その一の続き
2012年9月12日付けの河北新報の文化・科学面では、瀬戸内寂聴氏の新著『烈しい生と美しい死を』を、氏のインタビュー入りで紹介していた。大見出しが「恋と革命、今こそ伝えたい」、他の2つの見出しは「管野須賀子、伊藤野枝…命懸け闘った女性たち」「国を変えようとした情熱、若い人たちに知ってほしい」とあった。記事での瀬戸内氏のインタビューを引用したい。
「百年前、この小さな国に、恋と革命に命を懸けた女性たちがいた。彼女たちの一生の上に今があることを、若い人に知ってもらいたいのです。彼女たちの生涯はダイナミックですね。国を変えようとした本当の情熱には迫力があります。もし私がこの時代に生きていたら『青鞜』に加わっていたでしょうね」
「残酷な殺され方をしましたが、須賀子や野枝は最後まで人類の幸福を願い、莞爾(かんじ)として死んでいった。一瞬一瞬を真剣に生き、覚悟の上で自ら美しい死を選んだのだと思います」
「原発の問題をはじめ、少しずつ言論の機制が進んでいるでしょう。この状態は昭和16、17年(1941~42年)頃の感じなの。自由にものが言えなくなる、書けなくなる、非常に不気味な空気を感じます。
再稼働に反対した、嫌だと言った人間がいたことを歴史に残さなければならないと思ったからです(※東京で脱原発を求めるハンストと集会に加わった理由)」
「今こそ若い人たちに、きらきらとした純粋な情熱を輝かせた野枝たちを知ってもらいたい。この本が自分の幸せだけではなく、自分と社会、世界を考えるきっかけになればうれしいですね」
瀬戸内氏によれば、大杉栄との関係を深めた伊藤野枝は日頃から、「私たちは畳の上でまともな死に方をしない、いずれ権力に殺されるだろう」と話して憚らなかったという。そんな「野枝たちには舌足らずなところがあったけど、志は高い。そういうところに魅力を感じます」と氏。
これらを見て、伊藤野枝に関心を持ち、氏の新著を読んでみたいと思った人もいるだろう。しかし、私はインタビューを見ただけで瀬戸内氏の作品を見る気が失せた。昨年8月末頃の河北新報にも氏の発言が載っていたが、「(最近の風潮には)軍靴の足音が聞こえる」という決まり文句があり、これで完全に見限った。
作家特有の美化にせよ、野枝が「美しい死」を遂げたというだけで白々しい思いになる。28歳の若さで撲殺されたのだから、無残な虐殺が実態。まして若いのだから、撲殺では時間がかかり苦しみ抜いた果ての絶命だったのは容易に想像がつく。いかに「畳の上でまともな死に方をしない」と言っていたにせよ、激しい暴行を受けて意志や信念を貫けたのやら。命乞いはしなかったとしても、暴行で顔は歪み、莞爾として死んでいったとは思えない。
野枝や大杉を殺害したのは甘粕正彦とされており、これは甘粕事件として知られる。このアナーキストカップルだけでなく、当時6歳の大杉の甥も殺され、遺体は古井戸に遺棄された。端から殺す意図があったとしても、撲殺では犯人の加虐嗜好もあったのではないか。小児まで殺害したのも特異だ。
ただし、このようなアナーキストや左翼活動家への弾圧だが、当時は他の世界でも当たり前に行われていた。アナーキストや無政府主義者のテロ行為は普通だったし、取り締まる官憲も激しい姿勢で臨んでいる。
アナーキストでも殺さないやり方もあったのでは、と思った人もいるだろう。確かにある。作品に「猫を殺すには鈍器で殴る以外にも方法はある」と書いたのは英国人作家F.フォーサイスだが、英国式は知らないので、インド・中東風のやり方を想像してみた。
死の寸前までの激しい拷問を加え廃人にする、他に性器を攻撃する、鼻や耳を削ぐ…容貌を台無しにするのは特に女には効果的なのだ。現代の中共も、法輪功女性信者にそのような拷問を行い、生きる屍同然にする。小児は命を取るより視力を奪う。近世までのインド・中東では焼いた鉄串で目を潰す処刑が行われており、盲目にして非戦力化したのだ。ただし、これらの弾圧は日本人にはまず無理だろうが。
その三に続く
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瀬戸内寂聴が、今の時代を軍靴の音が聞こえてくると言っているのですか・・・・呆れた人ですね。
左翼系文化人気取りの連中は、戦後日本の左傾化しすぎている環境の中でも、戦前同様に「軍靴の響き音」を無理やりにでも感じていると主張したいようで…本当に型にはまった考え方しかできないのですね。そのくせ、仏教の権威にはすり寄っているようで、益々怪しからん!!
