春だよ春だよ どっからどう見ても!
コートは押入れに詰め込んで
明るい花柄のスウェーターで
街を歩くトメ。
晴れ晴れと美しかろう美しかろう!
チラホラと羨望のまなざしを感じながら
3歩 歩いて♪ 2歩 さがる♪
いかんいかん!
コレじゃいつまでたっても目的地の
美容院へは着かんぞよ!
3歩進んで2歩進む♪
これじゃただの徒歩じゃないか!
ま よかろう。
あドッコイ やれヨッコラ!
おお~ 到着!
やって参りやした!
今日は 開拓デーじゃ!
噂のカニカマ美容師のおる店らしいぞ。
突撃!カニカマ美容院!
ウヒッ! 困らせてやる!
・・・・・・・・・
カニカマ美容師
「いらっしゃいませ!
今日はどうなさいますか?」
トメ
「どうなさいますかって ああた
そう あいまいな質問されてもねえ。」
カニカマ美容師
「あ!失礼しました。(うるさそうなばあさんだな)
カットですか?
パーマですか?
セットですか?
それとも 白髪染め?(どれやったって同じだよ)」
トメ
「季節は春だよん!
サッパリと切っとくれ!
ローマの休日の
オードリーヘップパーンみたいによ!
白髪染めはね あたしゃビゲンで
シャシャット自分染めだよ。ビゲンの4G。」
カニカマ美容師
「かしこまりました。(どおりで染めムラひどすぎる)
それでは カットいたしましょうか。」
トメ
「あんた 若いけど 大丈夫なの?
カットの腕は信用できるんかいな。え~っ?」
カニカマ美容師
「私 店長です!(失礼なばあさんだな)」
トメ
「あら そう。
お手並み拝見ってとこだね。」
カニカマ美容師
「髪の毛 くせ毛なんですね。(扱いにくい髪だよ)」
トメ
「おや? 今 一瞬
やだなあ~ くせ毛の客はって顔したろ?」
カニカマ美容師
「と とんでもありません!(図星!危ねえ危ねえ!)
では・・・・・ちょっと髪を濡らして
シュ~シュ~・・・・」
トメ
「あ~~ 久しぶりの美容院で
なんだかいい気持ちになっちゃったよお・・
一眠りしちゃうか・・・ウトウト・・ムギュギュ・・・
グウヲ~・・ガ~~~~・・」
・・・・・・・・・・・・
カニカマ美容師
「寝ちゃったよ。・・・・ブサイクな顔で・・
そうだ
ゆみチャンゆみチャン!
おいでおいで!
ちょうどいい練習になるから
ちょっと切ってみな。
どうやっても仕上がりはバアサンなんだから。
俺 予約入ってるからさ。
ゆみちゃんにばあさん任せたよ。
思い切って短くやっちまいな!」
ゆみ
「え~? いいんですかあ?
うんと思い切って短く?
まだシャンプーばっかで
お客様のカットやったことないんですけど
いいんですか~ 店長」
カニカマ美容師
「うちのお客さんでこのばあさん最高齢だよ、
見てみなよ このシワとシミ。はんぱね~よ。
ゆみちゃんも
こんなチャンスめったにないんだから
捨てる直前のマネキンと思って
ザクザク思い切ってやってみなよ」
ゆみチャン
「は~い!やっちゃいます!
・・・・・どっからいこうかな。
・・・ザ・・・」
トメ・・・パチリ。 覚醒。ギロリ。
トメ
「こんなことじゃないかと思ってたよ!!
どうなってんだ!この店はあ~!!」
ゆみチャン
「ひえ~っ!! ててて 店長!」
カニカマ店長
「どしたどした? あ それからどした?
うわ~ ばあさん 生き返ってる!
じゃない 起きてる!」
トメ
「ああたね!ひどい仕打ちじゃないか!
年寄りを
まるで化石みたいに扱いやがって
適当に見習いに切らせて
金貰おうって魂胆だにゃ!」
カニカマ美容師
「あ・・・・申し訳ありません。そんなつもりでは・・
(なんて ばあさんなんだ・・只者じゃない)」
トメ
「ああたね!こりゃあ人権問題だよ!
