ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

切なかったりおいしかったり

2016年10月14日 | ひとりごと
大阪に住む弟が、彼のフェイスブックのページに載っけた写真。

http://www.redbull.com/us/en/esports/stories/1331823433118/marlinpie-interview-at-ceotaku-arc-revo?p=1331823434770

『MarlinPieを語ろう』みたいな調子で、次男くんのスポンサーの一つである会社が書いた、コラムの中の写真だった。
核ゲーと呼ばれる次男くんは28歳。
大学卒業と同時に就職し、会社の移転で失業し、8ヶ月の就活の後、今居る会社に就職した。
仕事が忙しかったり、仕事仲間と張り合う卓球に精を出したりして、最近は特にゲームの練習量が少なくなっていたのに、
なぜか今年のEVO(毎年ラスベガスで行われるビデオゲームの世界大会)で、トップ8にまで食い込んだ。

ここにも何度か書いたけど、夫とわたしは、彼のビデオゲーム遊びを、ずっと長い間、好ましく思っていなかった。
特に、日本で暮らしていた時(彼が幼稚園児から小学生だった頃)は、目の敵のようにして、なんとか止めさせられないものかと、いろんな約束や制限を与えた。
車に乗っていても、電車に乗っていても、窓の向こうの景色をろくに眺めもせずに、ただただ嬉しそうにゲームの話をする彼を見ては、
こんなことでは、情緒が欠けたまま大人になってしまうのではないか、周りの現実の世界からかけ離れてしまうのではないかと、本気で心配した。

彼は、幼い頃から、集団行動が大の苦手で、先生の指導に従わないことが多かった。
突飛なことをしては、友だちを驚かしたり笑わせたりしていた。
今で言うと、多動症という病名がつけられてしまっていたかもしれない。
だから、学校の担任の先生たちには、すこぶる評判が悪かった。
後で聞くと、彼はそのことを、ずいぶん気にしていたようだ。
実際に、先生からは、虐待とも言えるような言葉を、何度が投げつけられていた。
本当は、先生に好かれるような生徒になりたいと思ってたけど、もう後の祭りで、変えようがなかったと、これも大人になってから聞いた。
だから、日本からアメリカに引っ越すというような、大きな変化を利用して、ここでは良い生徒になろうとしたのだそうだ。
ところが、いかんせん、言葉がろくに分からない。
だから、意思の疎通はもちろん、教科の成績だって、思ったようにはうまくいかなかった。

そんな彼を、それでも人生それほど悪かない、と支えてくれたのがゲームだったのだと、ずいぶん時間が経ってからしみじみと思った。
もしわたしが、『習い事』はためになること、『ビデオゲーム』はただの遊び、という観念を、もっと早くから振り払えていたら、
彼は思い存分練習ができて、もっと早く、もっと強いゲーマーになれていたのかもしれない。
ピアノだったら、練習にいくら時間を使っても、わたしはニコニコしていただろう。
実際彼は、いっときピアノに凝った時があって、はじめは真似っこで弾いてたのが、いつの間にか楽譜を独学で読むようになり、ショパンのワルツやベートーヴェンのソナタを、表情豊かに弾いたのだ。
ドラムを叩いても良し、スポーツをしても良し、やる事なす事、とりあえず中級の上ぐらいまでできてしまうので、
だから余計に、ビデオゲームさえしてなかったら今頃は…などという、親の欲目が出てきて、だから小言を毎日言い続けていた。

EVOに毎年出場するようになって初めて、夫とわたしは、インターネットの画面で、彼の試合風景を観た。
彼の後ろに座る、何百人ものファンの人たちが、立ち上がったり手を上げたりして、それはそれは楽しげに、彼を応援してくれていた。
そのうちスポンサーが付き、大きな大会への旅費や宿泊費を出してもらい、ある程度良い成績を残さなければならなくなった。

そんなこんなの、いろんなプレッシャーがかかる中、いったいどんな気持ちで出場しているの?と聞くと、一枚のCDを渡された。
ここに全部、その答が入ってるから、と言って。
それは、彼が好きな日本のバンド『バンプ オブ チキン』の『ノーヒット ノーラン』だった。

物語の始まりはそう 成す術の無い僕らが主役
白いライト当てられて 期待を背負って
頼むぜ我らがスラッガー
今日はどうした 未だノーヒットノーラン

一番前で見ている人の目 その想いは僕を焦らせて
高鳴る心の背中につかえる
ため息に勇気かき消されても「まかせろ」なんていう
だけど
ライトからすぐ逃げたいよ
打てるかな
打てなきゃノーヒットノーラン
スラッガーだって怯えるんだ

好きな時に好きな事をして 時々休み
また適当に歩き出していた
それがいつの間にか
誰かに何か求められて 誰にも甘えられない

ライトからすぐ逃げたいよ
だけど僕はスラッガー
ノーヒットノーランのままじゃ認められない
そんな僕は存在しちゃいけない
願わくば怯える自分に逃げ場を与えてあげたい
願わくは誇れる自分と名誉とライトが欲しい
ボクにナニガノコルンダロウ?
臆病なボクにナニガデキルンダロウ?

ライトがまだ足りないよ
「僕はスラッガー」
もっと思い込ませてくれ

物語の始まりはそう 成す術の無い僕らが主役
白いライト当てられて期待を背負って

「頼むぜ我らがスラッガー」
「まかせろ!」って僕は胸を叩く
この手よ今は震えないで
この足よちゃんとボクを支えて
白いライト当てられて怯えないように
帽子を深くかぶり直し 不敵に笑うスラッガー
普通に生きてりゃ誰だって ライトを浴びる日は訪れる
そんな時誰でも臆病で 皆腰の抜けたスラッガー
ノーヒットノーラン 誰かにそれを知って欲しいから 
「まかせろ!」って僕は胸を叩く

パフォーマーとしての自負と恐怖、そしてファンに楽しんでもらいたい、喜んでもらいたいという願い。
本気だ…。
そう思った。
わたしが想像しているよりもっともっと。

息子たちには、わたしが決めて行動したことに付き合わせたから、大変な思いをたくさんさせてしまった。
それをひとつひとつ乗り越えてきた子だから、強いんだと思っていた。
けれども彼は、そういう外から受けてきた波だけでなく、自分の中にうねる波とも闘ってきたのだ。
これからどれくらい続けていくのか知らないけれど、ずっと邪魔してきた分、応援してるからね。


話は変わって、
今日は、のんちゃんが届け物をしに、我が家までやって来た。
まぁるい家に住んでいるのんちゃんとわたしは、ほんの少し前に知り合ったのだけど、すぐに仲良くなって、今じゃ何時間話しても話し足りないぐらいの親友だ。
仕事が始まるギリギリまで話している間に、互いの息子たちのことも話した。
彼女も二人の息子のお母さん。
どことなく似ている4人の若者たちの話を、笑ったり涙ぐんだりしながら、おばちゃん二人でワイワイ語り合った。

のんちゃんは今日もまた、美味しいものをいっぱい、お土産に持って来てくれた。

マサチューセッツ州のケープカッドからの、新鮮で超〜美味しい牡蠣!






そしてオーガニック野菜!


水で洗って、オリーブ油とすりおろしたにんにく、それから塩コショウを混ぜたのを塗り、オーブンで素焼きしていただいた。


素晴らしい夕食になった。
いつもありがとう!ご馳走さま!