知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

著作権保護期間の満了日の解釈-文化庁の意見を信頼して、法律の錯誤に陥った場合

2007-04-08 11:52:43 | Weblog
事件番号 平成18(ネ)10078
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成19年03月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一
重要度 ☆☆

法律の錯誤のうちの「あてはめの錯誤」で公的機関の意見を信頼した場合

控訴人らは,法の専門的知識を有しない多くの映画ビジネスに従事する者からすれば,条文についてのコメントや解説が所管官庁である文化庁から明示的に示されている場合には,かかるコメントや解説に信頼を寄せてビジネスを行うことは当然のことであるところ,文化庁は,本件改正法成立直後から,各種の文献や雑誌等で,本件改正法附則2条により,昭和28年に公表された映画は改正著作権法54条1項の規定の適用を受け,保護期間が20年延長されたものである旨の説明を行っていたから,映画ビジネスに従事する者にとって,実質的な立法者である文化庁の上記説明は,今後の企業の経営方針を決めるに当たってのいわば唯一の指標となるともいい得るのであって,控訴人らのみならず,昭和28年に公表された映画の著作物の著作権者,独占的ライセンシー等,多数の映画ビジネスに従事する者が改正著作権法54条1項の規定の適用対象となる旨の文化庁の見解を信頼してビジネス展開していたのであり,映画ビジネスの円滑な遂行や取引安全という見地から,こうした関係者の信頼は法的に保護されなければならないと主張する
確かに,文化庁長官官房著作権課「解説著作権法の一部を改正する法律について」(コピライト2003.8,甲7),E(元文化庁次長)「著作権法逐条講義五訂新版」(甲27),文化庁長官官房著作権課「著作権テキスト~初めて学ぶ人のために~平成17年度」(甲28),H(文化庁著作権課著作権調査官)「解説著作権法の一部改正について」(視聴覚教育2003.9,甲63),文化庁著作権課「著作権法の一部を改正する法律の概要」(NBLNo.765(2003.7.15),甲66の2),H(文化庁著作権課著作権調査官)「著作権法の一部を改正する法律」(法令解説資料総覧263号,甲66の3),同「政府の「知的財産戦略」推進のための著作権法改正」(時の法令1712号,甲66の5),文化庁「著作権法入門(平成16年版)」(甲66の6),I(弁護士)「著作権法(第2版)」(甲66の7)には,昭和28年に公表された映画が改正著作権法54条1項の規定の適用を受け,保護期間が20年延長されたとの記載がされていることが認められる。しかしながら,これらの大半は,所管官庁である文化庁又はその関係者の見解を示したものであるというにとどまるのであって,このことをもって,本件改正法が施行された平成16年1月1日において,既に消滅している昭和28年に公表された映画の著作物の著作権の存続期間が20年延長されると解する根拠ということはできない。なお,同様に,甲54ないし58,62,65の1ないし26によれば,平成15年6月13日付(一部は同月16日付)の地方新聞や業界新聞等に,映画の著作物の著作権保護期間が延長される契機となったのは「東京物語」であること,同月12日に成立した本件改正法により,「東京物語」等の昭和28年に公表された映画の著作物の著作権保護期間が20年間延長されることなどが記載されていることが認められるが,このことをもって,本件改正法が施行された平成16年1月1日において,既に消滅している昭和28年に公表された映画の著作物の著作権の存続期間が20年延長されると解する根拠ということもできない。

 そして,改正著作権法54条1項の規定は,映画の著作物の保護期間を公表後50年から70年に延長するものであって,その適用があるか否かにより,著作物を自由に利用できる期間が大きく相違する上,著作権の侵害行為に対しては,民事上の差止めや損害賠償の対象となるほか,刑事罰の対象ともなるのであるから,改正著作権法54条1項の規定の適用の有無は文理上明確でなければならないというべきである。
 上記(3)のとおり,本件改正法附則2条は,その施行日である平成16年1月1日において,改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について改正著作権法54条1項の規定を適用し,改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については改正著作権法54条1項の規定を適用しないものとしたものであって,昭和28年に公表された映画の著作物の著作権は本件改正法が施行された平成16年1月1日において既に消滅しているから,昭和28年に公表された映画の著作物について,改正著作権法54条1項の規定が適用されないことは文理上明らかである


 そうであれば,文理に反した文化庁の見解を信じた関係者があるとしても,そのために将来にわたり文化庁の見解に沿った運用をすることは,かえって,法律に対する信頼を損なうこととなってしまって,妥当でない

(エ) したがって,本件映画は,平成16年1月1日午前零時の直前まで保護期間が継続し,平成16年1月1日午前零時以降,本件改正法附則2条により新たに改正著作権法54条1項の適用を受けるとする控訴人らの主張は,採用することができない。

2 以上のとおりであって,本件映画の著作権は,平成15年12月31日の終了をもって,存続期間の満了により消滅したから,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人らの請求は理由がない。』

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