トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

オーダーメイド・ベビー

2017-10-19 21:10:12 | 音楽、TV、観劇

 10月12日に放送されたNHK BS1『世界のドキュメンタリー』の「オーダーメイドベビー」は考えさせられた。生殖医療がここまで進んできたことに驚いた一般視聴者も多かっただろう。以下は番組サイトにある説明。

目の色から身長まで、親が望む特徴を備えた“理想の赤ちゃん”をカスタマイズ?生殖医療が飛躍的な進歩を遂げた結果、SFながらの現実が目前に。技術と倫理の境界を追う。

 不妊や遺伝性疾患治療のために研究が進んだ生殖医療を応用して、親が求める特徴を持つ赤ちゃんを作り出すことが可能になってきた。3万人の精子が保存されているデンマークの精子バンクでは、提供者の写真や学歴はもちろん、声や筆跡も確認できる。
 子供の性別や目の色の選択ができるクリニックや、3人の親の遺伝子から子どもを作る「ミトコンドリア置換」など、オーダーメイド化が現実のものに。人類の英知は技術に追いつけるのか?

 邦題はオーダーメイド・ベビーとなっているが、デザイナーベビーという用語もある。受精卵の段階で遺伝子操作を行うことにより、親が望む外見や体力・知力等を持たせた子供の総称が後者で、親がその子供の特徴をまるでデザインするかのようであるためそう呼ばれるという。番組制作はフランスだが、Bébés à la carte(カードへの赤ちゃん) という原題も興味深い。

 少し前までは代理母による出産が日本でも話題となったが、もはや代理母すら少し古臭い生殖医療に思えてくる。代理母で特に問題になったのは、代理母が子の引き渡しを拒否すること、障害児が生まれた場合に依頼主が引き取りを拒否するケース等だった。しかし「オーダーメイド・ベビー」ならば、この種の問題も起こらないだろう。受精卵の段階で障害があると判断されれば、早々に“間引き”されるのだから。
 既に出生前診断で障害のある子供が生まれる確率が高いという結果が出れば、中絶が認められる時代なのだ。この分では近未来、五体不満足の子供の出生は激減するかもしれない。
 
 番組の中で、映画『ガタカ』を例に挙げた人物が登場しており、SF映画さながらに遺伝子の優劣で階級が決定付けられる社会が本当に成立するのだろうか?障害を持つ子供を望まないという親の気持ちは理解できるが、外貌や体力、知力も親の求めに応じられるのか。医療スタッフの1人はこの現象を「建設的生殖」と呼んでいたが、表現を変えた優生学の焼き直しでもあるのだ。

 もちろん誰もが“オーダーメイド・ベビー”の恩恵に与れるのではなく、要求が高いほど費用も高額となるのだ。それにしても現代は遺伝子操作で、生まれてくる子供の目の色まで決められるようになったのか?遺伝子操作により青い眼の有色人種の子供を作りだすことが可能なのか?
青い眼が欲しい』という米国の小説が発表されたのは1970年だったが、21世紀は黒い眼の親が青い眼の我が子がほしいと望めば、夢が叶えられるようになったのやら。

 かつて私は代理母を“ハイテク借り腹”と皮肉を込めて呼んだことがある。初期シーズンだったと思うが、『Xファイル』には水槽培養タンクに何体もの胎児が浮いている場面があった。胎児が人類と異星人のハイブリットという設定はXファイルらしいが、培養タンクで赤ちゃんを作ることは不可能事ではないだろう。このまま生殖医療が進化し続けると、何時か自然分娩のほうが少数派になる時代が来るのだろうか?

 そんな社会は想像したくもないが、遺伝子情報や操作は新しい階級づくりには大いに貢献するはず。何と言っても人類は昔から貴種に憧れていたし、現代でも血筋に拘らない人の方が少数派なのが現状。暴走しているのは生殖医療研究者だけでなく、過度な期待を寄せる依頼者の親の存在もあるのだ。

◆関連記事:「代理母-奉仕の精神?
 「子宮の賃貸~インドの代理母ビジネス
 「ダウン症のいない世界?

