375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

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歴史的名盤を聴く(5) ギュンター・ヴァント @1993 Munchen Live

2010年02月15日 | クラシックの歴史的名盤

シューベルト:交響曲第9番ザ・グレート
ギュンター・ヴァント指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
(1993年5月28日ミュンヘン、ガスタイク・フィルハーモニー:ステレオ・ライヴ録音)  PH06014

シューベルト最後の交響曲となった『ザ・グレート』は、クラシック音楽に興味を持つ以前から思い入れの深かった曲のひとつ。第1楽章、冒頭のホルンが奏でるイントロを聴いただけで、遙かなるバイエルンの森の情景が思い浮び、なんともいえない懐かしい気分になる。見知らぬ秘境を探検するようなワクワク感とでも言おうか、子供心に帰って、悠久の大自然と一緒に呼吸するような喜びがここにある。

そして、第2楽章の3分30秒過ぎに現われる哀愁のメロディが、まさに絶品。こういう音楽が聴けるのなら、生きていてよかったと本気で思えるほどのロマンティックな旋律だ。前半の2楽章があまりにも素晴らしいので、第3楽章以降は聴かないことが多い。もちろん全4楽章ひっくるめて傑作であることは間違いないのだが、演奏の勝負はあくまで前半の「黄金の2楽章」で決まる。ここまでで感動できなければ、それで終わりである。

シューベルトは31歳の若さで亡くなったが、彼自身は、これから自分の時代が来ると最後まで信じていた。決して厭世的な作曲家ではない。『ザ・グレート』は結果的には最後の交響曲になったけれども、彼の意識の中では最初の大作だった。それゆえ、内容的には同時代のベートーヴェンにも負けないほどの規模になっている。

ただし、ベートーヴェンの交響曲に見られるような汗だくな人間ドラマとはまったく無縁。どちらかといえば、後のブルックナーを予見するような、悠揚迫らざる音楽に仕上がった。演奏は簡単そうで難しい。レコード芸術などの雑誌で専門家が「推薦」しているディスクを聴いても、なかなか満足できないことが多い。思い入れの深い曲だけに、こちらの要求も贅沢になってしまうのだ。昔から評判のいいワルターの演奏でさえ、前半の2つの楽章が今一つ物足りなく感じる。

現時点で最も理想的な域に達しているのは、ドイツの指揮者ギュンター・ヴァントによる3種類のライヴ録音。ヴァントといえば、晩年にベルリン・フィルを指揮したブルックナーの演奏が大評判になり、80歳を過ぎて超メジャーの地位を確立したことで知られるが、自分にとっての「ヴァント体験」の原点はシューベルトだった。

ヴァントが晩年に遺した3種類の『ザ・グレート』は、それぞれオーケストラが異なり、演奏時間にも違いがある。

北ドイツ放送交響楽団とのライヴ(1991年4月21~23日録音)
 第1楽章[13:53] 第2楽章[15:51] 第3楽章[10:42] 第4楽章[11:53]

ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団とのライヴ(1993年5月28日録音)
 第1楽章[14:16] 第2楽章[16:26] 第3楽章[10:54] 第4楽章[12:31]

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのライヴ(1995年3月28~29日録音)
 第1楽章[13:56] 第2楽章[15:46] 第3楽章[10:46] 第4楽章[12:12]

録音時期は1991年、1993年、1995年と2年おきの短期間で行なわれているので、指揮者の解釈に根本的な違いはないはずだが、オーケストラという媒介を通すと、聴こえてくる音楽には、それぞれ微妙な特色が出てくるのが面白い。

最初の北ドイツ放送交響楽団はヴァントの「手兵」なので、ヴァントの意図が隅々まで行きわたっているという点では随一といえるだろう。スケールは大きくないが、見通しが良く、全体的に凝縮された響きに特徴がある。しかも随所に素朴でローカルな隠し味があり、本来のヴァントらしさが最もよく出た演奏でもある。

2番目のミュンヘン・フィルは、最も演奏時間が長い。この当時はまだ常任指揮者チェリビダッケの支配下にあって、オーケストラが遅いテンポに慣れてしまい、どうしても「速くできなかった」というのもあるだろう。しかし、皮肉なことにヴァントがコントロールしきれなかったテンポの遅さが、逆にスケールの大きな、ゆとりのある響きを生み出すことに成功しているのだ。それでいてヴァントならではの緻密さも健在。何度聴いても飽きない、熟成の味を楽しめる名演が誕生することになった。

3番目のベルリン・フィルは、さすがに世界有数のヴィルトオーゾ集団だけあって、聴きごたえのある立派な演奏を展開している。シンフォニックな迫力では、文句なしにナンバーワンだろう。ただ、演奏のテンポはやや速くなっているので、ミュンヘン・フィルに聴くような雄大なスケール感と深みには到達していないように思う。

というわけで、どれか1枚を選ぶとすれば、自分の場合は2番目のミュンヘン・フィルを採るだろう。もちろん、それぞれの好みがあるので、どれを選ぶとしても現代最高水準の『ザ・グレート』を満喫できることは、間違いないはずだ。

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ミュンヘン・フィルの魅力 (内之助)
2010-03-08 12:56:51
この演奏を聴きました。曲のもつ自然な勢いを生かした、良く流れる演奏ですね。ミナコヴィッチさんが以前書いていらっしゃったように、ミュンヘン・フィルの明るく澄んだ音色が魅力的です。特に、やや強めに奏されるトランペットの柔らかく輝かしい音色が印象的でした。演奏後の拍手が収録されているのも僕の好みです。良いCDを教えていただきありがとうございました。
ところで、『クラシック音楽に興味を持つ以前から思い入れの深かった』という下り、ちょっと気になりました。クラシック音楽ファン以外には、案外となじみの少ない曲だと思いますので。差し支えなければお聞かせください。
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ドイツ・ロマン派の原点。 (ミナコヴィッチ)
2010-03-10 01:02:35
自分がクラシック音楽を本格的に聴くようになったのは20歳代からで、それ以前は主にPOPS・歌謡曲系の音楽を聴いていました。でもなぜかシューベルトには昔から愛着があって、なぜだろうと考えてみたら、小学校時代に音楽室で見た肖像画がとても穏やかで、それが当時の自分の癒しになっていたのが始まりだったようです。
シューベルトの交響曲といえば『未完成』が有名で、たいていこちらのほうが入門曲としてよく聴かれますが、なぜか自分が惚れたのは『ザ・グレート』のほうでした。自分にとっては、この曲がドイツ・ロマン派の原点です。
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Unknown (内之助)
2010-03-12 09:34:59
まさに「筋金入り」の『ザ・グレート』ファンなのですね。また機会があったら、お薦めのCDを教えてください。
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