トーキング・マイノリティ

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謝罪しなかったドイツ人医師たち その一

2016-05-25 21:40:08 | 世相(外国)

 他国の代弁機関と化して久しい日本のメディアが作り上げた神話のひとつに、「過去を真摯に反省するドイツ」というものがある。ネットが普及したため、それが実態とはかけ離れたものであったことを多くのサイトが暴いているが、先日興味深い記事を見つけた。「ナチス・ドイツの「優生政策」の実態」という記事では、戦時中にナチス・ドイツが行った精神障害者・身体障害者などの安楽死計画、いわゆる「T4作戦」に関与した医師たちの戦後が詳しく紹介されている。

 T4作戦は日本ではあまり知られていないだろう。私自身、米国のТVドラマ「ホロコースト」(主演メリル・ストリープ)で初めて、ナチス政権下で精神障害者・身体障害者たちへの抹殺が行われていたことを知った。日本語版ドラマではこの抹殺計画名は使われてなかったはずだし、私が作戦名を知ったのはネットから。
 ドラマを見た時、ドイツ人心身障害者らがユダヤ人よりも先に“最終的解決”対象となっていたのは愕然とさせられた。当時は欧米諸国でも心身障害者への差別や断種はあったが、そこまでやったのか、と。

 ТVドラマでも障害者たちをバスに乗せ、ホースで引きこんだ自動車の排気ガスを車内に充満させて中毒死させるシーンがある。この作戦の期間中の犠牲者は、公式な資料に残されているだけでも7万273人に達し(wiki)たという。T4作戦は1939年10月から実施され、1941年8月に中止されるも、安楽死政策自体は継続され、最終的には20万人以上が犠牲になったと見積もられている。1943年4月からは障害児への安楽死も本格化したそうだ。
 昨年、戦後70年目ということでNHK Eテレは「障害者と戦争」という特集を放送、その番組サイトもある。但しこの特集は開始早々、「過去を真摯に反省するドイツ」の流れになることが予感できたし、日本障害者協議会代表が出演していたため、開始から10分くらいで見るのを止めた。それでもEテレで取り上げたことで、ナチス・ドイツによる障害者大量抹殺を知った人もいただろう。

 Eテレの番組サイトで私の関心を引いたのは、この一文だった。
5年前、ドイツ精神医学精神療法神経学会が長年の沈黙を破り、自分たち医師が患者殺害に関わったことを謝罪したのをきっかけにようやく今、真実に向き合う動きが始まっています。学会は今年の秋に報告書をまとめる予定です。

 戦後65年目にして、何故ドイツ精神医学精神療法神経学会が戦時中の患者殺害を謝罪したのだろう。ただ、この時の学会員には直接患者殺害に関与した医師がいたであろうか?生存していたことは考えられるが、仮に戦争終結時に30歳だったとしても95歳となる。90過ぎても現役バリバリの医師はいない訳でもないにせよ、極めて稀だろう。
 つまり、この時点で戦時中に患者殺害に手を下した精神医学者や精神療法者が学会にいた可能性は極めて低い。謝罪したのは加害者ではない学会の精神医学者だったということ。

 T4作戦の中心人物は、ナチ党総統官房長フィリップ・ボウラー親衛隊軍医カール・ブラント。戦後、米軍により逮捕され、捕虜収容所内で自殺した前者と違い、医学博士だったブラントは逮捕されても死なず、米軍による「医者裁判」にかけられた。死刑判決の後、絞首刑になる。
 ブラントは裁判で尋問を受けても、「ヒトラーの命令通りに執行した」と言い張ったという。wikiには処刑前の彼の言葉が紹介されており、米国への激しい憤りと無念が表れている。

どうしてあらゆる観点からみて人体実験の最先端にある国家(米国)が、なぜその国家が只々その実験を真似てみた他の国家を疑い裁こうとする神経を持てるのか。安楽死でさえも!ドイツとその長引いてしまった惨状を見てみろ。それは、もちろん、この国家が広島と長崎の件で罪深いという事でさえ、自国の無比の道徳に呑み込まれてしまうほど小さなことだから驚く事は無い。
(ドイツは)法律を決して歪めたのではない、正義なんて元々無かったんだ!これっぽちの正義もな。やはり権力がすべてを独裁してしまう。そして、この権力は被害を蒙ることを願っている。私たちはなんて被害に遭うことになるんだろうか。私もなんて被害者だ
 土壇場の上に立つことは何も恥ずかしいことではないんだ。これは政治的復讐以外の何物でもないのだから。私は他の市民みたいに祖国の為に戦ってきたのだから…
その二に続く

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