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移民を出し、移民が来ない国

2007-01-03 20:34:04 | 歴史諸随想
 我国に限らないだろうが、先進国のマスコミは第三世界からの移民に同情的である。不法入国という犯罪行為を犯して密入国、不法滞在の果て、その間生まれ た子供を利用し居座ろうとする不法移民一家など、石頭法務局役人の哀れな被害者といった役どころの報道をする番組もある。しかし、所詮不法入国、滞在は犯 罪行為に過ぎない。

 不法移民を最も出しているのは中国とイラスム圏なのは書くまでもない。長い歴史を誇りながらも一度も法治国家であっ たことがない前者と、シャリーア(イラスム聖法)のみが真の法と考える後者、入国先の法に従う意志などハナからあるはずもない。彼らの居直り理由は大抵こ のパターン。「貧しいから」「先進国は援助すべき」に始まり、「過去に先進国が搾取したから、償え」と歴史問題を持ち出す。
 だが、不法入国にせよ、先立つものはカネである。ブローカーに支払うカネはお世辞にも低いとは言えず、資金を工面できるのは貧しいどころかミドルクラスでも中以上の者たちだ。むしろ食うに困らない連中の方が移住したがる。

 不法移民を輩出する一方、移民は受け入れない現代中国からは信じられないが、例外的に唐の時代は広く移民を受け入れていた。西域や遠く中東からもアラブ、ペルシア(イラン)人ムスリムも来華した。彼らが現代の回族の祖先とも言われる。昨年の記事「唐時代の不法滞在者」でも触れたが、唐末期外国人排斥、虐殺事件も起きるものの、当時の中国は世界中から様々な民族の移住者が集まる国だった。それだけ繁栄し、住み心地が良かったといえる。
 だが、明以降は国粋主義が高まり、自国民の海外渡航の禁止(実質的な効果はなかったが)政策も実行、異民族の移民など認めないようになる。表面的には繁栄・安定が謳われた乾隆帝時代の裏面は「乾隆帝時代―盛世の影」「バタヴィアの狂暴」の記事でも書いている。漢族の海外移住者は珍しくもなかったが、清に不法でも移住してくる異民族はなかったのは興味深い。これが地大物博を自慢する国の実態だった。

  中世のイスラムは全盛時代であり、現代の先進国のように様々な人、金、物が自由に移動する状態だった。だが、異教徒の移住者はあまり来ず、現代とは逆に西 欧からの移住者が平和裏にしても(十字軍は別)移住するくらい。それもさほど多くはない。あのイスラムの戒律では、異教徒には窮屈に感じられたのだろう。 その逆にムスリムがインド、中国といった当時の先進地帯である多神教徒圏には結構来ていたのだ。多神教徒にとってイスラム圏は住み心地がいいはずはなかっ たが。
 オスマン・トルコはヒンドゥー教徒の商人の締め出しを図ったこともあるが、ムガル朝インドにはスンニ、シーア派問わずムスリムの移住者が集まってきた。

 マキアヴェッリは『政略論』でこのように書いている。
何故、人々の心に自由に生きることへの強い愛着が生れてくるのか、という問への答えは簡単である。歴史上、自由を持つ国だけが、領土を拡張し経済的にも豊かになったからである…理由は簡単だ。個人の利益よりも、共同体の利益を優先するようになったからである。例えある政策の実施に当たって、個人は不利益を被るような場合でも、これによって利益を受ける人が多数ならば、その政策は実施されたのだ。そして不利益を被る少数派が反対しても、それは全体の利益の前に沈黙するしかなかったのである

  私の自論だが、移住者を出しても移民が来ない国の将来性は明るくない。表面的には強大に見えても、旧ソ連など移住してくるのは西側の亡命スパイ程度で、文 化人ばかりか共産党員でも亡命が相次いでいた。経済アナリストは中国の経済成長を褒め称えるが、清の時代同様移住者は夥しくとも移民が来ない現状をどう考 えているのか?彼らが分析するのは株価と経済成長率くらいだが。
 イスラム圏でも産油国は豊かだが、聖地メッカの守護者を自称するサウジも貧しい ムスリムの移住は厳しく制限している。外国人労働者はパスポート携帯が義務付けられ、エイズ感染者の入国などもっての他。異教徒には好事家でもない限り、 ビジネス以外で住むのは魅力に極めて乏しい国だろう。

 移住者が押し寄せる国も決して安泰とは言えない。永遠に続く繁栄などありえないし、移動してきた異民族に国が乗っ取られるケースは世界史で珍しくもないのだ。

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13 コメント

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新年ご挨拶 (スポンジ頭)
2007-01-03 22:33:23
あけましておめでとうございます。今年も面白いブログ記事をお願い致します。

