吉良吉影は静かに暮らしたい

植物の心のような人生を・・・・、そんな平穏な生活こそ、わたしの目標なのです。

ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン(上)』早川書房(2016年10月25日発行)

2016-12-16 09:59:21 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護

USJといえば銀行?いえいえ、あれはUFJ。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンも間違いではないけれど、USJといえば今やこの『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』ですよ。すでに第四刷まで出ています。



 ストーリーは・・・。

 第二次世界大戦では枢軸国側が勝利した。日独に挟撃されたソ連は厳冬期を待たずひとたまりもなく降伏。勢いを駆って両国はアメリカ本土へ進撃した。劣勢が明らかになっても徹底抗戦を叫ぶアメリカであったが、本土で日独共同開発の原子魚雷が炸裂するに至ってようやく降伏、ここに第二次世界大戦は終結した。ここまでが物語の背景。

 アメリカの西半分は今や『
ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン(日本合州国)』と名を変え日本軍に籍を置く官僚たちによって統治されている。主人公はここで働く石村紅功(いしむらべにこ)大尉(通称”ベン”)。変わった名前なのは、生まれて来る子供が女の子だと信じて疑わなかった母親がどうしても名前を紅子にしたかったからだ、と説明されている。

 石村大尉は帝国陸軍検閲局に勤務し、合州国内の情報統制を行っている。女にだらしなく勤務態度もイマイチで昇進では同期に遅れを取っている石村大尉だが、プログラミングの才能があり、主にオンラインゲームに関する思想チェックを行っている。 

 最近、USJでは非合法の『
USA”ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ”』なるゲームが密かに広まっており、第二次世界大戦で神国日本が敗戦したなどという偽歴史の浸透をはかり、帝国臣民の陛下への忠誠を揺るがそうとする陰謀が進行中である。USJにはジョージ・ワシントン団に代表される抵抗勢力がまだまだ存在し、恐れ多くも現人神であらせられる天皇陛下に対する反逆を試みるべく日夜画策しているのである。

 ある日、かつての上官である六浦賀(むつらが)将軍から掛かってきた一本の電話から石村大尉の日常は一変していく。接触してきた特高警察課員である槻村昭子(つきむらあきこ)の口から『
天才的な軍事ゲーム開発の第一人者であった将軍(現在は失踪中)が、帝国の思想的背景を脅かそうとする反分子ゲーム”USA”開発に関っているらしい』と聞かされる。はからずも槻村課員と調査を開始した石村大尉の前に、映画『ブレードランナー』や、人気アニメ『PSYCHO-PASS “サイコパス”』にも似た悪夢的な世界が明らかにされていく・・・。

 ここまでストーリーを追っていくと、この小説がフイリップ・K・ディックの名作『高い城の男』を下敷きにしていることがSFファンには分かって来る仕掛けになっている。登場する小道具や武器類もナカナカ魅力的で、実にオモシロイ。下巻では”メカ”と呼ばれるサイコガンダムに似た巨大ロボットによる戦闘シーンもあるようで期待大です。表紙を見た感じでは実にキワモノっぽいのですが、実によく練られたプロットに感心します。作者は韓国系アメリカ人で日本文化オタク。『アジア人の支配するアメリカで、アジア人であるということはどんな意味を持つのか?』をシュミレーションするために書いたというから、ナカナカの屈折ぶり、オタクの面目躍如です。オススメです!!!

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