ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第 2回 BEAU PAYSAGE@「キャッチ The 生産者」

2008-12-26 15:02:04 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2004年6月11日)

第2回 岡本 英史  <BEAU PAYSAGE>




第2回目は、日本の若きエースの登場です。
勝沼のワイナリーに勤めていた一青年が、新たな土地を求め、自分のドメーヌを立ち上げるという夢を実現させてしまいました。
彼の選んだ地は、山梨県北杜市須玉町津金(つがね)(*1)。


<岡本 英史(おかもと えいし)>

栽培醸造家。1970年、愛知県生まれ。明治大学農学部農芸化学科を卒業後、山梨大学附属醗酵化学研究施設(現ワイン科学研究センター)博士前期過程終了。勝沼のワイナリー勤務の傍ら、ぶどう栽培に適した土地探しを始め、勝沼で苗木育成に着手。1999年、津金の畑70aにメルロの苗木を植える。1999年ヴィンテージが初リリース。



1999年、70aのメルロから始まった畑も今は1.8haにまで増え、品種もカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、ピノ・ノワール、シャルドネが加わりました。

垣根式栽培(VSP)で、栽植密度は2900~5810本/ha。収穫量は28~42hl/haで、収穫量を制限するということを最重要ポイントとしています。

ワイナリーの建物はまだありませんが、他のワイナリーを借りて、自らの手で仕込みを行なっています。

4年目となる2003年ヴィンテージが2005年4月にリリースされ、東京で発表会がありました。

2003年ヴィンテージは以下の6アイテムです。いずれもまだごく少数の生産量しかありません。

なお、『ボー・ペイサージュ』とは、フランス語で『美しい景色』の意味です。



「日本人としての自然観や美意識を大切にしたい」と、ラベルデザインには家紋をあしらっています。


BEAU PAYSAGE "TSUGANE" Chardonnay 2002
(*CH 100%(375ml 320本)

BEAU PAYSAGE "TSUGANE" Pinot Noir 2002
*PN 100%(375ml 344本)

BEAU PAYSAGE "TSUGANE" le vent 2002
*CS 65% Me 35%(750ml 320本)

BEAU PAYSAGE "TSUGANE" la bois 2002
*CF 100%(750ml 232本)

BEAU PAYSAGE "TSUGANE" le feu 2002
*Me 80% CF20%(750ml 523本)

BEAU PAYSAGE "TSUGANE" la montagne 2002
*Me 100%(750ml 720本)

*ぶどう品種:CHシャルドネ、 PNピノ・ノワール、CSカベルネ・ソーヴィニヨン、Meメルロ、CFカベルネ・フラン (375mlサイズは各2,000円、750mlサイズは各3,800円(税込))



Q. 津金は、どういった特徴を持つ土地ですか?

A.標高800mの高地にあります。降雨量は勝沼と同じくらいですが、ぶどうの生育期間の平均気温はボルドーやナパとほぼ同じです。
大事なのは“気温”です。夏でも夜は涼しく、1日の寒暖の差が大きいので、糖度が上がります。
糖分はアルコール度数につながりますが、それ以外の味の濃さ、つまり凝縮感をどれだけぶどうに詰め込むかが大事だと考えています。
この寒暖の差は、よいぶどうをつくる重要な条件のひとつです。


Q. 岡本さんはメルロから栽培を始め、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、シャルドネ、ピノ・ノワールと増やしていますが、津金の土地にはどの品種が適していると思いますか?

A.シャルドネはどこでも栽培がしやすく、糖度も上がりやすい品種なので、この津金でも可能性があると考えています。
が、白品種のワインは“ぶどう”が勝負です。畑でしたことが丸見えになってワインに現われてしまいます。つまり、ぶどうをいかにつくるか、にかかってきます。ですので、シャルドネは本当はやりたくない品種なんですけどね(笑)。