以前シナの蛇頭が問題になっていた時、朝日新聞で警察出身者の佐々淳行氏などの座談会があったのですが、出席していたある在日が「不法入国者も蛇頭の被害者だ」と言ったのであきれ返りました。こういう外国人に不法入国者に対する意見を聞くのもおかしいものです。

ところで現在のシナの移民政策ですが、技能を持った外国人を移民させる政策をとっています。
ttp://journal.mycom.co.jp/news/2002/06/13/15.htm
l

以前ドイツの会社の社長か何かが移民申請をして通った記憶があるのですが、ぐぐってもすぐ出てきませんでした。

ちなみに唐は漢化した鮮卑族だと言われているので、漢民族と行動様式が違ってもおかしくありません。元時代も大勢異民族がいましたが、明時代に強制的に同化させられます。

シナの場合歴史的に見て「移民」は異民族の侵略だと思います。そうやって異民族が移住してきて結局漢民族に同化する過程を辿るのがシナの歴史だと思っています。
ただ、古代より日本にはシナから戦乱を避けて移民が来るのに逆は存在しません。満州国が日本人移民の時代ですが、この時期は日本の力がシナより強い時期です。移民は貧しい民族が豊かな地方へ行くのですが、日本とシナに関しては逆で、その辺りどういう理由か知りたいですね。日本人が倭寇をやっていた時代でさえ「移民」はないのですから。
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TBはりました。 (viamonta13)
2007-01-04 00:18:39
今年もよろしくお願いします。
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おめでとうございます (かかしA)
2007-01-04 05:17:46
いつも面白く拝見しています。
新年早々切れ味鋭い視点で素晴らしい。

>石頭法務局役人の哀れな被害者といった役どころの報道

これ、私も大変不快に思っておりました。
「この子達は日本語しか話せない」「子供には罪はない」
などと主張するのが"被害者"の常道ですが、移住許可が貰えるかどうかも判らない状態で、なし崩しに子供を産んだ責任を日本政府に押し付けるのは筋違いと思います。
役人に責められるべき点があるとすれば、何人も子供が生まれるまで送還しなかった怠慢ではないでしょうか。

>移住者を出しても移民が来ない国の将来性は明るくない

同感です。国内の狭い喩えで恐縮ですが、私は東北の過疎地の生まれなので、たまに帰省するとそのたびに愕然とします。
国とは規模こそ違え、マンパワーの無い土地には発展の"可能性"すらありません。去年の夕張市の例は本当に危機感を覚えました。
アレとは比較にならない格差社会となっている中共など、想像するだに恐ろしいです。他国を知ったら出て行くものも多いでしょうねえ…。
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コメント、ありがとうございます (mugi)
2007-01-04 21:22:27
スポンジ頭さん、新年おめでとうございます。
こちらこそ、今年もお願い致します。

紹介された座談会ですが、いかにもあの新聞らしいし、常に被害者論を持ち出す在日のすり替え話など、聞く価値もないのに。
「ここがヘンだよ、日本人」という番組で、名は忘れましたが、眼鏡をかけた在日シナの中年女が「不法入国は犯罪じゃない」と叫んでいたのを憶えてます。返還前の香港でも密入国者は直ちに銃殺されていましたが、これが大陸では普通です。

いくら技能を持った外国人の移住を呼びかけても、中共の体制ではあまり集まらないでしょうね。高額でヘッドハンティングは可能ですが、旧ソ連も似たようなことはしていました。

シナの歴代王朝で漢族出なのは漢と明くらいではないでしょうか。秦も異民族の血が濃いです。

仰るとおりシナの場合、常に北方遊牧民の侵入があり、西や南からの侵略はなかった。平和裏に移民してきたのは唐時代くらいですね。
日本人が大陸に移民したのは満州国だけで、遣唐使や倭寇もごく一部の例外を除いては祖国に戻ったのは興味深いです。島国根性なのか、大陸の実態を見て祖国で暮らす方がいいと思ったのかも。

>viamonta13さん
TBありがとうございました。
こちらこそ、今年もよろしくお願いします。
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子供を利用するマスコミ (mugi)
2007-01-04 21:24:33
>かかしAさん
拙ブログを読まれて頂いて、ありがとうございます。
本年もよろしくお願い致します。

