「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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(更新日:2005年11月11日)
第16回 Terence Kenny <Champagne Pannier>
今回のゲストは、シャンパーニュのヴァレ・ド・ラ・マルヌにあるシャンパーニュメーカー、メゾン・パニエの輸出部長を務めるトゥランス・ケニーさんです。
<Terence Kenny>
スペイン、ニューヨーク、ブルゴーニュetc…を転々とし、フランス観光局にも勤務。
30歳の時には、ミシュランの星付きレストランを全て制覇。このレストラン巡りでワインに開眼。
その後、1990年にメゾン・パニエに入社。 現在は同社の輸出部長を務める。
ミステリアスな パニエの地下回廊カーヴ
ヴァレ・ド・ラ・マルヌは、シャンパーニュ地方の中心にあるエペルネから西に広がる生産地です。このヴァレ・ド・ラ・マルヌのぶどう畑の中心の地下には、12世紀に騎士ユーグ・ランベール公(通称ティエリー)が掘ったという2kmにおよぶ回廊があり、そのため、この町は"シャトー・ティエリー"(Chateau Thierry)と呼ばれています。
実は、このミステリアスな回廊をシャンパーニュ熟成のための地下カーヴとして使っているのが、メゾン・パニエです。1930年代に回廊はカーヴに生まれ変わりました。
メゾン・パニエは、1899年にエペルネの郊外ディジィに設立され、その後1937年にシャトー・ティエリーに移転しました。
元々は創設者のパニエ家がメゾンを所有していましたが、現在は1974年に買収した共同栽培者グループ(SCVM)が運営に当たっています。グループは350人の組合員で構成されています。
Q.パニエのシャンパーニュの特徴は?
A.ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエという3種のぶどうのブレンドの妙にあります。もちろん、ぶどうの選別は徹底して行います。
また、熟成期間にも注意を払い、シャンパーニュの規定では、ノン・ヴィンテージなら15ヶ月のところを3年、ヴィンテージ入りなら3年のところを5年というように、長めに熟成させるようにしています。それにより、バランスが良く、優雅な味わいのシャンパーニュが生まれます。
Q.プレステージュ・シャンパーニュ"エジェリ"(Egerie)について教えて下さい。
A. "エジェリ"は当社の最高級品で、特別良い年にしかつくらないヴィンテージ・シャンパーニュです。
1985年が最初で、その後は、88、89、90、95、96、98年があります。
"エジェリ"という名前は、ローマ神話の女神"エジェリア"から取っています。王が霊感が欲しい時にエジェリアに助けを求め、彼女のおかげで繁栄を続けることができたと言われています。表立ったことはしないけれど、良いアドバイスを与える女性の代名詞で、女性にとって"エジェリ"と言われることは、最大の賞賛の言葉でしょう。私のイメージでは、故ジョン・レノンの奥さんのオノ・ヨーコさんかな?
といったことから、複雑で、まじめで、霊感を与えるようなシャンパーニュにしたいということで、"エジェリ"と名づけました。
Q."エジェリ"のブレンド比率は決まっていますか?
A.年によって変わります。毎年1~2月にテイスティングし、2月にブレンド(アッサンブラージュ)を行います。
なお、ドザージュ(*1)の際のリキュールの量は、デゴルジュマン(オリ抜き)の時に決めます。よって、同じヴィンテージのものでも、デゴルジュマンの時期が違うボトルはドザージュの量も違います。
Q.パニエでは、ヴァン・ド・レゼルヴ(*2)の管理はどのようにしていますか?
A.ヴァン・ド・レゼルヴとして25%取っておきます。ステンレスタンクで保存し、3年前のものをドザージュの時に使います。これはノン・ヴィンテージ用で、ヴィンテージ入りのシャンパーニュには、マグナムボトルにして取っておいた同じ年のものを使います。
ヴァン・ド・レゼルヴとして取っておくことは、非常にお金のかかることですので、小さな生産者ではストックできないこともあります。
Q.国内外のシェアの比率は?
