NICO Touches the Walls「HUMANIA」全曲レビューその3「バイシクル」です。
3.バイシクル
ドラマ主題歌になった事もあり、今作の中でも特にキャッチーに作られた節のある「バイシクル」。
若々しい疾走感に加えて雄大なメロディも光っている地に足のついたキラーチューン、と言った印象で
ただ単に勢い任せではなくしっかりとメロディを練り込んで制作されたんだな、って
そんな風に思えるのが何よりNICOらしいですね。
ただ爽やかなだけでは当然物足りないので
要所要所でそれだけでは済まされない奥深さが付随してるのがやはり光村マジック、と言った所でしょうか。
特にサビの解放感と声の太さとの調和は半端ではないくらい気持ちが良くて
初めから名曲にすることを見据えて作られたんじゃないのか、ってほど堂々とした芯の太いナンバーで。
新たな代表曲の一つになり得る曲だと思いますね。
人間は知識や経験を得る度に変な達観が付いたり、臆病になったり、慎重になり過ぎたり
悪い意味で素直さや純真さがどんどん欠けていく
賢くなるのは賢くなるのでいいんだけど
その分純粋に気持ち良い、って思える事もどんどん失っていく訳で、
そんな自分に対してのアンチソングにもなってて。
何もかも忘れて、何もかも外して、もう一度だけ頭の中を空っぽにして。遠い白に近づく作業の一環。
それは傍目から見れば滑稽かもしれませんが、滑稽って言うのは人間らしさの証拠でもある。
少なくともガチガチに鎖で縛るよりは全然人間らしい生き方だとも思う訳で。
そういう気持ちを思い起こさせてくれる新しい名曲、って感じで個人的にもお気に入りの一曲ですね。
【隣の芝生はいつだって青くて いったい何の罰が当たってこんな惨めな気分になるの】
自分らしさを貫いて生きてきたら
自分らしさによって逆に苦しい気持ちになっていた。
あくまで望んだ風に生きてる筈なのに
他人の方が正しく思えたり
他人の方が恵まれてるように感じたり
そんな不安や不満を数えたらキリがなくて、時々本気で他人を羨ましく思う時がある。
誰々のようになれたら、だとかね。でもそんな自分は結局捨てれない訳で
ますます隣の芝生が青くなるばかりの日々を悶々と過さざるを得ない。
【神様僕はここにいますが 僕の悲鳴に気づいてますか?】
誰の所為にも出来ない日々は
必然的に何かの祟りか誰かの呪いか
でも
頑張っても頑張っても大して報われないのであれば
そういったものの所為にしたくなる気も分かるよなあ、って。
それで何かがどうなるわけでもないけれど
誰にも伝わらない心の悲鳴として。
そんな切実な嘆きが伝わってくる改心のフレーズだと思います。
【ペダルを漕いでるうちは 倒れず前へ進むでしょう】
ただ、そうやってボロボロになってもブレーキが軋む音を上げてもチェーンが外れたとしても
ペダルを漕いでいる限り、少しでも頑張っている限り、倒れないのもまた事実で。
壊れた部分は直せば良い
風が強くても諦めなけば前に進む仕組みになっている。
経験を積んで臆病になったとしたなら
少しでもその仕組みを思い出して、その度にゼロになればいい。余計な知識なんて足かせになるだけ。
だから、生きることだけは、生活することだけは諦めないで、と。時計の針は止めずに、
一歩でもいいから前に進む方法を選択するだけ。
選択してる内は、倒れることはないから。という視点を変えた見方に一つ学ばされる一曲ですね。
余談ですけど、歌詞の内容を追って行く限り、青春時代特有の青臭さがあるというか
それこそ青春映画のワンシーンを彷彿させるような描写の妙があって。
初期は渋さや完成された格好良さを押し出してたけど
こうやってちょっと甘酸っぱい勢いのあるロックチューンを思いっきり奏でられるようになった辺り
またバンドとしての一つの成長を感じましたね。今までのこの系統の楽曲と比べても全然振り切れてるな、と。
ライブでも聴きましたが、これ丁寧なメロディーラインが肝な楽曲なのに
思った以上に盛り上がりが凄くてビックリしました(笑)。
楽曲のスケール感がそのままライブの爽快感に繋がってる印象で、
大きいハコで演奏するのがホント似合ってる曲だと感じましたね。声の広がり具合も流石でした。