よろしかったら、クリックお願いします
人気ブログランキングへ   にほんブログ村 歴史ブログへ



最新の画像もっと見る

21 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
CRISPR/Cas9 (motton)
2017-10-20 13:18:07
番組は見ていませんが、CRISPR/Cas9というゲノム編集の技術が紹介されていませんでしたか。
今の人類が手にするには早過ぎるのではないかと思うほどの「神の技術」とでも言うべき革命的技術です。
返信する
Re:CRISPR/Cas9 (mugi)
2017-10-20 22:05:43
>motton さん、

 CRISPR/Cas9という専門用語は初耳だし、番組で仮にそれが使われていたとしても憶えていなかったと思います。ただ、DNAの二本鎖を布のように切断し、それを削除したり組み合わせたりするシーンがありました。これこそがゲノム編集なのでしょうか?
返信する
CRISPR/Cas9 (スポンジ頭)
2017-10-21 10:39:16
CRISPR/Cas9 が紹介されているアニメ。
遺伝子工学の未来も紹介されていてよく纏まっています。
https://www.youtube.com/watch?v=jAhjPd4uNFY
返信する
Re:CRISPR/Cas9 (mugi)
2017-10-21 22:09:08
>スポンジ頭さん、

 興味深いアニメの紹介を有難うございました!海外の教養番組にはアニメを使った質の高い作品があり、素人にも分り易いので羨ましい。

 対照的に日本はアニメ大国でも、このようなアニメは少ないような…科学や工学を教えるよりも、アニメでは社会学を取り上げることが多いと感じるのは、私の思い過ごしでしょうか?
返信する
雑感 (スポンジ頭)
2017-10-22 01:45:14
 記憶モードなんですが、寺田寅彦が言うには、海外の指導者は理系の教養を身につけるのに日本は関心が薄いとか。シュテファン・ツヴァイクが軽んじた描写をしていたルイ十六世も物理の勉強をしていて、技術将校レベルの理系頭脳を持った人間だったといいますし。
 
 日本のアニメに科学・工学関係が少ないのも根本的な部分で科学に対する興味がないのかもしれません。日本の過去の指導者階級で科学に興味を持って実験していた、と言う話は殆ど聞いたことがありません。吉宗が雨量を計測していて洪水対策に役立った、という話は聞いたことがありますが。
返信する
Re:雑感 (mugi)
2017-10-22 21:19:30
>スポンジ頭さん、

 ルイ十六世って、実は物理の勉強をしていた王様だったのですか??錠前作りが趣味なので、手先が器用というイメージがありましたが、これはベルばらの影響ですよね。ベルばらでは太めで王妃より背が低く描かれていますが、実際は180㎝もあり、当時としてはかなりの長身でしょう。

 仰る通り日本の支配階級で、科学に興味を持つ人物はあまり聞いたことがありません。これがアニメ界となると、ほぼ文化系で占められていると思います。SF作品にしても理工系スタッフがいるのやら…
 私も完全な文科系なので大きなことは言えませんが、理系の教養を持つ人がアニメに関わってくれたら、と思いました。
返信する
ルイ十六世の再評価 (スポンジ頭)
2017-10-28 21:49:25
 こんばんは。

 以前、ダフ・クーパーという著者(イギリスの外交官だそうです)が書いた「タレイラン評伝」と言う本を読んだことがあるのです。その中で著者は、即位したてのルイ十六世に関しては信心深くて真面目すぎるので当時の貴族たちに軽んじられた、と言う意味合いの事を記しているのですが、テュイルリー宮殿襲撃の際は国王一家が虐殺を免れたのは王の示した沈着な勇気があったから、と評価しているのです。同じテュイルリー襲撃でもツヴァイクはルイ十六世が鈍感だったから(庶民を刺激せず助かった)と評しているのとは大違い。また、フランス革命勃発後の王に関しては「(助言を聞いていれば・記憶モードなので曖昧)物分りもよく、進歩性と言う面ではたち勝った君主になっていたと思われる」と評しています。ツヴァイクの描く国王像とはかけ離れています。外交官と小説家の立脚点の差かも知れません。

 因みにツヴァイクはタレイランの人間性を批判していますが、クーパーはタレイランの放蕩を認めながらも(ドラクロワの実の父親だとか)、フランスとイギリス間の長い平和を作り出しヨーロッパの安定に寄与した、また、平和的な手段を模索した人物と高評価していました。非常に面白い本です。

 そして、こちらがルイ十六世の教養や政策について記したブログなんですが、知的好奇心が旺盛で、聡明な頭脳の持ち主であることを伺わせる内容です。ツヴァイクはルイ十六世を貶めすぎですね。マリーアントワネットとフェルセンを評価するなら、ルイ十六世を下げざるを得ないのでしょうけれど。
ttp://yaplog.jp/hanazono/archive/290
ttp://fwest.exblog.jp/21690547/

