トーキング・マイノリティ

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カスター将軍

2005-09-26 20:32:55 | 読書/小説
 10年以上も前だが、『カスター』というTV西部劇を深夜放送して いた。西部劇の主人公だから当然男らしく勇敢で、部下やインディアンにも思いやりがある人物となっていた。カスターというと、リトル・ビックホーンの戦い でクレイジー・ホース率いるスウ族に負け、戦死した将軍ということしか知らなかったが、F.フォーサイスの短編小説『時を越える風』で意外な事実を知った。

 『時を越える風』は西部開拓時代から現代にかけての白人 青年とシャイアン族の娘とのラブロマンスがテーマで、フォーサイスの小説としては異色だが、さすが“マスター・ストーリー・テラー”の称号に相応しい物語 だ。西武開拓時代の暮しや先住民族の文化まで詳細に書いている。インディアン問題局が居留地を管理していたが、その係官の方が問題だった実態も分かった。

 カスターは二面性が際立つ人物だったようだ。プラスの面は陽気で笑いを絶やさず人付き合いがよい。驚異的な精力とスタミナをそなえ、軍務で長年離れても 恋女房を裏切らない、若い時に泥酔し醜態を晒した経験から絶対禁酒主義者となる。また、人前では罵詈雑言を吐かず、卑猥な言葉を口にしなかった。南北戦争 では際立った勇敢さも発揮した。
 しかし、司令官としてはかなり問題のある人物だった。いつも先頭に立ち激烈な銃火の渦に突撃しながら、なぜか一度も銃弾を受けたことがないのは民間人か ら英雄視されても、取り巻き連中は別として、部下には信用されず、むしろ嫌われた。インディアンとの戦いで自分は無傷ながら、カスターほど多くの部下を戦 傷死させた司令官は他になかった。原因は狂気にちかい性急さにある、とフォーサイスは指摘している。兵士というものは、この人についていたら死ぬと思った ら絶対心を許さない。
 また、カスターは平原での対インディアン戦において鞭打ちの罰を連発し、当然ながら部下の脱走が他の部隊に比して圧倒的に多かった。その結果、訓練の期間はたっぷりあったのに、彼の連隊は全く憂うべく状態に陥っていた。
 もともとカスターは虚栄心と野心の塊のような人物で、機会があればいつでも新聞で称賛されるような言動を派手に見せ付けていた。彼を鬼神に祭り上げたのはセンセーショナルな報道だった。現代のアメリカもこのような人物がヒーローとされる。

 フォーサイスは司令官としてのカスターに2つの欠点を挙げている。1つは常に敵を過小評価したこと、第二は他人の意見に耳を傾けないこと、である。自分も含め連隊が全滅する悲劇はひとえにこの欠点によるもの、と辛辣な評価を下している。
 カスターは偉大なインディアン・ファイターという定評があり、当人もそれを信じているが、実態は定評にそぐわなかった。たとえば1868年、彼はシャイ アン族の村を殲滅したが、そのやり方はだまし討ちそのものだった。夜のうちに寝静まっている村を包囲し、夜明けを待って村の男と女子供をほとんど全員虐殺 したのだ。当時シャイアン族は白人とのあいだで新しく平和条約を締結したばかりで、もう白人に攻撃される恐れはないと安心していたからだ。

 1876年6月25日、カスター以下騎兵第七連隊はリトル・ビックホーンで殺害される。平原インディアン社会には戦争捕虜という観念はない上、収容する 施設もない。名誉ある降伏は認めるが、敗れた側があくまでも戦い続けたら最後の一人まで殺される。カスターの場合、シャイアン族とは2度と戦わないと誓い ながら、それを破った。それゆえカスターの死体を発見したシャイアン族の女たちは、矢で彼の耳の鼓膜を破った。次の機会にはもっとよく耳が聞こえるように と。

 リトル・ビックホーンでカスターを破ったのは一般にスウ族と思われている。が、実際は彼らの同盟者であるシャイアン族が正面攻撃を受け持ち、スウ族の方は敵の両翼で包囲運動を繰り返し退却を阻止する補助的な役割を担ったそうだ。


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9 コメント

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カスター将軍 (Mars)
2005-09-27 11:17:48
こんにちは、mugiさん。



関東もめっきり涼しくなりました。もう少しすると、紅葉の季節を迎え、そして、また、冬を迎えるのですね。季節の移り変わりも、日を追って速くなってくるのでしょうし。そんな、四季(細かくは二十四節季)のあふれる日本に住んでいることに、感謝しなければなりませんね。



ご紹介いただきましたカスター将軍ですが、写真を見る限り、やはり、気難しさや激しい気性の持ち主であることが伺えます。

(カスター将軍の写真がある、ウィキペディアのページはこちらです。)



