Ｓさん

昨夜は久々のお客様がフラッと遊びに来てくれた

開店準備を終えて店前に立っていると

向かいの店のママが地下から上がって来た

「今夜は暇ね～
　
　チーフとお喋りするのも飽きたから

　外の空気を吸いに来たわ

　昨日は忙しかったんだけどね～」

チーフが入店してから、こうしてママと話すのも久し振りだ

井戸端会議が大好きなママは

オカマと近隣のお店の噂話をするのが日課だったが

最近ではママの店に早い時間からお客様がみえるので

中々私たちとお喋りする機会がなかった

何か面白い話はないかしらとやって来たのだ

しかし通りの向こうから私がお客様の顔を見つけて

「あらＳちゃんじゃないの、久し振りじゃない」

と声をかけたのでガッカリしてまた下へ降りて行った


Ｓさんは今年の夏前に集中しておみえになっていた

それこそ連日のご来店だった

地元の小、中学校出身で

ヤンチャな昔話をよく聞かせて貰っていた

それだけなら一般のお客様と変わらないのだが

彼には何故か暗い影を感じるのだ

会話の中に、時おり精神的に病んでいる部分が顔を出す

きっと日常の中で大きなストレスを抱えているのか

或いはコレまでの人生で人に言えない心の傷を負っているのだろう

何となく後者のような気がするのだが

オカマと話していると気が晴れるらしく

閉店時間になっても中々帰ろうとしないのだ


この夜は私とマヤの２人体制で

Ｓさんも楽しそうだった

途中で偶然にも昔の顔馴染みが来店して

懐かしい話に花が咲いたが

どうやらＳさんには死亡説が流れていたらしい

一体何故そんな事になったのか理由は明かされなかったが

そう言えば以前Ｓさんが来店した時にも

それらしい話はしていたと記憶している

もしかしたら彼の暗い影の部分は

そこに原因があるのではないかと思う

彼がプッツリ来店しなくなって

もしかしたらウツになったのではないかと心配した

人には誰にも言えない悩みがある

何処かで発散して束の間でもそれを忘れられたら…


今夜もＳさんは遊びに来ると約束してくれた

心の闇から少しでも離れられるよう

お手伝いできれば良いのだが