鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

『春爆発寸前の葛巻で』

2015-04-18 16:11:00 | 日記

 

  4月15日、東京駅から2時間半、11時半にいわて沼宮内駅に到着。5回目となる訪問を洗いたてのように輝く青空が迎えてくれた。1時間前まで激しく降っていたそうで、雨があがったところだったらしい。

 

 今回の目的は、去年からつづけている岩手県葛巻町のカメムシ調査で越冬のために集まったカメムシがそろそろ動き出す様子を見ることと、早春の葛巻の風景の取材。

 福音館書店刊「たくさんのふしぎ」シリーズの1冊として出版される『わたしたちのカメムシずかん』(仮題)の原稿もできあがり、今回は直前の怪我のため同行できなくなってしまったのが残念だが、絵本作家はたこうしろうさんが絵を描いてくださることも決まった。

 

 北陸新幹線最寄駅から、江刈小学校へ。車で約1時間。

この日は保護者参観日ということで、保護者面談が済むまで子どもたちが校庭に出ていた。

ブランコで遊んでいた子どもたちが、私たちに気が付いて駆けてきた。

「ひさしぶり~、また来ちゃった」

当たり前だけれど、1年生は2年生に、6年生は卒業していない、異動した先生もいらっしゃるし、新しい校長先生もいらっしゃった……新陳代謝していくのが学校。江刈小学校の今年の新入生は7名で卒業生が3名だから差引―4名増えて全校生徒数30名を超えた。

校舎の入り口にくっついていたのはカワゲラの仲間かな?

 

 『江刈カメムシ図鑑 2巻』ができたときいていたので、江刈小カメムシはかせ1号S君(左)と2号T君(右)に見せてもらう。

分厚い!

この巻は科ごとに分類掲載されていて、1巻に出ていた種も全部載っている。うん、これは便利。

写真も驚くほど鮮明できれい!先生たちの熱意が結晶している。

 

 S君のお母さんの面談が終わるまで、校庭の裏の川岸でさっそく虫さがそう~

 

さっきまでの雨で川が増水して勢いよく流れている。

芽吹きははじまっているものの、ここではサクラのつぼみもまだ硬い。

でも遅い春が今にも爆発する気配が。

 

足元で枯れている草をかき分けていたS君がなにか見つけた。

 

はじめて見るヨツボシテントウムシダマシだった。

 

きょうは校内に入れないので、ちょっと時間ができた―じゃあ、中学校行こうよ!

 江刈小学校から徒歩20分くらいのところにある江刈中学校は、山を背負っているせいか、めっちゃ虫が多い。秋、文化祭のころになるとごみ袋4袋分もカメムシが捕れる(笑)。

 正面入り口の両サイドの壁に、いたいた!いろいろ蛾がついている。

もしや・・・・

 実は私は早春の蛾の花形ともいえるイボタガの成虫をまだ見たことがない。去年もダメだったし、今年もそろそろ関東では時期が終わり。もしかして標高の高い葛巻なら……とひそかに期待していたのだが。

トビモンオオエダシャク

 

 マツキリガ

 

 スギタニキリガ

 

 ヒゲマダラエダシャク

 

トギレフユエダシャク(オス)

 

ウストビスジエダシャク、あるいはその近縁種

 

 

ヒゲマダラエダシャク

(*以上の蛾の種名は一寸野虫さんから教えていただきました)

 

ヨツモンカメムシも。

 

 左側の壁にはりついている蛾をまず撮影。すると、先に右側を見に行った同行のOさんが

「あら、なんだかおっきいのがいますよ~」

ドッキン!

「おっきいのって、なんでしょうねえ・・・」などと平静を装いつつ、近づくと……

 

羽化したてなのか、傷一つないイボタガだーーーー。

 

灯火などに来ることが多いイボタガは昼間は見つかりにくい。

それがこんな真昼に。

 

 

うれしさのあまり、青空に差し上げる。

初めてのイボタガを葛巻で見つけることができた、というのがなんともうれしい。

 

 もっとゆっくり校舎のまわりを探したかったが、さすがに仕事で来ているのだから、

もうそろそろ行かねばね。 

 ホテルにチェックイン後、担当編集者のKさんと台割りの変更点を打ち合わせる。

 

