おかまのよろめき

現役おかまのお店日記&趣味のはなし

フミ子の涙

2013-07-18 19:43:50 | Weblog
フミ子が泣いていた

キャッチ中の私は枯れた女の声が遠くから聞こえて来た瞬間

すぐにフミ子だと判った

50メートル先に見える人影は2人分

フミ子が寄り添ってたのはタマちゃんだった

二人は行きつけの立ち飲み酒場で意気投合したらしい


フミ子の話はいつも同じだ

惚れた男はヤクザで浮気者だ

頼もしいのは見た目だけで単なるヤンチャ坊主

淋しがり屋で夢見る夢子のフミ子はそんな男に優しさと包容力を求めたが

男には無理な注文だった

「アイツがまた他所に女を作って帰って来ないわ」

何度聞いた台詞だろう

17の娘と暮らすフミ子のアパートに男は都合の良い時だけ転がり込むのだ

決して夫婦の契りを結んだ訳ではない

ヤクザに家庭は要らないが持論の男だったが

40を過ぎて一匹狼にもヤキがまわった様で

温かい団欒に憧れたのか

フミ子のアパートをしばらく家庭とした様だ

帰る家は私の懐と思いながらも嫉妬心の強いフミ子は

常に男に纏わり付く女の影に苛立ちを隠せなかった

何度、男を罵ったか分からない

その都度、男に殴られた


昨夜のフミ子はそれでも男を愛してたと目頭を押さえる

「アイツの荷物は相手の家に送ったわ」

男は遠い場所に女を作り出て行った

女の住む所にここよりも温かい団欒があるのだろうか

きっとその女も私と同じだろう

フミ子がタンスの中に一枚だけ残した男のセーター

娘と3人で温泉に行った時に着ていたものだ

「あれが一番楽しい思い出だったわ」

タマちゃんは横で船を漕いでいる

フミ子は鼻をすすって濃いめの焼酎をあおるのだった
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