トーキング・マイノリティ

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英国とデンマークの報道姿勢の差 その②

2007-03-27 21:24:08 | 世相(外国)
その①の続き
 先進国ではインドの様々な綿製品が大量に安価に売られている。その綿製品の製造過程をルポしたのがデンマークのLynx Media。 まずLynx Media取材班はインドの綿花地帯であるパンジャーブ州を訪れる。パンジャーブの綿花畑では農民が害虫予防のため何度も農薬を散布するが、いかに暑いイ ンドといえ農民はかなり肌を露出した作業着と半ズボン姿であり、マスクさえしていない。さらに使用している農薬はデンマークの会社製品だった。Lynx Mediaは自国の農薬会社に取材するが、会社はやはり非協力姿勢で、全て現地工場に管理を任せていると言う。農薬を管理する現地担当施設も説明書はつけ ていると釈明。だが、その説明書は全て英文であり、パンジャーブの農民で読める者などいないのだ。

 インドで散布されているデンマークの 農薬には、先進国では人体に有害ゆえ使用が禁じられている物質さえ含まれていたのだ!その物質は毒ガスにも使用される代物でもある。Lynx Media側はデンマークの科学者に見解を求めるが、科学者の意見は厳しかった。パンジャーブでは近年癌患者が急増してるが、ある癌病棟の医師が調べたと ころ、患者の8割が農民だったという。件の農薬会社はインドにも工場があり薬製造をしているが、工場周辺はひどい悪臭が漂っている。周辺住民には身体に湿 疹ができたり、健康被害を訴える者が少なくない。住民が工場に苦情を申し立てても、工場の対応は良心的には程遠い有様。

 収穫された綿花 は加工され、様々な綿製品になり先進国に輸出される。綿花はまず洗浄されるのだが、そのやり方は塩酸などの化学薬品を使う。水槽に化学薬品を入れ、それで 綿花を洗うのだが、現地の労働者は腰まで水槽の水に浸かりながら洗浄作業をしていた。あたりは酸のひどい悪臭が漂っているが、労働者はマスクもなし。この 為労働者は肺や皮膚を傷められ、若者でも数年で身体を壊すとされる。この作業もまた貧しい人々が行う。工場では綿を洗浄した汚染された廃液をそのまま近く の河川や池に垂れ流す。

 洗浄された綿は染色、加工されて海外に輸出となるが、綿製品加工工場の労働条件もまた劣悪極まる。14歳になら ぬ子供も働いており、組合に入る者はまず少ない。染色にも人体に有害な科学物質が使われ、労働者はまたもマスクなし。染色の後の廃液もまた近くの河川や池 に垂れ流すので、赤や青などの毒々しい色が河川を汚す。河川や地下水の汚染は環境破壊に繋がる。
 このような工場で加工された綿製品を先進国のバイヤーが買っていく。Lynx Media側もバイヤーを装って取材したので、工場内部が撮影できたのだ。しかしLynx Mediaを尾行した工場側の者もあり、正体を暴かれるや、フィルムを没収されたそうだ。

  北欧諸国にいくつもチェーン店を構える大手販売店では、会社のHPで「わが社は全て先進国並みの安全基準と環境に配慮した製品を取り扱う」と謳っている。 その店にはインドの安価な綿製品が大量に陳列されているが、Lynx Mediaが現地調査をしたところ、会社の宣伝とはかなり異なる惨状だった。Lynx Mediaは会社副社長と会い、インドの労働者たちを収めた映像を見せる。会社側は今後現地には検査基準を厳重に行う約束したが、空約束でないのを願いた いものだ。
 インドの工場でも環境に配慮した綿製品を作るところもある。ただ、このような会社製品は当然割高になり、先進国のバイヤーも商売に訪れない。

  このドキュメンタリーの冒頭Lynx Mediaは、ある疑問を呈する。あまりにも安い製品があれば、その裏に第三世界の労働者の健康と労働条件が犠牲になっている可能性がある、と。これは欧 米だけでなく、日本も同じ問題を抱えている。日本国内に氾濫する安い外国製品の製造過程は、インドの綿加工工場と似たようなものかもしれない。