 今夜は、去年異動になった元江刈小学校校長、カメムシ調べのそもそものきっかけをつくられた小野先生がご主人といっしょに異動先の八幡平から来てくださることになっている。

 夕食をいっしょにしながら、これからのカメムシ調査の方針などをいろいろ話し合い、今後続けていくためのアイディアや情報を交換。

 そのうち、小野先生のご主人である小野國彦さんが取り出した1冊のアルバム。

小野國彦、公代ご夫妻は校長先生カップル。先に退職されたご主人は地域の教育活動をつづけるかたわら、いろいろな形でカメムシ調査に協力してくださっている。

こんな優しい校長先生、いいよね~

 

 江刈小学校のカメムシ調査をきっかけにアカスジキンカメムシの飼育をはじめられた小野ご夫妻は、なんとカメムシ飼育の名人でもあったのだ。去年秋に岩手で見つけた5齢幼虫を、観葉植物として育てていたコーヒーの木の葉でみごとに累代飼育、その記録を40ページものアルバムにまとめられた。一部をお見せしましょう。

 ご夫妻はともに理科の先生。

「アカスジキンカメを飼育してみて、長年生徒に教えてきたことに、今更ですが、ああ、これか!と納得がいくことがたくさんありました(笑)」

 

 話はかわるが、今年7月11日から8月10日までの1か月間、ジュンク堂池袋本店7Fフロアで『鈴木海花プロデュース ・大昆虫展2015』(この催しの詳細は追ってお知らせします)というのを催します。このアルバム、ぜひこの期間に展示して、たくさんの方に見ていただきたいです。

 

 

 

 翌4月16日。

 午前中は葛巻町役場で、教育長さんと江刈小学校PTA会長さんと面談。カメムシ調査を継続していくためのご支援と助成金獲得へ向けてのご協力などのお願い。

  江刈小学校へ行くまでちょっと時間があるので、また中学校へ虫探しに。いつも時間がなくて行けなかったが気になっていた裏山に行ってみたい。

 

こんな環境。地面にはフキノトウとかカタクリの花が咲いている。

 

あ、これがS君が言っていた赤いお堂かな。

ここはS君がお父さんと虫探しにくるというフィールドらしい。

「葛巻のカメムシをどうぞ、守ってください、調査がうまくいくようお願いします。あと、虫がいっぱい見つかりますように…・」と手を合わせていろいろお願いしまくる。

 

と、カタクリの花に吸蜜に来た白っぽいチョウ。

もしかして、ヤマキチョウ?

あとでFBを通して詳しい方から、似ているスジボソヤマキチョウだと教えていただいた。

体を横に倒しているものも。枯葉に擬態しているのだろう。

 

 

 給食が終わるころ、江刈小学校へ。

主目的である越冬後動き出したカメムシたちを見に、教室へ。

「みんな、カメムシ探してね」とお願いすると、あちこちの教室から

「クサギカメムシいましたー」と子どもたちが呼びに来る。

そう、江刈の子どもたちは単にカメムシじゃなくて、種名で呼ぶ。

教室の天井から降りてきて植木にとまるクサギカメムシ。

掃除をしていると床にスコットカメムシ。

 

陽がさすと、窓際の隙間からわらわらと出てくる。

テントウムシもいっしょに越冬しているようだ。

 

11月上旬に越冬のために家屋に入って冬を越したカメムシたちは、春にどんな動きをするのか―どの教室でも南側の窓の上に、陽が差すとカメムシがわいてくる。暗がりから、目覚めのスイッチがはいって出てくるのだ。

 この日見たカメムシはクサギカメムシとスコットカメムシの2種だった。

越冬後すぐは動きが鈍いのでは、との予想に反して、写真を撮るのに苦労するほど元気がいい。

たくさん出てくると、窓を開けて外に逃がしてあげるという。

 

 授業がはじまった子どもたちに再会を約束してさよなら。

T先生にいただいた「だんご三姉妹」。そば粉をつかった素朴なおまんじゅうだけど、

中にはいっている葛巻産のあんこがすごく美味しいのだ!

 

帰り道、道の駅といわて沼宮内駅で、地元の産物―ギョウジャニンニクとかヤマブドウとかシイタケとか―を買い込むのも恒例になった。

 今年は6月と11月に再訪の予定です。

 

透かしだわら付きのサクラの小枝。葛巻のサクラが家で咲いたらうれしい。

 

 

 

 


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