MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯743 膨張するビットコイン市場

2017年03月05日 | 社会・経済


 インターネット上で取引する仮想通貨である「ビットコイン」の価格(ドル建て)が3月3日に最高値を更新したと、3月4日の日本経済新聞が伝えています。

 ビットコイン情報サイトを運営するコインデスクによると、従来の最高値だった2013年11月の1165ドルを今年2月23日に上回ると、翌24日には一気に1200ドルを突破。3月3日には1290ドル台まで上昇し、現在では天井を打つ気配も見えない状況だということです。

 記事は、こうした昨今の価格上昇の主因は、取引の9割を占めるという中国にあると見ています。実際、人民元の先安観を背景に、中国に暮らす普通の市井の人々までもが資本規制のないビットコインに資産を逃避させているということです。

 今年に入ってから、中国人民銀行(中央銀行)が取引所への検査を始めたことで、ビットコインの価格は足踏み状態を繰り返していました。しかし、2月下旬に米国でビットコインの上場投資信託(ETF)が許可されるとの思惑が広がったことで、3月に入りコインの価格は一転、急激な上昇の気配を見せているということです。

 改めて説明するまでもありませんが、ビットコインはネット上のシステムのもとで(ある意味)機械的に運営され、取引が仲介者なしで(ユーザ間で)直接に行われるのが特徴です。

 2009年に仮想通貨として運用され始め、現在では、ビットコインを商品やサービスの対価として受け容れる企業の数は、世界中で10万社を超えているとされています。

 クレジットカード会社は決済に当たり通常2-3%の手数料を課しますが、ビットコインシステムを通せば、多くの場合企業は0%以上2%以下のトランザクション手数料を支払うだけで済みます。

 (そのため)ビットコインを利用すれば、通常の信用取引よりも極めて低いコストでの決済が可能となることから、投資家の決済手段としてコイン取引が広がるのに、それほどの時間はかかりませんでした。

 特にビットコインにとって幸いだったのは、何といっても特に自国の通貨人民元をあまり信用していない中国人の間で、その存在に注目が集まったことにあるようです。

 ビットコインの情報サイト「コインダンス」によると、中国国内のビットコインでの売買高(人民元建て)は2月18日までの1週間で3620万元と、前の週の660万元に比べて5倍以上に膨らんでいるということです。

 さらにここに来て、中国で急激な拡大を見せているのは、「ローカル・ビットコイン」と呼ばれる(公開された)取引所を介さない相対取引システムの活用だと記事は指摘しています。

 ウェブサイト上にビットコインを売買したい人が集まり、条件が合う人と直接取引する。彼らは、オンライン上で取引相手に直接出会い、交渉することで、現金とビットコインとを相対交換しているということです。

 こうして、急激な拡大を見せるビットコインの世界ですが、一方で、日本の保有者は未だわずかに数十万人に過ぎないということです。

 ビットコインの大手取引所である「ビットフライヤー」によれば、日本におけるビットコインの取引高は前年同月比50倍に増えたとしています。しかし、日本人がこの「通貨」を根本的に「信用」するようになるにはまだまだ時間がかかりそうな雰囲気です。

 2014年の2月に、世界のビットコイン流通量のおよそ7割を扱っていたビットコインの取引所「マウントゴックス」を運営するMTGOXが東京地裁に民事再生法の適用を申請し、実質的に破たんしたことで、日本でのビットコインに対する信用は一時大きく失われました。

 その際、顧客が保有する75万ビットコインのほか、購入用の預かり金も最大28億円程度が消失。当時の取引価格(1ビットコイン=550ドル前後)で計算すると、失われた預かり金の額は470億円前後にも上ったとされています。

 ビットコインは、採掘、もしくは商品・サービス・他の通貨との交換、また寄付を受けることにより入手できる、仮想の「金融商品」と考えたらいいのかもしれません。

 中央組織がないビットコインの信用は、ネットワーク参加者全体で相互に形成されていると言えます。価値下落を防ぐ努力をするような中央組織は存在しないというリスクがある一方で、使用者の意図に反して恣意的に価値をコントロールすることもできません。

 つまり、その価値を裏図けるものが(現物としては存在しない)使用者相互の「信用」であるだけに、そこにどれだけの信頼を置くことができるか、言い換えればそのリスクをどれだけ負う覚悟があるかが、通貨としての安定感を決めると言ってもよいでしょう。

 ビットコインの取引額が増えれば増えるほど、その信用が破たんした場合のリスクが世界経済に与える影響が大きくなるのは必然です。

 ただでさえ(中央銀行のような管理者がいないため)実態が把握しにくいビットコインですが、さらにローカル・ビットコインのような政府にも補足されない利用者同士での取引市場が大きくなっていることで、金融当局側もそうした(アンダーグラウンドでの)動きを無視するわけにはいかなくなりつつあるようです。

 社会主義市場経済を唱える中国ですが、その基本となる人民元の安定感が今一つな中、中国マネーの「逃げ場」のひとつとして膨張を続けるビットコイン市場から目が離せない状況は、これからもまだまだ続くことでしょう。

 「富」とは何なのか、「豊かさ」とは何なのか。子供たちに胸を張って答えることができるよう、私たちには(私たちの世代がこうして作り出した)このバーチャルな世界の行く末を、しっかりと見守っていく責任があるのだと思います。