マスコミは子供を利用するのですよ。涙と泣き言を武器に同情が引けるから。
子供の養育は基本的に親の責任です。連中も役人に見つからぬように対処するから、役所ばかりでなく近所の人も常に監視して報告する方がベターでしょう。子供の存在により滞在を認めた欧米の失敗の轍を踏むべきではありません。

私も東北人で、宮城県仙台市にいると過疎化の実感はありませんが、県北に行くと、これが同じ県内かと驚くような光景です。
いかに休日といえ、人っ子一人いない風景と車も見かけない道路。若者の働き先がないので、卒業と同時に故郷を出て行き、過疎化がまた進む悪循環。
最近のマスコミはやたら「格差社会」をがなり立ててますが、他国、特に隣国のそれにはあまり触れませんね。
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誤:倭寇 正:鮮寇 漢寇 (ドグマ)
2007-01-05 02:52:29
スポンジ頭様

>日本人が倭寇をやっていた時代でさえ「移民」はないのですから。

実際は、倭寇の8割~9割が朝鮮人や漢人です。

mugi様、今年は書き込みを頻繁にするかも知れませんが、よろしくお願い致します。
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P.S. (ドグマ)
2007-01-05 02:59:06
ソースを忘れました。申しわけありません。


ドイツとメランコリー「他国を一度も侵略したことが無い」という傲慢
http://d.hatena.ne.jp/mensch/searchdiary?word=%CF%C1%D5%E4&.submit=%B8%A1%BA%F7&type=detail
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倭寇について (スポンジ頭)
2007-01-05 20:55:30
>>ドグマ様
はじめまして。
私には「さん」でいいです。照れます。

ご指摘ありがとうございます。この倭寇の件、前期は日本人、後期はシナ人や朝鮮人だと私も知っているのですが、一応倭寇がいて活動した期間があるので(明の倭寇取り締まり対日要請とか)、書き込みました。

ちなみにシナではシナ人も倭寇として活動していたことは教えていないようです。彼らが日本の悪口を言う際に倭寇の話が出るのですが、シナ倭寇の話を知っていたらこんな論は出ないと思います。
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もんごい (mugi)
2007-01-05 21:41:04
>ドグマ様
私も「さん」でいいです。「様」では改まりすぎて。

中国側の記録でも9割は漢人とあるから、特定アジアは昔から“成り済まし”が十八番のようで。
韓国のネットでは孔子は朝鮮人、ヨガは朝鮮半島起源というヨタ話さえ出回っているとか。

面白いブログの紹介をありがとうございました!
元寇の時、捕虜となった日本女性の掌に穴をあけ、荒縄を通して連行した残虐行為は有名ですね。
「惨い」の言葉はこの時の「もんごい」が転化したものです。実際に実行したのはモンゴルではなかった。

「他国を一度も侵略したことが無い」傲慢より幼稚性願望妄想史観の方が近いかも。


>スポンジ頭さん
シナ人の歴史認識の程度が知れますね(笑)。
シナ人大学生は「英国やフランスも中国を侵略したが、清王朝を攻撃しても民衆を攻撃しなかった」と言ってますから。
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/bf0d81ea837374c3676f8eaffa440cc0

もっとも日本に対しては鉄面皮に振舞ってよいと思い込んでいる連中だから、恣意的に都合の悪い史実は無視するかも。
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多棄暴論 (Mars)
2007-01-09 20:58:28
こんばんは、mugiさん。

古代中国には、昼間の市場に客が多く、夕方はまばらなのは、市場に対する好悪ではなく、よい商品がたくさんあるか否かである、と説いた兵法家もいました。
また、彼は主君に対し、配下の人材も同様で、自ら活躍し、栄達の道に希望があればついてきて、そうでなければ離れていく、と説いています。
移民もおそらく同様だと思いますが、巧言令色ではなく、実利があるからこそ、移るのであって、そうでない国に、苦労や危険を冒してまで、移りたいと思うのでしょうか??

他の方も仰られる通り、これは何も、国と国との間の事に限らず、国内も同様で、都市と地方の関係もそうでしょうね。
私は、地方を捨てた側になるでしょうけど、若ければ都市に憧れを持つ者は少なくないでしょうし、その生活になれれば、帰り難くなるのはそうでしょう。
確かに、例外はあるでしょうけど、過疎化が進む地方にはやはり、若者を引き付ける、または留めるだけの魅力がないのは事実でしょうね。

我が国の出生率が低下していると、マスコミは盛んに煽りますが、お隣の某半島国家では、その悩みの上では先輩のようです。

人が人と結ばれ、子を産み、育て、そして死んでいく。そんな当たり前の事ができてこそ、美しい国ではないでしょうか??
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