WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『新宿で85年、本を売るということ』(著者:永江 朗)

2013-03-31 16:33:51 | 本と雑誌
新宿で85年、本を売るということ (メディアファクトリー新書)新宿で85年、本を売るということ (メディアファクトリー新書)
価格:¥ 777(税込)
発売日:2013-02-28


高校時代、ゲーテも讃えた複式簿記の完璧な左右対称の美しさに目覚め、普通科の授業はそっちのけで勉強に没頭した。同級生がボーイフレンドやメイクや買い物に夢中になるなか、ひとり桁数の多い大きな電卓をしゃかしゃかと楽しげにたたく高校1年の娘に、親はさぞかし気味悪く思っていたに違いない。



しかし困ったのは、先生は書籍だけというザ・独学環境。こういう専門書は東京の大型書店でないと・・・と地元の店員さんの書いてくれたメモを頼りに、てくてくと電車を乗り継いで何度も迷いながら、やっと八重洲ブックセンター本店にたどり着く。入った途端、ライトに照らされた巨大な棚の、上から下までぎっしり本がならべてある店内にどぎもを抜かれて目をみはった。そのときの驚きと、ぱっと視野が洗われたような気持ちよい感覚といったら。わぁ、世界にはこんなに本があるんだ。



以来、神田の三省堂、大学時代は新宿の紀伊国屋にもよく通った。朝、一元目の授業を受けてそのままリターンし、新宿東口の駅の地下にあったこじんまりした喫茶店で、濃くておいしいコーヒーとサンドイッチをかじり、紀伊国屋で本を買う。なんてご機嫌な生活だったんだろう。



という甘いノスタルジーに浸りながら読んだ。洋書と法人への納入が利鞘が大きいのね、今のビルは昭和39年に落成したんだ、名物「じんぶんや」のはじまった由来、・・など、メガストアでも売上ナンバーワンという紀伊国屋書店本店の歴史とビジネスの一端が垣間見える。





『真珠夫人』(著者:菊池 寛)

2013-03-25 21:17:05 | 本と雑誌
真珠夫人 (文春文庫)真珠夫人 (文春文庫)
価格:¥ 730(税込)
発売日:2002-08


今年は桜の開花が早く、今日、会社24階の窓から浜離宮を見下ろしたら、広大な緑の庭園の中に何本か植えてある桜が満開。枝いっぱいに薄桃色の花びらがぎっしり、そぼふる雨に濡れて重たそうにしだれている。「願わくは花の下にて春死なん」桜といえば定番の西行の歌を口ずさむ余裕があるのは珍しい。いつも激務の時期ばかりだとゆくゆく心が枯れてゆくから。



ここ最近、いやに読書が進んで、新しい領域のものを読んでみようとか、次はこれを手に取ろうとか思うのが、我ながら、体力が充実し気持ちが潤っている感じ。好きな本を読むのもエネルギーがいる。昨年心身ともに疲れていたときには、まったくそんな気が起きなかったもの、いいことだ。何より本屋に行くのがうきうきする。



2月に兄夫婦と丸の内でイタリア料理を食べたときに、待ち合わせに少し時間があったので丸善に立ち寄り、本棚に見つけて買った。大正9年に書かれ、純文学から通俗小説に転向した東京帝大の先輩の大ヒット小説に、遠慮しいしい解説をつけているのが昭和35年、川端康成。典型的なメロドラマにもこの時代における日本文壇の味深い、いや100年たって典型になるほど優れた作品。




『女ざかり』(著者:丸谷 才一)

2013-03-23 20:38:58 | 本と雑誌
女ざかり (文春文庫)女ざかり (文春文庫)
価格:¥ 750(税込)
発売日:1996-04


下期の仕事が順調に片付いてゆき、これから少し充電して、新しくやりたいことの準備。課題や困難はたくさんあり、めげたこともあったけれど、ぶちあたると闘志がわいてくる負けず嫌いの性格からなんとか自分の納得いくレベルまでいけた気がする。



それでほっとしたのか、春のあたたかい陽気に神経がゆるんで、アトピー再発防止にもらった薬をのんだらおそろしいほど眠い。木・金と日中も目に霞がかかるくらい、舌がまわらず支障がでて困る。けさなど春眠暁をおぼえずどころか、お昼ちかくまで熟睡、おきてもまだ頭の芯がぼうっとするくらいよく眠った。