 番外、近頃の漫画で描かれるルイ十六世。時代が変われば描き方も変化する、と言う事でしょうか。絵柄はともかく、両方共善人として性格が位置づけられているそうです。
ttps://vignette.wikia.nocookie.net/innocent/images/2/26/Louis_XVI.png/revision/latest?cb=20161115055116

ttp://blog-imgs-100.fc2.com/m/a/n/mangakikou/4328aafbb29ef16b41ec120d50121dfa.jpg
返信する
Re:ルイ十六世の再評価 (mugi)
2017-10-29 21:31:26
>こんばんは、スポンジ頭さん。

 ダフ・クーパーという人物は初耳なので、検索したら↓のサイトがヒットしました。駐仏大使を務めていたようです。
https://kotobank.jp/word/%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BCA.+%E3%83%80%E3%83%95-1625613

「タレイラン評伝」だけでも面白そうですね。タレイランはフランス史でも指折りの策士と思いますが、その放蕩はともかく、外交力を高く評価しているのは外交官らしい視点でしょう。ツヴァイクのタレイラン評は見たことがありませんが、人間性を批判するとはいかにも小説家的。私が見たツヴァイクの作品は「マリー・アントワネット」だけですが、ここでも王党派、革命家問わず人間性を批評する傾向がありました。

 それにしても、ルイ十六世について詳細に書いたブログ記事があったのですか。大変な読書家だったことはツヴァイクや、それに基づいて描かれたベルばらにも載っていましたが、聡明な頭脳の持ち主には程遠い王様となっていた。
 尤も池田理代子氏もインタビューで、結婚するならルイ十六世が理想の夫と言っていました。愛などいつかは醒めるし、お金持ちで優しい性格は好ましい、と。この辺は私も全く同感です(笑)。

 紹介された近頃の漫画のルイ十六世ですが、はじめの画はルイ十五世?と思うほどのイケメンですね。少女漫画特有のお耽美キャラで、美化しすぎかも。もうひとつはリアリティがありますが、最後の言葉からも善人だったのは確かでしょう。
返信する
タレイラン (スポンジ頭)
2017-10-29 22:25:49
 こんばんは。

 タレイランははっきり言って怪物ですね。僧侶でありながら放蕩三昧(ルイ十六世に司教になるのを一旦拒否されたとか)、三部会の議員に選出され、革命後アメリカに亡命するものの、総裁政府の一員となり、ナポレオンに仕え、ルイ十八世に仕え、更にルイ・フィリップに仕え、いつも権力のごく中心にいた、と言うのは信じ難い事です。
 その上、総裁政府時代にナポレオンのクーデターを画策して彼を第一人者にのし上げ、次にナポレオンの失脚を画策、最後はルイ王朝に対するクーデターを成功させるなど、大した陰謀家です。

 ナポレオン失脚時にはフランス代表として各国と交渉しますが、結局賠償金も略奪品の返還もなく、フランス革命時の領土はそのまま保全、どう言う芸当を使ったのか、と聞きたくなる程の鮮やかな手並みを見せました。道徳心なしで評価するなら超級の外交官です。このような人物、日本史では思いつきません。

 >少女漫画特有のお耽美キャラ
 
 掲載されているのは青年誌で、死刑執行人のアンリ・サンソンを主役とした「イノサン」と言う漫画です。未読ですが、死刑執行人の漫画なので処刑シーンも多く、ダミアンの処刑や車裂き刑もあります。ルイ十六世は少年時代に偶然サンソンと出会い、厭世的な彼は死刑を執行する彼に特別な感情を持っている、と言う設定だそうです。作者も男性です。この手の漫画は製作にさぞかしエネルギーを消耗すると思われます。
返信する
Re:タレイラン (mugi)
2017-10-30 21:37:38
>こんばんは、スポンジ頭さん。

 僧侶でありながら大政治家という点ではリシュリューも同じですが、タレイランほどの悪辣さは感じられません。フランス王家と国家に生涯を捧げた人物という定評があり、一方タレイランは私利私欲が全面に出ているような。尤も2人の生きた時代はかなり違っていますが。
 仰り通り、ナポレオン失脚時での外交は見事としか言いようがない。敗戦国でありながら、これほどの交渉力を駆使するのは日本では考えられないでしょう。

 最初の美形ルイ十六世を描いたのは、男性漫画家だったのですか??アンリ・サンソンを主役とした「イノサン」と言う漫画、以前に貴方から紹介されたことがありますが、私も未見です。設定は実に面白そうですが、ダミアンの処刑や車裂き刑も出てくるとは、読むのにもエネルギーがいりそう。
 試に「イノサン」の画像を検索したら、モロにグロシーンの連続でした。やはりこの手の漫画は苦手です。
返信する