知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

他人の名称を含む商標を出願する場合の他人の承諾の有無

2007-04-05 07:30:29 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10525
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官篠原勝美


本願商標は,前記第2の1のとおり,「MEN-TSEE-KHANG」の名称(本件名称),すなわち,他人の名称をその構成中に含む商標である。商標法4条1項8号は,商標登録を受けることができない商標として,「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」と規定しているから,他人の名称を含む商標は,括弧書にいう当該他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができない。本件において,本願商標の構成中に含まれる「MEN-TSEE-KHANG」の文字は,Men-Tsee-Khangの名称をすべて大文字にした以外は同一であるから,前記(1)認定の事実によれば,上記「他人」とは,1860年インド団体登録法に基づき登録された福祉・文化・教育機関であり,また,1961年インド所得税法に基づき登録され,インド及びダラムサラの中央チベット行政府(C.T.A)の厚生省による統制の下に多数の職員を擁し,理事会により運営されている団体としてのMen-Tsee-Khangである。したがって,本願商標は,Men-Tsee-Khangの承諾を得ていなければ,商標登録を受けることはできないことが明らかである。』


『Men-Tsee-Khangが日本において単独でMen-Tsee-Khangに係る標章について商標登録出願をすることが不可能であれば,登録手続を進める意思がないとしているのである。したがって,Men-Tsee-Khangは,本件出願時から審決時に至るまで,原告に対して,本件名称を構成中に含む本願商標の商標登録出願(本件出願)をすることについて承諾していないのみならず,むしろ,拒絶していたものと認められる。』


『(4) 原告は,原告とMen-Tsee-Khangとが,ハーブ製品の輸入,製造販売について共同作業を行っている場合,Men-Tsee-Khangの承諾の度合いの吟味が必要であるとした上,前記(1)ウ及びエの事実を総合すると,11月30日付け書簡は,「過去,自らの立場における関心を示したのみで,現在それが不可能であれば,我々はそれらにかかわる立場にもなく将来にわたり関与しない」という趣旨のものであって,原告にいかなる承認もしないとは述べておらず,むしろ,原告に対して大幅な委任をしているものと解釈することができる旨主張する。

 しかし,商標法4条1項8号にいう「他人の承諾」は,それがあるか否かであって,承諾の度合いという,承諾に至る段階的な経過を論ずる余地はない
 商標法4条1項8号の趣旨は,肖像,氏名等に関する他人の人格的利益を保護することにあると解され,したがって,同号本文に該当する商標につき商標登録を受けようとする者は,他人の人格的利益を害することがないよう,自らの責任において当該他人の承諾を確保しておくべきものと解すべきであるから(最高裁平成16年6月8日第三小法廷判決・判時1867号108頁参照),原告は,本件出願に当たり,Men-Tsee-Khangの確定的な承諾を得ていることが必要であって,仮に,原告とMen-Tsee-Khangとが,ハーブ製品の輸入,製造販売について共同作業を行っているとの事情があり,あるいは,原告がMen-Tsee-Khangに上記承諾を与えるように交渉中であったとしても,Men-Tsee-Khangの確定的な承諾がない限り,商標法4条1項8号の括弧書にいう当該他人の承諾を得ていたものと認めることはできない

 原告の主張は,前記(1)コの書簡中の「我々は本件について更に手続を進める意思はありません。」の記載を,Men-Tsee-Khang自身が手続を進める意思がないというだけであり,手続を原告に委ねたと解すべきことをいうものであるが,その直後の,「あなたの親切なご協力に感謝するとともに,お手数をおかけしたことを残念に思います。」との記載を併せ読めば,これ以上原告を煩わせないとの趣旨にほかならないから,手続を原告に委ねたと解する余地はない。』

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