トーキング・マイノリティ

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五体不満足 その一

2016-08-02 21:10:17 | 読書/ノンフィクション

 3月に5人もの女性との不倫が発覚、すっかり落ちた偶像となった乙武洋匡氏。それまで私は、彼が一躍世に知られることになったベストセラー『五体不満足』を見たことがなかった。
 しかし、スキャンダルで逆に興味が湧き、初めてこの自伝を読んでみた。私が見たのは2001年春に出版された完全版の講談社文庫で、図書館にあったのを借りてきた。ベストセラーだけあって読み易かったし、多くの読者が感動したというのも納得いく話だった。

 知られている通り、乙武氏は生まれつき両腕と両脚がないという先天性四肢切断の障害児として誕生した。所謂サリドマイド薬害事件による影響ではなく、原因は不明だという。このような「超個性的な姿で誕生」したのだから、両親の衝撃はいかばかりだったのか、想像に難くない。
 そのため出産直後の母親に知らせるのはショックが大きすぎるという配慮から、乙武氏の母は黄疸が激しいという理由で、一か月間も息子に会うことが許されなかったそうだ。

 黄疸が激しいという理由だけで、一ヶ月も会えなかったことに対し、「あらそうなの」と何の疑いも持たずにいた母は、ある意味“超人”だと思う、と云う乙武氏。息子との初対面時には、その場で卒倒するかもしれないと、空きベットまで用意されていたが、病院側の心配は杞憂に終わった。気絶はおろか彼の母は泣いて取り乱すこともなく、口をついて出たのは「可愛い」という言葉だったという。
 このエピソードは「まえがき」に書かれているが、何とも信じ難いと感じた読者もいたのではないか?乙武氏は一人っ子であり、初めて産んだ我が子に一ヶ月も合わせられないことに、怒りや不安を覚えなかったのか?まして黄疸が激しいという理由だけでは、不信がるのは当然だ。この話が本当だとしたら、彼の母は“超人”よりも“変人”に感じる。

 第1部には幼少期と小学校時代が描かれていて、タイトルはズバリ「車椅子の王様」。三つ子の魂百まで、とよく言われるが、幼少時の環境や両親の教育が後の乙武氏の人格形成に繋がったのは確かだ。障害児を持つ親は子供を家に閉じ込めたり、その存在さえ隠してしまうこともあるそうだが、彼の両親はそうはしなかった。近所の人に息子の存在を知ってもらおうと、何時も彼を連れて歩いたという。
 当時の乙武氏は胴体にジャガイモのような手足がコロンとついているような姿で、クマのぬいぐるみのようだ、とたちまち近所の人気者になったとある。

 幼稚園に入園しても、常に園児の注目を集める人気者だったとか。乙武氏が通った幼稚園は世田谷区にあり、特に障害者だけが行く幼稚園ではなかった。友達もすぐ出来たが、そのきっかけは後年の彼のトレードマークとなる電動車椅子。彼の姿を見ると、子供たちはたちまちアリの様に群がり、なぜ手足がないのか質問攻めにする。園児たちに対し、乙武氏はこう答えた。
「ママのお腹の中にいた時に病気になって、それでボクの手足ができなかったんだ」

 人よりも短い手足と車椅子のお蔭で、友人の数ではだれにも負けなかった、と自負する乙武氏。自然と常に友達の輪の中心に位置するようになり、一人っ子特有のワガママが徐々に顔を見せ始める。そして、自分はタダの威張りん坊だった、と語っている。
 車椅子に乗っている彼にとって、皆のスピードに追い付けない鬼ごっこは最もつまらない遊びだったそうだ。そこで車椅子で進み出て、「砂場で一緒に遊びたいヤツはついてこい」と叫ぶ。すると不思議なことに、今まで楽しく鬼ごっこしていた子供たちが、ゾロゾロと車椅子の後について、砂場へと向かうのだ。

 しかし、砂場に行っても手のない乙武氏は砂遊びをすることが出来ない。そこで、「お城を作れ」等と指示を出す。もし誰かが、「トンネルを掘りたい」等と言えば、こう答える。
「今日はお城を作るって言っただろう。それがイヤなら、お前ひとり、あっちで遊んでいろ」。

 当時から口達者だった彼に何かを言われると、皆は言い返すことが出来なかったそうだ。これだけワガママ放題でも、友達が減っていくことはなかったという。「オトちゃんに気に入られていれば、仲間外れになることはない」、と皆が思っていたらしい。
 それが彼のワガママぶりを増長させ、ガキ大将の典型、と振り返っている。次第に親や先生にも生意気な態度を取るようになっていった、と自ら認めており、著名人となった後の振舞いは、既に幼児の頃から芽生ていたようだ。
その二に続く

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2 コメント

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乙武さんのこと (星の観察者)
2016-11-26 07:51:50
乙武さんの不倫・離婚騒動も沈静化したようだ。
今更乙武さんのことを書いてどうすると笑われそうだが、今だからこそ敢て書きたい。
この「五体不満足 その4」のごっちゃんのように、自分も乙武さんには無関心だっので、彼があのNumberのライターをしていたとか、教師や東京都の教育委員をしていたとか全く知らなくて、今度の騒動で初めて彼に興味を持ちネットで調べてみて、彼が映画にも出ていたーしかも主演!ーには仰天した。同時に、彼の身体への中傷があまりに酷いので気分が悪くなった。自分は、彼のTV出演の動画を見て、キモイとは少しも思わなかったからだ。しかし、彼の言っている内容には気分が悪くなった。
彼は嘘ばかり言っている。
例えば「僕の場合始めから手足が無かったので、有ったらとはあまり思わない。不便だとも思わない」とか。とにかく綺麗事ばかりで、心底ウンザリした。
彼の言葉には、何かが欠けている。それは彼の「ホンネ」であり、ホンネを隠すことで儲けているので、偽善の固まりのようにしか見えない。
どうしてこの人がもてはやされていたのか、到底理解できない。不倫が発覚する以前でも、それを感じた人は多かったはずだ。
彼の教育者としての能力、政治家としての発信力を惜しむ人も居るが、偽善者が、そういう世界で更に人を弄ぶことなど許されないだろう。
Re:乙武さんのこと (mugi)
2016-11-26 21:20:41
>星の観察者 氏、

 私は彼の主演した映画は未見だが、ゴミ拾いをしていた画像はネットで見た。いかにも障害をものともしないといった振舞いだったが、今さらこの類の画像を見た所で、白々しい印象しかなかった。都合に応じて障害者を使い分けているのは、とうに知られているのに。
http://gossip1.net/archives/1057565511.html

 乙武氏の言うことがクルクル変わるのは、イタリアンレストラン入店拒否事件で分った。確かに彼の身体への中傷には行き過ぎもあったが、日頃の行いに問題がある嘘つきだったため。嘘つきだから、世渡りが上手かったのかも。

 偽善者だからこそ、綺麗事ばかり並べているのでは?彼の生い立ちもあるはずだが、彼をここまで偽善者に育て上げた周囲の人々も同罪だろう。メディアに登場する連中って、偽善者でもなければ食っていけない。その三にも書いたが、まるで彼は将来を予知したようなことを言っていた。
「人から注目されることでメシを食っていこう等と目論んでいれば、いつか痛い目を見る」