トーキング・マイノリティ

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ヒトラーの忘れもの 15/独・デンマーク合作

2017-09-10 21:10:23 | 映画

 映画化により初めて知られる史実がある。原題は LAND OF MINE だが、邦題はそれだけで映画の展開が想像できる。登場するのはドイツの少年兵、彼らは戦争終結後に祖国がデンマークに遺した地雷除去を命じられる。まさにヒトラーの忘れ物だが、デンマーク人の間にも忘れ去られた出来事だったという。

 映画は1945年5月から始まる。デンマークはナチス・ドイツによる5年間の占領から解放され、捕虜となったドイツ軍兵士たちは帰国する。映画の冒頭で祖国に向い歩み続けるドイツ兵に対し、デンマーク軍のラスムスン軍曹は暴言と暴力を浴びせ、此処は私の国だ、2度と来るな、と叫ぶ。
 それでも何とか国に戻れたドイツ兵は幸運だった。2千を超える独軍捕虜は地雷除去を強制され、その半数近くが爆死或いは重傷を負う。その多くは少年兵だったという。大戦末期、敗色の濃いドイツは徴兵年齢を10代半ばまで引き下げており、映画に登場する少年兵たちはどう見ても10代半ばか後半、今の日本では高校生くらいだった。
 

 ナレーションには、デンマーク西海岸に敷設された地雷は実に220万個とあった。これは他の欧州諸国の合計を上回る、というラスムスン軍曹。軍曹が怒りや復讐に燃えるのは無理もないが、14人の少年兵を監督する彼は少年たちにも容赦なく暴力を振るう。軍曹こそナチス式と感じた人もいたかもしれないが、少年兵も戦時中は友好的ではなかっただろう。
 ナチスやドイツを激しく憎む軍曹は、1人につき1時間に6個のペースで地雷の除去作業を命じた。上の画像はその光景だが、浜辺に這いつくばり、棒で突きながら地雷を見つけ、信管を抜き取る作業は苛酷窮まった。食料も満足に与えられない少年たちは飢えや病に苦しみ、作業中の事故などで少年たちは次々に命を落としていく。精神的に追い込まれ、自ら地雷を踏んだ少年もいた。

 はじめは少年たちに粗暴で冷酷非情な姿勢で接していたラスムスン軍曹。しかし、何時しか軍曹の心境に変化が生じ、少年たちに温かい態度を見せるようになる。
 少年たちを虐待したのはラスムスンだけではなかった。夜中にやって来た英国将校は、「ナチスのガキ」を殴打、小水を飲ませようとする。それを諌めたラスムスンだが、逆に人間的な接し方を非難される。彼もまた英国軍やデンマーク軍の上層部に逆らえないのだ。

 ラスムスン監督下の少年たちで生き残ったのは、ついに4人となり、約束通り彼は少年たちを祖国に帰すことにする。だが軍上部は、4人の少年たちを別の地での地雷除去に使役することを命じる。苦悩の決断の末、上部に逆らう行動をとるラスムスン…
 ラストのナレーションで、最終的に除去された地雷は150万を上回るとあったが、残る70万はどうなったのか?デンマーク人自身が除去したとしても、完全に撤去されたとは思えない。

 この映画を取り上げたブログも多く、特に「LUCKY NOW/映画を観る前に知っておきたいこと」に書かれたドイツとデンマークの関係は興味深い。
 他にはサブタイトルが「歴史に埋れたドイツ敗残兵悲話」という記事には、ナチス占領下でのデンマークが記されており、「占領国の中では「何もかもが例外だった」といっていいほどヌルい統治であったことで知られている…」の一文があった。デンマークでは恒例のユダヤ人虐殺も行われず、「99%のデンマーク・ユダヤ人が大戦を生き延びた」という。
 監督へのインタビューが載っているサイトもあり、「この話について書かれた歴史書は1冊もない」という言葉が印象的だった。私には、デンマークが葬られた過去を、何故21世紀になって映画化したのかが気になる。

 少年兵を演じた大半は無名の役者だったため、その自然な演技を称賛する意見が多かったが、私はむしろ不自然に感じた。演技力が問題なのではなく、少年たちの顔立ちがあどけなく、見るからに健康的だったため、いかにも作り事に感じられた。
 置かれた苛酷な環境からも、実際はもっと荒んだ表情をしていたはずだし、身体もやせ細っていたのは想像に難くない。爆死するシーンでもバラバラになった肉塊や血しぶきは映されず、観客に配慮していたかたちになっている。

 それでも両手を吹き飛ばされた少年が何度もママと叫び、国に帰りたいと泣くシーンは痛ましかった。映画のコピーは、「大人が残した理不尽な任務。少年たちが見つけるのは、憎しみか明日への希望か」。
 重傷を負ってドイツに帰還した少年兵は、その後どんな人生を送ったのだろう?ドイツも戦後の風潮で、元少年兵は地雷撤去作業を口にすることも難しかったのではないか?

 技術進歩もあり最近の地雷は小型化され、触れても人が死なないように設計されている。人道面への配慮からではなく、殺すよりも手足を吹き飛ばし、障害者にした方がより敵側にダメージを与えるという考えに基づいているためだ。このような兵器を開発する技術者もまた恐ろしい。



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
地雷の効果を弱める理由 (madi)
2018-01-29 08:57:25
死亡者より重傷者をつくったほうがあしどめになること以外に誘爆防止もありましょう。誘爆してしまえばその地域が安全になってしまい、上陸を許してしまいます。
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Re:地雷の効果を弱める理由 (mugi)
2018-01-29 21:19:58
>madi さん、

 成る程、地雷の効果を弱める理由には誘爆防止もあるのですね。誘爆ということ自体、全く想像できなかった。
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