むしろ小生などは、中国、韓国、北朝鮮からの軍靴の音が響いてくるようで、気持ちが悪いですけど。いずれにせよ、陸の国境がない幸運な日本国ですから、海軍、空軍の双方をある程度充実させていれば、それほど外国の軍隊を怖がる必要もないけど、とはいえ、技術的にどうもそれほどとも思えない韓国と違って、中国は月にまで恒久的な基地を設けて、宇宙空間を軍事利用しようと企んでいると思う。必要とあれば、ミサイルで中国の宇宙基地を潰せるように技術開発を準備すべきと思うけど。
ともかく、左翼かぶれの「情緒的な軍靴の音」とは異なり、現実主義的な軍事均衡、軍事的対応を「国防」論として、きちんと考えていくべきでしょう。70歳過ぎても、左翼気取りとは、瀬戸内寂聴(小生はほぼこれまで興味無しで、ほぼ何も知らないけど)などは、本当に呆れたおばはんですね。
瀬戸内寂聴はТVにも盛んに出ているし、少なくとも私が見た時は真っ当なことを言っていたのですが、河北新報に載ったインタビューを見て、ガッカリさせられましたね。左翼系文化人の戯言そのものであり、だからこそТVに出されていたのかもしれません。このような文化人でなければ、マスコミから締め出される。
>>むしろ小生などは、中国、韓国、北朝鮮からの軍靴の音が響いてくるようで、気持ちが悪いですけど。
同じように危惧している日本人も少なくないと思いますよ。先日見た、「政府中枢にいてソ連に忠誠を尽くそうとした『軍国主義者』たち~ポツダム宣言5」というブログ記事は考えさせられました。管理人は「終戦の頃には共産主義者が日本軍の枢要な地位を獲得していたようなのだ」と考察しており、結びはこうでした。
「わが国が国益を考えて何か新しい動きをしようとすると、必ずマスコミが「軍国主義の足音が聞こえる」などと言うフレーズを繰り返し国民を思考停止に陥れてきたのだが、史実に照らして日本人が真に警戒すべきものは、「軍国主義の足音」ではなく「共産主義の足音」であると言いかえるべきなのではないのだろうか」
http://shibayan1954.blog101.fc2.com/blog-entry-295.html
瀬戸内寂聴は1922年生まれ、91歳になるお婆さんです。彼女の母は徳島空襲で焼死したため、未だに軍靴妄想になっているかもしれませんが、完全な時代錯誤ですね。このような流行作家が伊藤野枝のような活動家を、「きらきらとした純粋な情熱を輝かせた」と持ち上げる。伊藤野枝の墓には「自由恋愛の神様」と、参拝する女学生も多いそうですが、瀬戸内のような文化人の影響が大なのでしょう。続きにも書きますが、伊藤野枝があのような人生を送ったのも生い立ちが影響しているはず。
瀬戸内や野枝に感化されたのか、男性を支える生き方もよいと言っていた女もいます。もっとも、当人は明らかな無職暇人でしたが、インテリやエリートを装っていた。
無知な私は彼女が井原西鶴の好色一代女を地で行くような人生を送り仏教に帰依したのだろうと勝手に想像していました。しかし、先日TVで彼女の私生活を垣間見たときあきれました。
あの年で、ビフテキを食らい、酒まで飲んでしかも堂々とTVに映っています 彼女が言う仏法とはこんなものなのでしょうか?私が古いのか?頭のいい彼女は仏法をうまく帰依させたのでは?
初コメントを有難うございます。毎回読んで頂いて光栄です。
私も瀬戸内が私生活を語った時、飲酒や肉食を公言していたのは呆れました。何も今時一汁一菜にしろとは言いませんが、完全な生臭坊主そのものですね。仏教の五戒の中で、不邪淫戒(淫らな性行為の禁止)だけは守っていると言っていましたが、これは齢のせいでお相手がいないだけでしょ。
戒律が厳しいと言われるタイの仏教僧も、最近はかつらを被って風俗店通いする破戒僧が出てきて問題になっています。しかし、彼らはまだ破戒への後ろめたさがあるだけマシです。堂々と仏法破りを公言するなら、仏教僧とは言えません。彼女にとって仏法とは、世渡りのためのツールなのでしょう。
今年もよろしくお願いします。
彼女が監修か何かしてた源氏物語を買って読んでました。
四巻まで進んだけどそれ以上は違和感というか、好みにあわずに買うのを止めました。
この記事を読んで、止めて正解だったかなと思いました。
TVに出る人の話は眉唾物なのは分かってるはずだけど、自分も見る目が無いですね。
明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します。
私は瀬戸内版源氏物語は未読ですが、結構話題になりましたよね。その三にも書きましたが、昔見た『中世炎上』のイメージがあって、敬遠してましたが、その方が良かったかも。
仰る通りTVに出る人はスポンサーの意向があり、やたら出ている人は人気者や優秀だからとは限りません。彼女は今TVでもっとも出ている女性作家ではないでしょうか?