あなたと夜と音楽と

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( by 後藤 純一/めるがっぱ )

須田ノート:他山の石

2010年09月20日 18時30分59秒 | Weblog
 今から60年ほど前の美術全集の一冊に、「法観寺塔婆」の
解説が載っている。

 「聳え立つ樹木の垂直線の林立する画面に、
  わずかにそりをもった塔の屋根の水平線が
  重ねられ、曲線は一本の枝のうねりに
  効かせているだけであって、全体が黒褐色の
  静かな深い調子の中にあって、色彩は
  きわめて寡黙をまもっている。」

 格調の高い文章だが、この中には致命的な間違いがある。
お分かりだろうか。
「法観寺塔婆」には「樹木」は一本も描かれておらず、
「枝」も画面には見当たらない。垂直線を乱立して
描かれているのは電信柱であり、曲線をうねらせているのは
電灯の金具なのだ。

 筆者は文章を書く際、印象の記憶だけに頼って、
画面を確認しなかったのだろう。印象は時に
自分の見たい画面を作ってしまう。絵から受ける
印象を大事にしながら、画面への視線との
キャッチボールを繰り返すことが大事だという、
良い例である。
「須田国太郎」を書いて、同じ間違いをしていないだろうか。
以って他山の石とすべきだろう。