のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『国立ロシア美術館展』2

2008-01-07 | 展覧会
1/3の続きでございます。

レーピン。
レーピン。
おお。
ヴォルガの船曳きのレーピン。
イワン雷帝とその息子のレーピンでございますよ!
やっほう!

来ているのはてっきりチラシに載っている1点だけなのかと思いましたが
何とまあ、大小とりまぜて10点も展示されておりました。
ワタクシ実物のレーピン作品を見るのは初めてだったのでございます。
意外にストロークが大きいんでございますね、
細かく細かく筆を重ねてあのようにリアルな表現を達成しているのかと思いきや。
肖像画の目元口元などは実際、細かいんでございますが
所々にべラスケスのような荒めのタッチを用いておられました。
それでもって対象のかたちや質感を見事に再現しているというのは、画家の技量の高さを物語るものでございます。
そんな技量の高さはもとより、人間を内面から描こうとするような画家のまなざしがいっそう心に滲みました。
とりわけ印象深かったのはこの作品でございます。


©The State Russian Museum 2007-2008

両手を前で組み、かかとをきちんと揃え、夢見るような眼差しをこちらに向けている青年は
ロシア最後の皇帝、ニコライ2世でございます。
身につけている衣服も、おだやかに陽の射す室内も、高級という言葉をつかうものあほらしいほど高級感に満ちあふれておりますが
この絵には「皇帝の偉容を讃える」といった仰々しい雰囲気は全くございません。
見る者を圧する堂々とした威光も、うそくさい慈愛の微笑みも、レーピンは描きませんでした。
そのかわり、世間ずれしていない一人の人間の姿を、皮肉も誇張もない誠実な筆で描いております。
絵の中の皇帝は、ごく静的なポーズにもかかわらず、血が通ってるように生き生きとしております。
その表情からも、ポーズからも、温厚で誠実だったというニコライ2世の人柄がしのばれるではございませんか。
さらに背景と床の正確な空間表現によって、額縁の向こうにそのまま3次元の空間が広がっているかのような現実感がかもし出され
皇帝は今にも組んだ手をほどいて、額縁から外へ一歩を踏み出して来そうなのでございました。

とまあ
のろは他の何よりもレーピン作品に心うたれたのでございますが
展示されている作品はどれも素晴らしいものでございました。
ボロボロの服をまとった孤児たちの姿。含みのありそうな笑みを口元に浮かべた、大理石のエカチェリーナ2世像。
絵の前に立っていると、しんしんと冷たい、湿り気を帯びた空気が鑑賞者の肺まで届きそうな、冬の森の風景。

浅学の恥をかえりみず白状いたしますればのろはロシア絵画に対して、甚だ偏ったイメージを持っておりました。
ひたすら質感の再現と室内風景の描写を煮詰めて行ったものであり、他のヨーロッパ諸国と比べて
あまり目立った動き(時代的変遷)がないもの、ぶっちゃけて申せば面白みがないものと思っていたのでございます。
お恥ずかしいかぎりでございます。
本展のおかげでこの偏見は大いに矯正されました。

また来てねロシア!
待ってるよロシア!
エルミタージュにはきっといつか行くからね!
レンブラント見にだけど。