フォーサイスの論評による、「常に敵を過小評価したこと」や、「他人の意見に耳を傾けないこと」は、やはり、大将としては致命的な欠点といえますね(実際、命を落としているわけですし)。



まず、第一点目の「常に敵を過小評価したこと」ですが、敵を必要以上に恐れることは士気に関わり、慎むべきです。しかし、冷静に自勢と敵勢を比較し、敵勢の戦法等研究すれば、少なくとも、無謀な戦い(玉砕)は避けることも可能だったかもしれませんね。よく知られている、孫子のいうところの、「彼を知り、己を知れば、百戦して危うからず」ですね。



また、「他人の意見に耳を傾けないこと」ですが、人間、誰しも甘言には弱いです。しかし、直言、諫言にも耳を貸さないようになると、その末路は悲しいものが多いですね。「良薬は口に苦し」ですし、また、韓非子の「説難(ぜいなん)」でもありますが、諫言するのも難しいですしね(諫言をして取り入れられなければ、反対に咎を受く身になりませんし)。

(まぁ、「晏子の御」で有名な晏子は、忠臣というものは、主君が滅びる時につきあう必要はないし、主君が滅びるようでは忠臣とはいえない、ともいっていますが(また、諫言を聞き入れないような主君であれば、それに仕える必要もない、ともいってます))

項羽と劉邦の項羽(軍師は范増)や、三国志の袁紹(軍師は田豊)等、部下の意見に耳を傾けず、滅びるべくして滅びた者の、何と多いことやら。



「大将は少し臆病な位がちょうどいい」、そして、「戦は4分6位の勝ちがいい(百戦百勝は忌むべき)」でしょうかね?



(何か、よく知られた内容ばかりですね、、、。また、私の思考に、中華系の思想が多いことがわかりますね(笑)。「史記」は書き下し文ですが、学生時代に一通り読みましたし、コー○ーのゲーム「三國志」は好きでしたね。まぁ、大したレベルではないのですけどね)
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追伸 (Mars)
2005-09-27 11:21:19
ウィキペディアの、カスター将軍のページへのリンクは、以下の通りです。



ttp://ja.wikipedia.org/wiki/カスター将軍

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カスターの真実 (mugi)
2005-09-27 20:58:55
こんばんは、Marsさん。



いよいよ秋本番、こちらでは芋煮会のシーズンです。これは野外の川岸で鍋で芋をはじめ野菜や肉を煮るキャンプの一種ですが、四国にはないでしょうか?このような会を楽しめる季節に感謝です。



ウィキペディアの、カスター将軍のリンクをありがとうございます。

TVドラマのカスターと印象は違いますね。ドラマでは、部下からはこの人のためなら、と信望の厚い理想的な司令官に描かれてましたが、かなり脚色してました。ドラマのカスターはアメリカ人の理想の将軍かもしれませんが、意外とドラマが真実、と思う人も少なくないでしょう。



カスターの周囲にインディアン情勢に詳しい人物は結構いたのですが、やはり耳を傾けなかった。動物同然の野蛮人くらいにしか思ってなかったのでょう。それが墓穴を掘る羽目になった。

まだ、カスターなら諫言しても命を奪われることはないですが、中国皇帝なら首が飛びますからね(笑)。だから佞臣が蔓延る。



優れた君主には優れた補佐役が付いてますね。項羽に比べ劉邦は部下の扱いが巧みだったし、マウリヤ朝を起したチャンドラグプタもバラモンのカウティリヤと共同でした。あと女性君主だと、補佐した男が優秀だから統治できた、という者もいますが、優れた片腕を持つのも名君の条件です。佞臣を侍らせるのは暗君の証明。

ただ、日本人の場合、シビアな漢族のように晏子の思想をなかなか売れ入れ難い面があるかもしれません。
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Re:カスターの真実 (Mars)
2005-09-29 13:56:52
こんにちは、mugiさん。



他の県ではどうかわかりませんが、私の田舎では芋煮会のようなものは、あまり聞いたことはありませんね。私の記憶の範囲では、食べ物に関するものといえば、やはり、どろめ祭り(夏)とか位のものでしょうか。

どろめとは、マイワシ・ウルメなどの稚魚のことですが、このお祭りの名物といえ日本酒の早飲みですね(笑)。男性なら一升、女性なら五合の日本酒を、大きな盃に入れて、飲み干すまでのタイムを競います。

酒飲み県ならでは、といったことでしょうね。

(私の田舎での)今の時期の旬といえば、戻り鰹や梨とかですね(冬には文旦ですし、ハウス栽培の野菜は一年を通してですからね)。



>優れた君主には優れた補佐役が付いてますね。

実際そうだと思います。いかに君主が優れていても、それを実行する補佐役が必要ですし、いかに補佐役が優れていても、それを実行するだけの権限を与えられないと何もできません(権限を与えるだけの、度量と眼力も、もちろん君主には必要ですしね)。

