トーキング・マイノリティ

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ルネサンスの女たち

2006-05-06 21:03:35 | 読書/欧米史
 作家・塩野七生 氏の処女作。本題のとおりルネサンス時代を代表する4人の女たちが取り上げられている。イザベッラ・デステルクレツィア・ボルジアカテリーナ・スフォルツァ、カテリーナ・コルネールらが女たちの名前だ。ルネサンス時代で第一線で活躍した女と、対照的に徹底して利用された女たちを描いている。前者がイザベッラ・デステとカテリーナ・スフォルツァだ。

 読む人の好みもあるが、私はイザベッラ・デステの 印象が一番強い。戦火が絶えず権謀の渦巻くルネサンス時代に、大国に囲まれた嫁ぎ先の小国マントヴァと実家のあるフェラーラを抜群の洞察力で守り抜いてい く政治的手腕には圧倒される。イザベッラの夫は武人としては優秀でも君主としては凡庸だったが、妻の外交力によってマントヴァの独立は維持された。特に夫 が捕虜となった時、ヴェネツィア、法王庁、フランス、ドイツ相手に駆け引きを展開し、大国に併合されるのを免れ夫は解放されるのは見事。国のため夫の自由 をなるべく少ない代償で得ようとした手段には、夫や法王からもプッターナ(淫売)呼ばわりされても動じなかったほどだ。

 イザベッラは書斎の入り口にモットーを掲げており、「夢もなく、怖れもなく」が彼女の信条だった。その言葉どおり冷徹な現実主義に立って国政を仕切った。「時代を超えることもなかったが、時代に流されることもなかった」のが彼女の一生だった。

 カテリーナ・スフォルツァは「イタリアの女傑」として有名だ。自分の子供たちを人質に取った反乱者に対して切った啖呵はすごい。
何たる馬鹿者よ。子供などこの先何人でもここから生めるのを知らないのか」!美貌で名高い25歳の伯爵夫人の、スカートの裾をぱあっとめくっての台詞だ。また2番目の夫を殺害された時、陰謀に加担した全員の家族、親族、女子供まで殺す。「家系の末端まで血を絶やせ
 しかしカテリーナはイザベッラのように政治を知らず、恐怖と弾圧で国を統治していたため、人心は離れ敵に破れる。敵とはイタリアの男たちがなす術もなくひれ伏した風雲児チェーザレ・ボルジアだが、一歩も引かず戦った彼女の勇敢さには賞賛が集まった。

 ルクレツィア・ボルジアはチェーザレの妹。兄の野望のため3度も政略結婚を強いられるイタリア版お市の方のような人物。非凡な父と兄の犠牲者だが、「この平凡な女らしいだけの女」と塩野氏は手厳しい。
 カテリーナ・コルネール(1454 -1510)はヴェネツィア名門貴族の娘だが、彼女もまた生国ヴェネツィアのキプロス併合の具にされる人生を送ることになる。ヴェネツィアの命でキプロス 王家に嫁がされ、夫の死後女王として統治するものの、オスマン・トルコの脅威から守るという口実でキプロスは併合されてしまう。

 カテリーナ・コルネールの夫は庶子で、腹違いの妹でもある嫡出の王女を追いやって王位につく。自分の王位の正当性を訴えた王女に対するヴェネツィア総督の返答が面白い。
貴女のような賢明な御方が、国とは法で獲得するものではなく剣と力量によって得るものであるということを、ご存知でないとは不思議に思われます

 ルネサンス時代から五百年経た現代でも似たような女たちはいる。そして「国とは法で獲得するものではなく剣と力量によって得るもの」も不変の真理だ。ただ、ルネサンス時代にはたとえ政治に疎かったにせよ、非武装中立を叫ぶ女だけは存在しなかった。

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2 コメント

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「夢もなくおそれもなく」 (MADI)
2006-05-07 21:55:30
「サイレント・マイノリティ」(新潮文庫)で昭和二桁生まれ(おそらく12年生まれ同士の対談)の特徴とされています。

一時期はスタンダードであった佐藤幸治「憲法」青林書院昭和55年のはしがきででてきています。

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憲法学者 (mugi)
2006-05-08 23:33:30
>MADIさん

「サイレント・マイノリティ」の冒頭で紹介されていた学者が佐藤幸治氏だったとは知りませんでした。情報をありがとうございました。

Wikipediaで検索すると、佐藤氏の評価は「功罪は相半ばする」となってました。
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