ヤングライオン通信

ocnブログから引っ越してきました。

ザ・コンサルタント

2017-01-30 14:53:55 | 映画
さあ、暇な時間があるとお腹がすいてしまう。

どんどん映画を観ていこう。


「ザ・コンサルタント」

予備知識はほとんどなかったが、評判が良かったので飛び込んでみた。





会計士クリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)は、とある企業の財務調査を引き受ける。
その中で大きな不正を発見した彼は、それを明らかにすると会社側からすぐに依頼を打ち切られてしまった。

納得のいかない彼だったが、その日から何者かに命を狙われることになる。

しかし、彼は片田舎のしがない会計士という表の顔とは別に、闇社会の裏帳簿を切り盛りし、さらには凄腕の殺し屋という顔を持っていた。

彼の反撃が始まる。




いろいろな伏線が張ってあり、ミステリとしての要素が大きい作品なのであまり内容に触れられないのが残念だが、とても面白い映画だと思う。

この場合の「面白い」は、どちらかというと「興味深い」に近いかも知れない。



巨悪に立ち向かう正義の味方…という構成とは明らかに違う。

全体の雰囲気はデンゼル・ワシントンの「イコライザー」に似ていると言えば似ている。

主人公は「正義の味方」ではないし、結果として敵は「巨悪」でもない。

カッコいいというよりは、「こんな野暮ったい感じなのにすごい」という感じ。



あちこちに張られた伏線がラストに向けて回収されていくくだりはニヤリとさせられる。
その伏線がかなり暗示的にボンヤリと示されるものが多いので、一瞬何のことか分からない。
また、登場人物の過去や因縁、主人公の正体がはっきりするまでの時間がかかり過ぎることもあって、最初はワクワクしているが途中でどうでも良くなってしまう辺りは難点か。

正直、すべての辻褄合わせに合点がいくという訳でもない。


好みは分かれる映画だとは思うが、惹き込まれている内にあっという間に時間が過ぎる。


多少のネタバレ覚悟で言うなら、

「その役、悪人顔のジョン・リスゴーをわざわざ当てるってどうなの?」



もう一度、伏線の辺りを確認したくなる映画。



オススメ度:82点











アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場

2017-01-29 15:27:19 | 映画

昨年末のお休みに入ってから、人生何度目かのダイエットをスタート。

ストレスが溜まるほど食べてしまう私の習性上、この期を逃すとまずいと思い、正月の間、かなりハードに頑張っていた。

メインはジョギングと炭水化物のカット。

薄々感じていたことではあるが、年齢を重ねて間違いなく代謝が減少している。
ちょっとやそっとの努力では体重が減っていかない。

過去の大ダイエットの経験上、継続に大事なことは「明らかに体重計の目盛りが減っていくこと」と認識している私にとっては、この報われない努力程辛いものはない。

自慢じゃないが、こういう時の私の集中力はすごい。
そして、結果を出すためのメニューへ躊躇なくシフトしていくことになる。

今現在、最低でも週5日はゆっくりだが10キロ以上のランを自らに課している。
この距離だと1時間30分~2時間が必要なため、生活時間のいろいろを切り詰めた。

下手をすれば毎日運動部の練習に追われている高校生よりも走っている。

そして、ここに来てようやく結果が出始めた。

まだ頑張れるぞ。



新年2本目は「アイ・イン・ザ・スカイ」。

公開前から興味はあったものの、上映館が少なくて思い切れなかった。

ちょうど近くに用事があったので鑑賞。結構混んでいた。





イギリスとアメリカの合同軍事作戦中、ケニアのナイロビで自爆テロ計画の情報が入って来る。
キャサリン・パウウェル大佐(ヘレン・ミレン)は、ドローンを使ってテログループのアジトを確認。
彼らが今まさにテロに向かうべく自爆用のベストを準備して装着しているところを見て、大佐はこの家をドローンからのミサイル攻撃で爆破する指令を出そうとするが、イギリス・アメリカ両国上層部の政治的立場や思惑の違いからすぐに許可が下りない。

そうしているうちに、その家のすぐ外の路上でパンを売る少女が現れる。
テロが実行されれば少なくとも数十名の死傷者が出る。しかし、いまここで爆撃をすれば少女の命が危険にさらされる。

様々な葛藤の末、ついに決断の時がやってくる。






大きな軸としては上記のとおり「これから失われるだろう大勢の命か、目の前の1人の命か」という選択の物語。

ただ、それに伴う環境が現代はここまで良くも悪くも進んでしまったということを皮肉に描いている。

現場であるナイロビでこの作戦に当たっている兵士は2~3名。

そこではまさに命をかけた攻防が行われているが、軍や政府の上層部はもちろん、指揮者や攻撃するドローンのパイロットでさえ、現地から何千キロと離れた基地の中にいる。

人の生死がモニターの映像やパソコン上の数値で表示され、その価値は強国の政治的判断が握っているという現実。




映画の最後にベンソン中将(アラン・リックマン)によって、この現状への憂いとも嘆きとも言い訳とも取れる発言で幕を閉じるが、おそらくこの流れは加速していき、他国における生命の価値はますます小さくなっていくのだろう。

