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トーキング・マイノリティ

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回教から見た中国(中公新書)-張承志 著

2005-06-09 21:00:00 | 読書/東アジア・他史
 中国の回族は唐の時代にアラブ・ペルシアから来華した人々がルーツで、中央アジアのムスリムも元の時代(強制連行も かなりあったが)、モンゴル人と共に中国に来ていた。これらの人々が回族の先祖に当たり、同じイスラム教徒といえウイグルとは異なる民族である。アラブ・ ペルシア系の子孫といえ、すっかり混血してモンゴロイドの容貌となったが、他に来華した異教徒-景教(ネストリウス派キリスト教)、マニ教、ゾロアスター 教、ユダヤ教徒でさえ同化して漢族となってしまったのに、彼らだけは違った。この本は彼らの苦難の歴史をコンパクトにまとめたもの。

 清時代の回族は過酷な生活を強いられた。名君と言われる乾隆帝の時代も回族の多数住む甘粛省は飢饉と災害、地方役人の公金横領に苦しめられる。乾隆以前にも回教を禁止するよう提案した役人もいたらしい。

 19世紀後半になり、いよいよ中央政府の権威が衰えると、各地で様々な対立や矛盾が表面化した。ついに同治年間(1862-74)、鉱産の利権をめぐる漢族と回族の衝突に端を発した大乱が起こる。この時は漢族、満州族、さらに「滅満興漢」をスローガンにしていた太平天国の一派までも加わり、回族の反乱には“洗回”、今風に言えば民族浄化で報いる。降伏した回族には豚肉を食べさせ、豚を飼うことを命じた。同治の乱の鎮圧で陝西省の回族の9割、甘粛省の場合は三分の二が犠牲になり、清朝一代で中国の回族の半数以上が殺害さ れたと回族学者たちは見ている。とにかく、清朝の弾圧により回族の人口が激減したのは確かなようだ。中国の公式記録「続陝西通志稿」にも、乱の以前は陝西 省の西安をはじめとする30の州や県に70~80万の回民が住んでいたとあるが、1990年代初頭になっても西安市に2~3万程度、他はほとんどいない始 末となる。これに比べれば、旧日本軍の南京は“小虐殺”と思えてくる。

 文化大革命時にも徹底した弾圧を受けたのは書くまでもない。回教活動は迷信として禁止、豚の飼育・豚食いの強要、モスクやゴンバイ(殉教者の聖徒墓、回族はゴンバイを崇める特色がある)はもちろん破壊。
 これらが中国での回族の歴史の一部である。


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8 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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TBありがとうございました (NAGARE)
2005-06-28 21:56:31
 こんばんは。こう言うものを見るとあの民族の言う言葉の全てがうそ臭く感じられますね。

 特に、反省もせずに「一つの世界、一つの夢」なんて言われると嫌悪感すら感じてしまいます。
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コメント、ありがとうございます (mugi)
2005-06-29 20:55:22
こんばんは、NAGAREさん。



 確か「醜い中国人」だったと思いますが、著者は「中国人は自ら誤りを認めることはしない」と書いてました。要するに反省などしない気質なんですね。「一つの世界、一つの夢」なんて、一神教的価値観です。



 共産主義がインドと違って中国にあれほど受け入れられたのも、元から画一性を好む傾向があったからでは、と思います。カースト、他宗教、他民族国家のインドなら共産主義は格好の実験場のはずなのに、結局振るわなかったのも面白い現象です。
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この本購入したことがあります (hui)
2005-07-21 14:15:02
はじめまして。



以前購入した本のタイトルが目にとまったので、思わず立ち止ってしまいました。



>回族の反乱には”洗回”、今風に言えば、民族浄化で報いる。降伏した回族には豚肉を食べさせ、豚を飼うことを命じた。



この本の著者も、幼いころ小学校などで(文字通り)過酷ないじめや差別を体験されたようですね。それほど古い話ではありません。本を読むまで、正直イスラム教徒がここまで苦難の歴史を歩み続けてきたとは知りませんでした。

もっとも、最近は待遇が改善したのでしょうか?



ウイグルなどでイスラム教徒が弾圧されている現在、イスラム諸国の反発は無いのだろうか?という疑問がふつふつと湧いてきます。
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コメント、ありがとうございます (mugi)
2005-07-21 21:02:47
初めまして、huiさん。



この本を購入されてましたか。私は図書館で借りました。

この著者の少年時代の体験は驚きました。北京の小学校の担任が「何故君たち回族は豚を食べないのか?豚は本当に君たちの祖先なのか?」と聞く位なので、レベルが知れます。

未だに待遇は改善しないでしょう。昨年11月にも漢族と回族の対立があり、中国当局の発表で200名以上の死傷者がでたとか。



>イスラム諸国の反発は無いのだろうか?

中国当局も狡猾に封じ込めをしてるし、特にパキスタンに武器支援の見返りに取締りを求めてますので、難しい面があるのでしょう。

イスラム諸国も一枚岩とは程遠い有様だし、ウイグルはチェチェンよりもニュースにならないですね。
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コメントありがとうございました (hide)
2005-09-18 08:21:54
コメントありがとうございました。
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hideさんへ (mugi)
2005-09-18 20:36:51
こちらの方こそ、TBありがとうございました。

hideさんのブログを、これからも楽しみにしてます。
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屈辱 (ハハサウルス)
2008-03-28 21:31:07
記事のご紹介有難うございます。

中国において回教徒が弾圧されていたことは知っていましたが、詳しいことは知りませんでした。中国人は血よりも文化を重視する民族ですので、それこそ徹底的にやるのでしょうが、回教徒に豚肉を食べさせるなんて…。すごい屈辱ものでしょうね。ヒンズー教徒に牛肉を食べさせるよりもむごいことですね。後者にとって牛は聖なる動物ですが、前者にとって豚は不浄な動物なわけですから。そう考えると、中国人は相手が何をすると一番嫌かがよくわかっているということですね。

信仰というその人の精神の根本に横たわるものを弾圧することは、(カルトはともかく)やはりあってはならないことだと思います。
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邪教 (mugi)
2008-03-28 22:17:41
>ハハサウルスさん
記事へのコメント、有難うございました。

仰るとおりムリスムに豚肉喰いを強制するのは、信仰心を踏みにじることに等しいのです。海外旅行するヒンドゥーの一部には牛肉を食べる者がいるとさえ言われ、あのM.ガンディーすら若気の至りで口にしたことがあったのですが、回族とは次元が違いすぎます。
中国が中東で仕事をする際、回族も連れていき対応させるとか。現地人にイスラムを尊重しているとのイメージを演出したいのでしょうけど、実権を握っているのは漢族なのです。
回族と漢族が対立するのは常に豚が原因だそうで、欧米でのイスラム移民への差別など、中国のそれとは比べ物になりません。

中共は神道を邪教と宣伝しているそうですが、共産主義と儒教こそ史上最悪の邪教かつ人種差別思想ですね。ナチズムなど、これに比べれば可愛げがあるほど。
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