公式サイトを見ても書いてないのですが、おそらく「ナハトムジーク」の最後に出てくるコメディアンの役だと思います。公式サイトの劇場情報を見たら、見に行けるかどうか相当怪しいのですが、2人が出るのならできれば見に行きたいなと切に願っています。一日一回上映とかだと難しいけど。さてどうなるやら。

正直、作中のジェンダー観とか今どきちょっと古いんじゃないかとモヤモヤするところもあったのですが、今回はまあ良しとすることにしました。気にしない人のほうがマジョリティなんだろうし。ただ、映画ではそのへんがマイルドになっていてほしいですけど。

各話に共通して登場する「斉藤さん」のモデルはまんま斉藤和義なんでしょうけど、映画の斉藤さんはご本人じゃなくてこだまたいちさんというフォークシンガーの方が演じられるそうです。でも映画の音楽を担当するのは斉藤和義で、主題歌も斉藤和義。なんだかややこしいわ。


それぞれの話が絡み合ってて読んでてややこしかったけど、その分再読する楽しみがあるからいいんだ、と解釈することにします。まあ、次読む時には内容をほとんど忘れちゃってるだろうけどね…。

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