トーキング・マイノリティ

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揺れる大地 1948/伊/ルキノ・ヴィスコンティ監督

2017-02-23 21:10:09 | 映画

 見事な映像美で、絢爛豪華な王侯貴族社会を描いたイタリア映画界の巨匠ルキノ・ヴィスコンティ。意外なことに初期はネオレアリズモ映画を撮っている。『揺れる大地』はその代表作とされ、ヴィスコンティ初期の傑作と言われる。
 名前通りヴィスコンティは傍流ながら、由緒あるイタリア貴族ヴィスコンティ家の御曹司。にも拘らず、第二次世界大戦中はイタリア共産党に入党(但し50年代後半に離党)、この作品も共産党が制作していた。今回公開されたのはデジタル2Kリマスター版で、以下はチラシにあった紹介。

シチリア、アーチ・トレッツァの漁村。ヴィスコンティは第2作で、仲買人たちに不当に搾取される漁師たちと、それに刃向ったがために崩壊するある家族の運命を描いた。撮影はオールロケ、全出演者を住民からキャスティング、台詞のシチリア方言には標準語字幕をつけるという徹底したリアリズムで、ネオレアリズモの頂点を極めた。だがそれは神話的風格、荘厳さすら漂う叙事詩となり、他のネオレアリズモ作品とは一線を画している。

 この作品を今回初めて見た。DVD化しているのは知っていたが、行き付けのビデオ店には置かれておらず、買うのには迷いがあった。ヴィスコンティ生誕100年、没後40年メモリアルとして、昨年公開された作品がやっと仙台でも上映されたのだ。
 ストーリーは大体知っていた。仲買人による不正な取引に反発した主人公が嵐で全てを失い、一家は極貧に追い込まれ、崩壊していくいう悲惨な展開なのだ。家族の崩壊はヴィスコンティ作品によく扱われるテーマだが、退廃が色濃い上流階級と違い、貧しい庶民は困窮していく。

 代々アーチ・トレッツァので漁業を営んできたヴァラストロ家だけでなく、村の他の漁師も皆貧しい。12時間ぶっ通し働いても、パンがやっと買える程度の暮しなのだ。大漁時でも仲買人たちに魚を安く買いたたかれ、これに刃向ったのがヴァラストロ家の長男ウントーニ。自分たちの手で魚を売りにいくことを決意、始めは上手くいきかけたが、嵐で舟や網、帆など、漁に必要な器具全てを失う。ここから一家の辛苦が始まる。
 仲買人等は失業したヴァラストロ家一族に仕事を与えぬように手をまわし、村の漁師たちも同調する。仲買人に反抗したのはウントーニと彼の家族だけだったし、元から何事も保守的な漁村ではこのタイプは疎まれるのだ。食にも事欠けば、秘蔵の塩漬けイワシの樽を売らねばならず、仲買人がそれを安値で買い叩く。

 先の見えぬ暮しに絶望した次男コーラは、家出をする。家を去る前、ウントーニに村を出ることを相談するが、村の外の世界を知っているはずの兄の言葉は意味深い。「水は何処でも塩辛い」「岩を出た先は岩礁だった」。
 続けてウントーニは、ここで残って闘えという。夜逃げしようにも、病気の祖父や幼い弟妹を抱える大家族ではそれも難しい。結局長男は村に残り、次男は余所に向かう。コーラは余所で金持ちになって家族に送金するつもりだったが、そのような希望は夢物語に終るの殆どである。
 
 ウントーニの妹たちも長女と次女では対照的だった。堅実で黙って兄を支える長女マーラと奔放な妹ルチア。マーラには好きな村の男がいても、貧困状態では結婚も叶わない。村の警察署長は美しいルチアに目を付け、絹のスカーフを贈ろうとする。ダイヤの指輪に目がくらみ、恋人を捨てる物語が極東の某国にあるが、女を釣るのが絹のスカーフ1枚というのがイタリアン・リアリズムか。
 若い女が絹のスカーフや装身具に魅了されるのは無理もない。ルチアは所長に身を任せ、粋なネックレスをもらう。それを咎めるマーラだが、妹は姉に従わず、自分は好きなようにやる、と言い放つ。



 自暴自棄になったウントーニは酒に溺れるようになるが、最後に立ち直り、弟と共に仲買人のもとを訪れ、自分たちを雇ってくれるよう頼む。上の画像はその時のシーンだが、全く卑屈さがない。ボロを着ていても眼光は実に鋭く、仲買人の嘲笑にも全く動じない。仲買人の所有する舟に乗って櫓をこぐウントーニを映し、映画は終わるが、その表情は誇り高い海の男そのものだった。

 映画の全出演者は住民からキャスティングされたそうだが、演技はプロの役者以上だと思った。制作が48年ということもあり映画からは、村全体が貧しい印象だった。漁師たちは継ぎの当たった服を着ており、ほころびのない服を着ている子供も見かけない。プロレタリア映画ゆえ、貧困を強調していることも考えられるが、イタリアも敗戦後は貧しかったはず。
 今でこそイタリアは西欧で最も少子化が著しい国だが、一昔前は子沢山で知られていた。映画にも子供たちが多くみられ、ボロ服でも子供たちは愛くるしい。試にアーチ・トレッツァで検索したら、風光明媚な画像が沢山ヒットした。

 ネオレアリズモの傑作とされる映画だが、ナレーションが少しくどすぎた。解説が多すぎるのは興ざめだし、これもプロレタリア映画の特徴か?冒頭のナレーション、「シチリアの貧しい人々はイタリア語を話せない」は驚いたが、未だにシチリア=マフィアの本拠地のイメージが強い。
 但し、映像美はさすがヴィスコンティ。モノクロではなくカラー作品だったならば、海やシチリアの漁村の美しさが感じられたかもしれない。



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