十数年ぶりに降り立った若松の街は、自分の記憶以上にうらぶれており、商店街に市場など、小一時間立ち止まって観察したくなる街並みが至る所に点在しています。そんな若松の街には、昔ながらの赤看板を掲げるMOSが今なお健在です。
昨年九州と沖縄を旅したとき、最終日に小倉の古いMOSを二軒訪ね歩いて、何もかもがそのまま残っているのに驚かされたものです。そして今回、九州はもとより全国屈指の古株であるこの店舗にも、そのときと同様に感嘆させられる結果となりました。
何よりも特筆すべきは店構えです。若戸大橋へと続く高架橋に面して建つ、四角い木造モルタル二階建ての建物は、正面中央が三角形に突出するという個性的なファサードを持ち、交差点に面した角はよくよく見ると曲面になっています。玄関側には色褪せた電光式の赤看板が掲げられ、側面ではMOS BURGERのロゴを描いた横長の赤看板に照明が当てられており、商店街と一続きになった赤い日除けが、看板のある二面を囲んで、古びた店舗の外観をなおさら引き立てているようです。しかもその日除けには、店名と電話番号が色褪せた文字で書かれているのですからたまりません。
思わず刮目させられる外観に比して、店内では壁と腰板が改装されており、壁際に並んだ四人掛けのテーブルと椅子も、およそ一昔前に一度交換されたと見受けられます。しかし、中央にある作り付けの細長いテーブルと椅子は、紛れもなく二十年来変わらぬ往年の名残です。天井から下がった球形のランプシェード、タイル地にステンレス焼き付けのMマークをあしらったレジカウンターもそのまま残っています。
つい最近まで、洞海湾を隔てた戸畑の街にも、古びた赤看板のMOSが残っていました。それだけに、両店を揃って再訪する機会を、あと一歩のところで永遠に失ってしまったのが惜しまれます。とはいえ、初めて訪ねた十数年前でさえ、昔懐かしさを感じた若松のMOSが、大きく変わらぬ姿で残っていたことだけは幸いでした。このうらぶれた街を目当てに、若松にはいずれ再訪する機会があるでしょう。そのときもこの店舗が健在でいてくれることを願って止みません。
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モスバーガー若松店
北九州市若松区中川町1-10
093-751-5972
700AM-200AM
第168号