こんな商売してちゃあ・・・
たいへんなことになっちまうよ!
消費者生活センター・・・・・訴訟・・・弁護士・・マスコミ・・」
カニカマ美容師
「今日のところは ど どうぞ ご勘弁を。。」
トメ
「困ったことになっちまったね・・
・・・・・・・んん・・・
・・・・・・・・
ま こりゃあ あくまでも妥協案なんだけんど」
カニカマ美容師
「な なんでしょうか。。是非その妥協案を・・」
トメ
「んんん・・・まあね 聞き流してもいいんだよ。
あのね よくタレントさんが
サラサラの髪をなびかせてるよね。
なんか・・ストレートパーマってのが
あるらしいねえ。
あたしもね ほらあんたの嫌味なご指摘のように
くせっ毛だろ。
一度ね そのストレートパーマっていうの?
やってみたいなあ・・なんてね
思ってたわけなんだにゃ。以前からあ・・
ただねえ・・・こりゃ 高いんだよねえ。
なかなか こんな年金暮らしのばあさんじゃ・・ね・・」
カニカマ美容師
「お話をまとめますと
このトラブルの解決方法は・・
ストレートパーマ 略してストパーを
無料でやればお許しいただけると・・・・
こういうことではないですか?」
トメ
「・・・・・・・・はい。イカガざんしょ。オホッ。」
カニカマ美容師
「その・・そのお顔に 敢えて 敢えての
ストパーをやりたいと?」
トメ
「・・・・・・・・・はい。ドウざんしょ。ウホッ。」
カニカマ美容師
「・・わかりました。 やりましょう!
カニカマの私も 高齢者ストパーチャレンジャーの
応援をさせていただきましょう!
(これで済むなら安いもんだ)」
トメ
「いやね 最初からそんなつもりじゃ
なかったんだよお・・ ま 成り行きでね・・・」
カニカマ美容師
「(最初から狙ってたんだろう・・このばあさんなら
やりかねない)
わかっておりますわかっております。」
・・・・・・・
ストパー開始。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
かなりの時間を要す。
・・・・・・・・・
カニカマ美容師
「お客様。出来上がりました。
いかがでしょうか?(こりゃ凄いや)」
トメ
「・・・・・・・・・・(呆然)。」
カニカマ美容師
「有難うございました!申し訳ありませんでした。
またお越し下さい。(二度とくるな!)」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
トメ店を出る。
トボトボトボ・・・。
3歩 歩いて 立ち止まる。
・・・・・・
・・・・・・
ど どうしよう・・
カツラをのっけたカッパに
なっちまった・・
年取ったワカメちゃんじゃないか!
サラサラの髪に
シワシワシミシミの顔
ここまで不釣合いだとは
予想だにせんかった・・
鏡を見たとき 正直
(誰だ!こいつは!)と思うてしもうた・・
ショック大なり。
予想外の想定外の500メートル外。
トメとしたことが
考えに甘さがあった・・
いくらなんでも
ここまでとは・・・とほほのほ。
早く帽子を買ってかぶらねば!
このままだと ああた
お心が遠くへいっちまっとるばあさんに見えちまうよ。
じゃりんこばあさんになっちまうよ。
近所の飲んだくれの定吉に見つかったら
たたた大変でごじゃる!
なんと言われるかわかったもんじゃねえ。
タダの怖さを このトメ35歳にして(ウソつけ!)
初めて知ったぞなもし・・・ククク~~(涙)
どうぞ どうぞ 今しばらく
そんじょそこらの皆さま
このトメを直視しないでおくんなまし。
そっと そっとしといておくれ。
・・・・・・
え~っ?髪を短か~く切れば済むってか?
ば~か!
似合ってても似合ってなくても
ストパーをかけたこのひと時を
泣きながらでも
後悔しながらでも
楽しみたいんじゃよ!
ストパーの経験あり!このトメ。
ここんとこが!
自慢のしどころなんじゃよ!
それが ウホッ! 女心なんじゃよ。
end