梅内美華子第6歌集 短歌研究社 2016年9月刊
かりん編集委員梅内さんには校正やネット歌会の助言などでお世話になっている。薄地なのに引っ張りに強い素材、例えば蜘蛛の卵嚢、いやたとえが悪いか、うーん、菓子やお弁当をくるんでいる和紙のような化繊のような包装紙(これもあまり良い比喩ではないが)のようにきれいなのに強靭で、内に哀しみ、悲しみ、世に怒るもの、濃密なるものなどを包み込んでいる清々しい歌集である。
ふたご座の流星探す冬の夜に受精せし卵どこかに震ふ
うつしみは精肉売り場に漂へる漂白剤のにほひに冷ゆる
ワイシャツを胞衣(えな)のごとくに抱えつつ男ら並ぶクリーニング店
舞ふまへの爪先ほぐし白妙の大切なふくろの足袋に入れゆく
さくらの日深爪をしてしまひたり心に何人も人が来るゆゑ
海面の揺れるがままに波に乗る鴎ら ひとりは軽くてにがいよ
勝手に一人で傷ついちやつてと風が吹く風は銀河を見にゆくといふ
蔦の葉のすきまにのぞく白壁のやうにしばらく眠つていたい
グランド・ゼロより光の塔が伸び素粒子のなかに泣きゐる人ら
負け馬の尻尾でありし黒垂(くろたれ)はつやつやとして能舞台あゆむ
かたむきてボタンの穴をくぐりたるボタンのやうなかなしみに居る
頬そげて菊池直子のあらはれぬ真面目に働き愛守りしと
銀色のボウルに豆腐おろすとき張りたる水はなめらかに抱く
及び腰の小さな恐竜食つてやらう強き雨ふる梅雨の今宵に
東電に勤めて長く帰らざる夫待つ友 銃後といはなく
もう一枚巣を張るために飛んでゆく小さき袋の蜘蛛のからだが
能面の内より見る世はせまく細くただ真つ直ぐに歩めよといふ
ほの暗き腋は植物にもありて葉腋に咲く金木犀の香
かりん編集委員梅内さんには校正やネット歌会の助言などでお世話になっている。薄地なのに引っ張りに強い素材、例えば蜘蛛の卵嚢、いやたとえが悪いか、うーん、菓子やお弁当をくるんでいる和紙のような化繊のような包装紙(これもあまり良い比喩ではないが)のようにきれいなのに強靭で、内に哀しみ、悲しみ、世に怒るもの、濃密なるものなどを包み込んでいる清々しい歌集である。
ふたご座の流星探す冬の夜に受精せし卵どこかに震ふ
うつしみは精肉売り場に漂へる漂白剤のにほひに冷ゆる
ワイシャツを胞衣(えな)のごとくに抱えつつ男ら並ぶクリーニング店
舞ふまへの爪先ほぐし白妙の大切なふくろの足袋に入れゆく
さくらの日深爪をしてしまひたり心に何人も人が来るゆゑ
海面の揺れるがままに波に乗る鴎ら ひとりは軽くてにがいよ
勝手に一人で傷ついちやつてと風が吹く風は銀河を見にゆくといふ
蔦の葉のすきまにのぞく白壁のやうにしばらく眠つていたい
グランド・ゼロより光の塔が伸び素粒子のなかに泣きゐる人ら
負け馬の尻尾でありし黒垂(くろたれ)はつやつやとして能舞台あゆむ
かたむきてボタンの穴をくぐりたるボタンのやうなかなしみに居る
頬そげて菊池直子のあらはれぬ真面目に働き愛守りしと
銀色のボウルに豆腐おろすとき張りたる水はなめらかに抱く
及び腰の小さな恐竜食つてやらう強き雨ふる梅雨の今宵に
東電に勤めて長く帰らざる夫待つ友 銃後といはなく
もう一枚巣を張るために飛んでゆく小さき袋の蜘蛛のからだが
能面の内より見る世はせまく細くただ真つ直ぐに歩めよといふ
ほの暗き腋は植物にもありて葉腋に咲く金木犀の香