ピノ・ノワールの樹は3年目ですが、これは自分が大好きな品種なので、半分趣味みたいなものです。もう可愛くてたまりません(笑)。


Q. 山梨には“甲州”という品種がありますが、甲州種のワインはつくらないのですか?

A.僕は芸術性が高い醸造用のぶどうをつくりたいと思って、この津金の地を選びました。甲州種は生食用と考えているので、津金ではつくりません。
かといって、甲州種を否定しているのではないのですが、つくる状況、そして飲む状況によってはOKと思っています。


Q. あなたは“津金の風景の感じられるワイン”を目指しているということですが、それは具体的にはどういうワインですか?


A.そう聞かれると言葉に詰まってしまうのですが(笑)、これはつくり手の気持ちの問題だと思うのです。
具体的に説明できることではないのですが、つくり手のそういった気持ちは伝わるもの、と強く信じるのと、なにも考えないでただつくるのとでは、伝わり方が全然違うと思います。この気持ちは、飲み手だけではなくて、ぶどうにもワインにも伝わると信じています。

実はこの“風景が感じられるようなワイン”というのは、僕の尊敬するつくり手のひとり、マダム・ルロワ(*2)さんが、話されていたことを聞いて感じたことなんです。

彼女はポマール(*3)を飲んで、ポマールの街並みや教会を説明し始めたのです。「ねっ?目を閉じると浮かんでくるでしょう?」と。僕はびっくりしたのですが、心を動かされました。

僕も自分のワインを飲むと、津金の景色が浮かんできます。そして、初めて畑にいらっしゃった方にも、「思っていた通りの場所だった」と、不思議とよく言われるのです。


Q. 今後、日本の中で伸びていく生産地、注目の生産地はどこだと思いますか?

A.長野県の桔梗が原(塩尻市)は以前から注目しています。
また、長野だけでなく、全国各地でも新しくワイナリーを立ち上げる人が出てきていますので、彼らからも目が離せないと思います。


Q. お隣の長野県で導入された『長野県原産地呼称管理制度』(*4)について、どう思いますか?

A.最初の第一歩を踏み出したのではないかと思います。評価したいですね。


(*1)
山梨県北巨摩郡須玉町津金:山梨県の北西部にあり、有名な観光地清里の約7kmほど南に位置する。岡本さんのぶどう畑は、眺めのいい南向きのゆるやかな傾斜地にある。

(*2)
マダム・ルロワ:世界的にも知られるメゾンおよびドメーヌをフランスのブルゴーニュに所有するマダム、ラルー・ビーズ・ルロワさんのこと。

(*3)
ポマール:ブルゴーニュのコート・ド・ボーヌ地域にある村のひとつ。

(*4)
長野県原産地呼称管理制度:農産物やその加工品が長野県産であることを保証するものとして、平成14年産のワインと日本酒から始まった認定制度。制度2年目の2004年3月には、28銘柄の認定ワインが誕生している。

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インタビューを終えて

私が岡本さんの畑を初めて訪問したのが2000年の秋
まわりに遮るものがなにもない大きく広がる空の下、まだ弱々しい若木の姿を見たとき、本当にここでやっていけるの?と思ったものです。

しかし、2年後の2002年の夏に再び訪問したときには、真っ黒に日焼けした岡本さんと、確実に成長したぶどうの樹がそこにありました。

そして2004年春、あの夏に見たぶどうがワインに姿を変え、再び私の目の前に現われました。

これまではメルロ100%のワイン(現在のla montagne)しかつくられていませんでしたが、2002年ヴィンテージは6アイテムに増えました。今回すべてを飲んでみましたが、メルロは荒削りと感じた部分がまるくなり、洗練された印象さえ感じます。

初めてのシャルドネ、そしてピノ・ノワールは、あたたかみのあるふっくらしたやさしい味わいです。目を閉じると…、津金の風景が浮かんでくるような、こないような?(笑)

『ボー・ペイサージュ』はまだ発展途上中の若いドメーヌですが、これからの岡本さんの頑張りに期待しつつ、長い目で見守っていきたいと思います。


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