小規模な組織ならばワンマンでも通用しますが、国家レベルとなると一個人の力だけでは限度がありますよね。いかに組織として力を発揮させることができるのか。国家、会社、スポーツ等でそれぞれ規模は違うものの、組織力は重要ですね。



(やはり、野球も組織力ですね。名監督だけではダメですし、エースと4番だけで試合するものではありませんから。

投手にしても、ローテーションの先発がいて、中継ぎ、抑えとそれぞれに優秀な人材が必要ですし、打線もスタメンだけでなく、守備や代走要因、そしてレギュラーがケガした穴を塞ぐ控えも、案外重要だったりします。

そして、その戦力を現場で指揮するのが、監督、コーチの力だし、戦力を補充するフロントも重要で、すべてを含めた総合力で、強いチームができるのですから。)
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組織 (mugi)
2005-09-29 21:06:54
こんばんは、Marsさん。



芋煮会は主に南東北が中心で北ではありませんが、やはりMarsさんの故郷でもなかったのですね。

どろめ祭りとは初耳ですが、どろめで日本酒の早飲みとは豪快ですね。さすが四国ならでは。地方色豊かな祭りがあるのは楽しいです。

戻り鰹や梨が美味しい季節になりました。東北ではハウス栽培をしても、よく雪のため、ダメになるのもしばしばです。



優れた君主(リーダー)と優れた補佐役がいて、強力で安定した組織が生まれます。

今の日本には望み薄な存在ですが、故高坂正堯教授は「安定した国家には、大政治家は生まれない」と書いてました。



監督解任となった楽天ですが、監督の采配だけでなくフロントも問題があったと思います。

スポークスマン的なマーチン・キーナートですが、私はテレビコメンター程度が関の山の人物と思ってます。TV番組『ここがヘンだよ、日本人』で「日本には文武両道が生まれない」と言ったのを憶えてますが、そんなのは何処の国でも少ない。その他、日本の野球界をこき下ろしてましたが、己の実績が残せなくても日本の球界体制が悪い、と責任転嫁するようなタイプと見ています。
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TB,有り難うございました。 (柿の木)
2006-09-14 12:21:56
今晩は。



今日はトラックバックのお礼に伺いました。

遅くなって申し訳ありません。



インディアンの敵、としか知らなかったカスター将軍の横顔がそれは詳しく描写されているのでとっても勉強になりました。



私の方は、2ー3書きたいテーマはあるのですが、一寸、停滞気味です。



先住民のお祭り、パウワウの季節。あと二週間でチカホミニー族のが開かれます。そしたら元気になってまた少し書けるかも・・・



私事になってしまい申し訳ございませんでした。
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コメント、ありがとうございます (mugi)
2006-09-14 22:05:20
今晩は、柿の木さん。



先住民のお祭りとは、さぞ見ごたえがあるでしょうね。今後の記事を楽しみにしております。

先住民居留区ではアルコール依存症や崩壊家庭も多いと伺ってますが、アメリカで最も貧しいマイノリティとは、痛ましいです。
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仙台出身の、 (藤山杜人)
2008-07-02 13:07:29
mugi さん、
カスター将軍のことを公平に書いてあり、また当時のインディアンとの戦いの様子も知り、ありがとう御座いました。
mugi さんは、すごい読書量のようですね。小生は理科系で工学の研究者でした。読書はあまりしていません。
ところで、高知のMars さんとの会話を拝見し心が和みました。Marsさんへも敬意を表します
小生は1936年仙台生まれで、1960年にアメリカ留学するまで、仙台に住んでいました。当時はまだ食糧難の余波がさめず、イモ煮会などは存在していませんでした。mugi さんは宮城県にお住いの様子。昔の小牛田、佐沼などへ疎開したので、懐かしく思います。
小生のブログを見て頂き、光栄に思います。
ありがとう御座いました。
敬具、藤山杜人
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食糧難 (mugi)
2008-07-02 21:57:28
>藤山杜人さん

私も記事に書いたとおり、カスター将軍のことはフォーサイスの小説を読むまでよく知りませんでした。
そして、私など足元にも及ばない読書家のブロガーさんも珍しくないですよ。

貴方のお生まれは仙台でしたか!アメリカ留学された1960年には、私はまだ生まれてもいませんでした。
戦後間もなくならともかく、1960年でも食糧難がまだ続いていたとは知りませんでした。私が小学生の頃は既にイモ煮会が行われていたので、それがずっと続いているように思っていました。戦前生まれの方の体験話は、本当に参考になります。ためになる情報を有難うございました。
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