登場する政治家たちがまず繰り返した「ここで自国民を死なせたら、国民が納得しない」というセリフが、すでに人間の価値を自分の立場で値踏みしていることも重く伝わってくる。



もちろんこの世界には憎むべき行為に及ぶ人間は存在する。彼らを強制的に排除することが必要なことも分かる。
とはいえ、生命の重さが「一般市民>テロへの協力者>テロの首謀者」と一元的に語られてしまうことの違和感も感じてしまう。


高度に進化したドローンの性能に、喜んでいる場合ではない。

映画は多くの疑問を投げかけて静かに終わっていく。

今回もなかなかに重い作品。



オススメ度:78点








沈黙 サイレンス

2017-01-26 19:00:06 | 映画
随分とご無沙汰してしまった。

年が明けてからナンダカンダと忙しい。


そんな中、国内の映画賞が次々と発表されている。
私の好きな映画が高く評価されているのを見るのは嬉しいものだ。

「この世界の片隅に」なんて、少ない上映館でスタートし、相変わらず大手メディアがほぼスルーしている中でしっかり賞も獲得。
ロングランの大成功作に成長してくれた。


今年初の作品は「沈黙 サイレンス」。
原作の小説も知らないし、上映時間が3時間弱ということであまり気にはしていなかったが、評判が良いので観ることにした。

観客は私含めて3名。
閉館の決まった映画館はどんどん寂しくなっていくということか。





江戸時代初頭。

若き宣教師ロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライバー)は、自らがかつて教えを受けた恩師フェレイラ(リーアム・ニーソン)が日本でキリスト教の弾圧に遭い、棄教したという情報の真相を探るべく、日本人の信徒キチジロー(窪塚洋介)の案内で長崎へやって来る。

山中の村では、幕府による弾圧から身を隠しながら切支丹たちが生活していた。

宣教師の来訪に喜ぶ村人たちだったが、ほどなくして幕府の取り締まりが入り、切支丹であることを隠し続けた彼らは、村の代表であった数名を人質に取られてしまう。

拷問を受け、次々と命を落としていく人質たちを隠れて見ながら、ロドリゴとガルペは自らの信じる道にあらためて向き合い始める。




予備知識の全くなかった私は、途中まで「幕府の非情な弾圧や拷問に耐え忍ぶ信心深い人々の苦しさや悲しみ」を描いた作品なのかと思って観ていた。
しかし、そういう映画ではなかった。

あまり内容を書かない方が良いと思うので非常に簡単に済ませておきたいのだが、これは「物事の善悪」を描いた作品ではない。

全ての登場人物が、それぞれの立場で自分が為すべきことをまっとうしようとしている。

彼らが「自らが信じるもの」にしたがって行動しようとするとき、そこに互いの軋轢が生まれ、死を伴う争いになっていく。

それでも「自ら信じるもの」を守り続けることが本当に幸せなのだろうか。




たくさんの同志たちの死を何もできないまま見送り苦悩する宣教師ロドリゴが何かを決めて進もうとするとき、必ず現れるキチジロー。
神に、もしくは自分に忠実であろうとするロドリゴにとっては、キチジローは悪魔的な存在でもある。
我々観客の多くは彼に嫌悪感を覚えるかも知れない。
たしかに、彼はその場しのぎのズルい男ではあるが、作品の中でもっとも率直に神と向き合って生きている人物であり、我々に近い存在とも言える。

海外のキリスト教徒はこの映画をどう観るのだろう。


タイトルの「沈黙」とは、誰が沈黙しているのか。
その沈黙の中にあるものとは何か。

162分という本編が終了しても、すぐに立ち上がることはできなかった。

オープニングもエンドロールも、真っ黒なスクリーンに文字だけで表示され、ただただ雨音や遠雷、波が打ち寄せられる音だけが音楽もなく続く。
その間、ずっと正解のない疑問が頭の中を巡っていた。



国内外の有名俳優が多数出演していて、シーンのひとつひとつに贅沢感が溢れている。




いわゆる日本の「時代劇」の日本の原作を、これだけの規模で、名匠マーティン・スコセッシが撮った。
それを堪能するだけでも観る価値がある。

日本人の役者たちの演技も良かった。




エンターテイメントな派手さはないが、胸にグッとくる作品。



オススメ度:80点