午後から読書、丸谷才一先生の小説にすっかりはまって、この人の描く女性はなんて魅力的なんだろう、素敵な美人で頭脳明晰、颯爽と生きかたの思いっきりがよい。女ざかりの45歳のジャーナリストは、書いた記事が宗教団体の逆鱗に触れて、会社からかかった左遷の圧力に半年も耐えるタフな大人なのに、10年付き合っている哲学者に「逢って寝るだけじゃ恋じゃない」とブチ切れるところがかわいい。それにしてもここちよい眠気が続き、ソファで冷たいビールを飲みながらまたウトウト。色のついたまとまりのない夢をみる。明日は誕生日。この1年、後悔しない生き方ができますように。




『ブラウン運動』(著者:米沢 富美子)

2013-03-16 17:35:59 | 本と雑誌
ブラウン運動 (物理学One Point 27)ブラウン運動 (物理学One Point 27)
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:1986-12-15


ブランドを見ていただいている会社と昨年プロジェクトの打ち上げに、表参道の「よろにく」というお店へ。お肉がたいへん美味しく大満足。私はたまに会社の忘年会などで焼肉に行くと異常に食べる。あまりの量にみながドン引きするくらい食べる。骨格が華奢で細いので、ギャップに圧倒されるらしい。だいたい、コースのお肉の最初でごはんをお願いし、それをお替りし、お肉も追加し、それから最後のお食事の冷麺を食べ、さらに人が残した冷麺ももらって、デザートもちゃんと食べる。我ながら書いていて気持ちわるい(笑)



これが水曜の夜で、お店を出ると土砂降りの雨。横なぐりに吹きつける風の強さも半端ではない。私の自宅は駅から離れているので、こういうときは歩きながらなにか現実を離れたことを考える。たとえばこの風の30倍以上の猛スピードで、あらゆるもののなかで毎秒ぶつかり合っている分子運動のこと。すごいよね。木も花も水も岩もダイヤモンドも人間の体も等しく、おそろしいエネルギーで構成されているのだ。



ずっと気になっていた日本の女性物理学者、米沢博士の著書。ブラウン運動は、1827年に発見された粒子の普遍的な動きで、約1世紀ののちにアインシュタインによって革命的に飛躍した原子論の基礎でもある。学生時代は大のニガテであった物理が、なぜか大人になってから興味を惹かれて、それは分子や原子の、重力や天体の均衡の、光やベクトルの、いずれも目に見えない不思議な世界がわくわくと心をそそるからか。





『ちくま哲学の森2 世界を見る』 編

2013-03-10 19:24:36 | 本と雑誌
ちくま哲学の森 2 世界を見るちくま哲学の森 2 世界を見る
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2011-10-06


会社で昼どきの打ち合わせ時に、チームメンバーのお弁当のおかずをのぞきこんで、「その卵色の、美味しそう」と言ったら、「あ、ふつうのヒロウスですよー」との答え。大人になってから、日常のことば、しかも食べものという一般的なジャンルで完全に未知の日本語を聞いたので、そのとき私は一瞬、なにか違う異次元に入ったような衝撃(?)を味わった。ヒロウス?なに?



目が点になっている私のために、「お豆腐に具をいれるやつです」「ほら、煮物によく入ってるー」と何度も説明してもらったのだが、異世界のことばは豆腐とか煮物という日常とまったく結びつかない(笑)最後に「ああー。東京ではがんもどきっていいますね」と言われて、やっと合点がいった。



私は小さいころから本好きだったため、書いてあることが幼い頭で理解できないと、まず頭のなかにある既知のもので置き換えて分かろうとした。(負けず嫌いだったため、わからないままにしておくのはその本に負けたような気がして我慢ならなかった。笑) 難解な一文がさっぱり判読できない場合、パーツの単語ごとに分解して、ひとつひとつ置き換えていく、するとなんとなく意味がわかったような感じがする。まさに、ヒロウス→がんもどき。その繰り返しで、新しいことばやものごとをたくさん覚えたし、自分では経験できないような世界を著者のひらく扉のむこうに心ゆくまで遊ぶことができた。



最近、まだまだ知らない知的世界がたくさんあることに気づいて、新しいジャンルのものを読もうと思っているところに、ぴったりな本をいただいた。知らない著者のものが多く収められていて、どれもおもしろい。とくに「狂信と殉教」「ピタゴラス」「哲学革命」がおもしろい。大人になってからの視野狭窄を避けるためにはこういうのがいい。