ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

ニホンバラタナゴとタイリクバラタナゴ

2011-08-02 22:35:58 | 遺伝的多様性
 今回はいつもと文体を変えてみました。知識のない人にもわかりやすくを意識しています。

 ニホンバラタナゴという淡水魚がいる。かつては、九州、四国、近畿地方に生息していたんだけど、今ではほとんど見られなくなっちゃった。現在確認されているのは、北九州、香川、大阪、奈良の4か所。環境省のレッドリストでは、イリオモテヤマネコと同等の絶滅危惧ⅠA類にランク付けされてる。野生絶滅を除き、もっとも絶滅の危険性が高いランクにいるわけ。どうしてこうなったかというと、一番は、近縁な種であるタイリクバラタナゴが侵入してきたから。タイリクバラタナゴはその名の通り、中国大陸に生息し、日本には戦前頃にソウギョなどの移植に交じってきたとされる。
ダーウィンの進化論の中で有名なキーワードに「自然選択は同種の間で最も激しくなる」というのがある。噛み砕いて言うと、餌や住処など生きるのに必要なものが重なり合うほど、それらをめぐる競争が激しくなるわけ。ニホンバラタナゴとタイリクバラタナゴは亜種という関係にあるんだけど、ほとんど同じ環境で暮らしている。つまり、著しく生きるのに必要なものが重なっているわけ。餌や住処だけならともかく、お互いに交配することができ、配偶者を巡って争うことにもなった。ここで問題になったのが、ニホンバラタナゴとタイリクバラタナゴが交配すると、世代を重ねるごとにタイリクバラタナゴの遺伝子ばかりが増えてくるということ。つまり、最終的にニホンバラタナゴの遺伝子はほとんど残らないわけ。これはニホンバラタナゴという種の絶滅を意味する。こういうのを専門用語で遺伝子汚染や遺伝子かく乱と言う。どちらを使うかは専門家によりけりで、統一された見解はない。
この交配はとてもひそやかに進行していく。ニホンバラタナゴとタイリクバラタナゴを見分けるわかりやすい特徴に、タイリクバラタナゴは腹ビレの縁が白いという特徴がある。ほかにも特徴はあるけど、これが一番簡単でわかりやすい。じゃぁ、タイリクバラタナゴの遺伝子を持っていれば皆ヒレが白いかといえばそうでもない。ニホンバラタナゴとの交配で生まれたF₁世代以降でもヒレが白くないやつもいる。つまり、一度、タイリクバラタナゴがニホンバラタナゴの生息地に侵入すると、専門家でも遺伝子を見なければ、どちらなのか確実なことは言えないということ。
そういうわけで、ニホンバラタナゴの保護をしているところではタイリクバラタナゴの侵入にとても神経をとがらせている。入ってしまったらお終いなのだ。

タイリクバラタナゴのオス


ヒレの前縁部が白い

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