  しかしBBCとLynx Mediaの報道は、同じくグローバル化により弊害を受けるインドの貧しい人々を扱いながらも、取材姿勢が少し異なっている。自国企業や製品名を出さない 前者と、自国企業、製品名は番組内で発表、企業広報担当者やデンマーク人の科学者の登場し、見解を述べるLynx Media側。自国企業が法整備の整わぬインドの現状を犠牲にしているのは英国、デンマーク共に同じだが、少なくとも企業名を出したLynx Mediaの報道の方が公正で良心的だ。BBCはその点、とても公正とはいえない。訳知り顔のリポーターがで出ずっぱりだったBBCに対し、Lynx Mediaはレポーターは登場せず声だけなのもよかった。

 日本のメディアはBBCの報道に高評価を与えているが、2月のインド特集といい、先進国の問題は棚上げして第三国を糾弾しがちな姿勢は公正と呼べるのだろうか?アングロサクソンはフェアを求めることは大好きだが、有色人種にはフェア精神など皆無だった歴史を持つ。

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2 コメント

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まっ青旗新聞より (Mars)
2007-03-29 21:16:12
こんばんは、mugiさん。

一昔前のサヨがかかっていた私であれば、BBCはNHKのようなイメージもありましたし、ワシトン・ポストやニューヨーク・タイムズといえば朝日のようなイメージがありました。実際のところ、イデオロギーや宗教、人種差別等で、事実を歪曲・隠蔽し、変更報道を行う点では共通ですが。マスコミの本分が真実を伝える事であれば、これ程も真逆なものも少ないでしょうね。
(少なくとも、真実を追求するのであれば、一般大衆を納得させるような、事実を示して欲しいものですが、裏取りも確証もたらずに、偏向・捏造報道を繰り返しているように思えます)

日本のマスゴミの場合、スポンサーや特定の人種・宗教により、弱みを握られているように思えます。また、何か不祥事がある企業に対してはここぞとばかりに叩くくせ、強圧的な取立てを繰り返す、金貸し業等にはほとんどスルー。パチンコ関係、金貸し業といい、近年はTV広告が特に多いように思えます。
(スポンサーに甘いのは、資本主義としては当然かもしれませんが。それにしても、スポンサーに甘いというより、スポンサーの口を代弁するようなマスコミに、存在価値はあるのでしょうか??)

英国、米国等のマスゴミの背景は、どうなのでしょうね?
(言論の自由が無い、中北露の官制報道ならわかりますが、南朝鮮の基地外性といえばないですね。時に、大統領と対立しても、対日姿勢には感情のみで、理論・論理性の欠片もありませんね。
ま、いずれにしても、これらの国家とは、価値観を共有化することはできませんし、夢想家の無責任といえば、、、。)
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嘘から出た真 (mugi)
2007-03-29 21:41:24
こんばんは、Marsさん。

私もネットをする以前なら、Marsさんと同じくBBCは英国のNHK、ワシトン・ポストやニューヨーク・タイムズは良識ある高級紙のイメージがありました。NHK特集もよく見ていましたね。
しかし今は…偏向・捏造報道の大御所だった実態を知り、自分がいかに根拠のない権威に弱かったのか思い知らされました。

マスコミは一般大衆のためにあるのではなく、スポンサーの意向で記事も簡単に変える。これは資本主義のマイナス面でもありますが、英米のマスゴミもまた同じような問題があります。ただし、利敵報道を行うのは日本くらいでしょう。英米メディアは左右問わず自国の非を他国に責任転嫁するのに世界で最も長けています。

いかに存在価値が低いにせよ、マスコミがないと中北露のような官制報道に陥りますから、今のところはむしろ偏向マスコミが発する情報の裏を読む他ありません。嘘から出た真の可能性も捨てきれませんので。
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