3年 笹尾美友紀
「テンナンショウ」という植物をご存知だろうか?マムシグサ、ウラシマソウ、ユキモチソウという名前なら聞いたことがある方もいるかもしれない。テンナンショウはこれらを含む、サトイモ科テンナンショウ属の植物の総称である。
テンナンショウ 2012.6/14 八ヶ岳 (撮影:安本)
テンナンショウを山、森で見た人は気持ちが悪い、毒々しいなどのマイナスの言葉で表現することが多い。苦手な方からすると、
「うわ!出会っちゃった!」
という感じだろうか。しかし私にとっては群生するウバユリの方が気味が悪い。テンナンショウほど美しく、謎に満ちた素晴らしい植物は存在しないのではないかと思っている。そんな大好きな、大好きな研究対象である。
群生するウバユリのつぼみ 2012.7.15 アファンの森
私の研究テーマは、テンナンショウの受粉が誰によって為されているのかを明らかにすることである。一般的にはキノコバエ科、クロバネキノコバエ科だと言われている。この話をする前に少しテンナンショウの説明をしよう。
テンナンショウの「花のようなもの」は仏炎苞といって葉が変形したものである。この中にとうもろこし状の肉穂花序と呼ばれる花がついている。テンナンショウは雌雄異株で、小さいときはオスであるが、大きくなるとメスへ性転換する。オスとメスの違いの1つに、仏炎苞の出口の有無がある。オスには仏炎苞の下の方に隙間があるが、メスにはない。出口の有無はポリネーター(受粉をする昆虫)にとって生死を分ける非常に重要なものである。
テンナンショウの仏炎苞 2012.5.19 アファンの森
入口と出口の位置
匂いに引き付けられて入口から仏炎苞に入った昆虫は、壁がツルツル滑るため上へ行くことはできない。つまり入口には戻ることはできないのである。しかしオスの仏炎苞は出口があるため、昆虫はそこから外に出ることができる。しかしメスには出口がないため一生外には出られず、そこで死んでいくしかない。このオスとメスの仏炎苞の構造の違いは、ピットホール(落とし穴)トラップとも呼ばれている。
ここでキノコバエの話に戻ると、実はポリネーターが誰であるのかはこの死んでいる昆虫の数で判断されているようである。しかしただ単にトラップにかかっただけの可能性も捨てきれない。論文や文献を読んでも本当だろうか?という疑問がどんどん湧いてくる。そこで今年は、本当に昆虫はメスの仏炎苞から出られないのか?外に出るのに出口をきちんと使うのか?を調べてみるつもりである。
メスの肉穂花序と仏炎苞の中で死んでいたキノコバエ 2012.6.18
11月の長野県アファンの森でテンナンショウの実にキノコバエが来ているのを見つけた。日によっては雪も降り、昆虫の姿はほとんど見かけなくなった11月のアファンの森で、生きているキノコバエが見られたのはとても不思議であった。しかも場所は受粉を手伝う植物の実の上である。一体何をしに来たのだろうか。
テンナンショウは観察すればするほど新しい発見がある。昨年の春から観察してきたテンナンショウは、いま雪の下にある。春になって再会するとき、どんな姿で、何を見せてくれるのだろう。これも知りたい、あれも知りたいとつい欲張りになってしまう。
花言葉は「壮大な美」。これが表すのはテンナンショウの仏炎苞だろうか、それとも赤い実だろうか。どちらの姿にしても美しいと私は思う。キノコバエと同じように、気が付くと私は、森の中で一際目を引く植物に魅せられ、すっかりトラップにかかってしまったようだ。トラップにかかったキノコバエと私を見て、作戦通りと彼女たちは笑っているのだろうか。きっとこのトラップからは逃げられない。
赤くなり始めたテンナンショウの実 2012.10.15 アファンの森
「テンナンショウ」という植物をご存知だろうか?マムシグサ、ウラシマソウ、ユキモチソウという名前なら聞いたことがある方もいるかもしれない。テンナンショウはこれらを含む、サトイモ科テンナンショウ属の植物の総称である。
テンナンショウ 2012.6/14 八ヶ岳 (撮影:安本)
テンナンショウを山、森で見た人は気持ちが悪い、毒々しいなどのマイナスの言葉で表現することが多い。苦手な方からすると、
「うわ!出会っちゃった!」
という感じだろうか。しかし私にとっては群生するウバユリの方が気味が悪い。テンナンショウほど美しく、謎に満ちた素晴らしい植物は存在しないのではないかと思っている。そんな大好きな、大好きな研究対象である。
群生するウバユリのつぼみ 2012.7.15 アファンの森
私の研究テーマは、テンナンショウの受粉が誰によって為されているのかを明らかにすることである。一般的にはキノコバエ科、クロバネキノコバエ科だと言われている。この話をする前に少しテンナンショウの説明をしよう。
テンナンショウの「花のようなもの」は仏炎苞といって葉が変形したものである。この中にとうもろこし状の肉穂花序と呼ばれる花がついている。テンナンショウは雌雄異株で、小さいときはオスであるが、大きくなるとメスへ性転換する。オスとメスの違いの1つに、仏炎苞の出口の有無がある。オスには仏炎苞の下の方に隙間があるが、メスにはない。出口の有無はポリネーター(受粉をする昆虫)にとって生死を分ける非常に重要なものである。
テンナンショウの仏炎苞 2012.5.19 アファンの森
入口と出口の位置
匂いに引き付けられて入口から仏炎苞に入った昆虫は、壁がツルツル滑るため上へ行くことはできない。つまり入口には戻ることはできないのである。しかしオスの仏炎苞は出口があるため、昆虫はそこから外に出ることができる。しかしメスには出口がないため一生外には出られず、そこで死んでいくしかない。このオスとメスの仏炎苞の構造の違いは、ピットホール(落とし穴)トラップとも呼ばれている。
ここでキノコバエの話に戻ると、実はポリネーターが誰であるのかはこの死んでいる昆虫の数で判断されているようである。しかしただ単にトラップにかかっただけの可能性も捨てきれない。論文や文献を読んでも本当だろうか?という疑問がどんどん湧いてくる。そこで今年は、本当に昆虫はメスの仏炎苞から出られないのか?外に出るのに出口をきちんと使うのか?を調べてみるつもりである。
メスの肉穂花序と仏炎苞の中で死んでいたキノコバエ 2012.6.18
11月の長野県アファンの森でテンナンショウの実にキノコバエが来ているのを見つけた。日によっては雪も降り、昆虫の姿はほとんど見かけなくなった11月のアファンの森で、生きているキノコバエが見られたのはとても不思議であった。しかも場所は受粉を手伝う植物の実の上である。一体何をしに来たのだろうか。
テンナンショウは観察すればするほど新しい発見がある。昨年の春から観察してきたテンナンショウは、いま雪の下にある。春になって再会するとき、どんな姿で、何を見せてくれるのだろう。これも知りたい、あれも知りたいとつい欲張りになってしまう。
花言葉は「壮大な美」。これが表すのはテンナンショウの仏炎苞だろうか、それとも赤い実だろうか。どちらの姿にしても美しいと私は思う。キノコバエと同じように、気が付くと私は、森の中で一際目を引く植物に魅せられ、すっかりトラップにかかってしまったようだ。トラップにかかったキノコバエと私を見て、作戦通りと彼女たちは笑っているのだろうか。きっとこのトラップからは逃げられない。
赤くなり始めたテンナンショウの実 2012.10.15 アファンの森
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