A. 65%はフランス国内で消費され、35%が輸出です。イギリスやアメリカが中心で、アジアではシンガポールなどにも輸出しています。しかし、日本のマーケットが一番成熟し、本物をわかってくれていると思っています。
いずれの場合も、いいホテルやレストラン、ワイン専門店に置くようにし、クオリティにうるさい人たちをターゲットにしています。
Q.ヴィンテージ・シャンパーニュの楽しみ方を教えて下さい。
A.ヴィンテージの入ったシャンパーニュは、軽い味わいのものではありません。もちろん、そのまま飲んでもよいのですが、ガストロノミー(美食、美味しい食事)と合わせるのはとてもいいことです。現在は、フランス料理のガストロノミーも再検討され、よいものになってきています。日本人は情熱があり、知性も高いので、料理とうまく合わせて楽しんでいただきたいですね。
(*1)ドザージュ
オリ抜きによって減ったワインを足してあげること。この時に、甘さの調整としてリキュールを加える(辛口に仕立てるため、全く加えないこともある)。
(*2)ヴァン・ド・レゼルヴ
オリ抜きで減った分の補填用ワインのこと。リザーヴ・ワインともいう。
<テイスティングしたシャンパーニュ>
Egerie de Pannier 1998
ピノ・ノワールとシャルドネが同量で、ピノ・ムニエが約10%。ドザージュの糖分量が3.5gというドライなブリュット。ケニーさん曰く「ダイエット・シャンパーニュ」。 香りが華やか!やわらかく熟成した感じがあり、飲みやすいのにコクのある味わい。
Egerie de Pannier 1990
ドザージュは7~8g。ものすごく夏が暑く、ここ最近では最良の年。酸度は十分あったが、思ったよりも熟成が早く進んでいるようです。 蜂蜜の香りがあるが、酸が熟成した感じで、後味にレモンや柑橘も感じられます。
Egerie de Pannier 1989
良年の1988年と1990年に挟まれ、忘れられた存在と言われているが、実は素晴らしい年。生産本数は3000本のみ。柑橘のニュアンスは少なく、最初からまろやかに感じるはず。 骨格がしっかりとし、かつ繊細な部分もあり、メインの料理にも合わせられます。
Egerie de Pannier 1988
ドザージュは7~8g。90年と似たニュアンスがあるが、酸は穏やか。コクのあるボディが魅力。
Egerie de Pannier Rose de Saignee
ピノ・ノワール80%とシャルドネ20%のロゼシャンパーニュ。シャルドネで軽やかさを出している。 淡いロゼ色が美しく、きりっとドライだが、ふくよかさもある。バランス良好。
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■ インタビューを終えて
乾杯だけではもったいない!
このところのシャンパーニュ人気は大変なものです。特に日本では、昔からロゼ・シャンパーニュの人気が高く、それは雰囲気で飲まれているような感じもあるのですが…。 たしかに、シャンパーニュによる乾杯は、優雅かつゴージャス。でも、それでおしまい、という飲み方が多いのも事実です。
ケニーさんも言うように、ガストロノミーと合わせるという楽しみもシャンパーニュにはあります。エスプリを感じるタイプや軽快なタイプ、芳醇でコクのあるタイプ、心地よい甘さのあるタイプetc…と、とても多彩なシャンパーニュだから、乾杯はもちろん、前菜、メイン、そしてデザートまで活躍してくれます。 私も以前は、「ずっとシャンパーニュで通すなんて…」と思っていましたが、ここ数年は、シャンパーニュの多様さ、懐の深さを実感し、「ずっとシャンパーニュだけでもOK」と思えるまでになりました。
これからの季節、色々なシーンでシャンパーニュが登場するかと思いますが、固定観念にとらわれず、もっと自由にシャンパーニュを楽しんでみてはいかがでしょうか?
*パニエのホームページ http://www.champagnepannier.com/
(取材協力:ディス・エクスポール・ジャポン)
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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(更新日:2005年11月11日)
第16回 Terence Kenny <Champagne Pannier>
今回のゲストは、シャンパーニュのヴァレ・ド・ラ・マルヌにあるシャンパーニュメーカー、メゾン・パニエの輸出部長を務めるトゥランス・ケニーさんです。
<Terence Kenny>
スペイン、ニューヨーク、ブルゴーニュetc…を転々とし、フランス観光局にも勤務。
30歳の時には、ミシュランの星付きレストランを全て制覇。このレストラン巡りでワインに開眼。
その後、1990年にメゾン・パニエに入社。 現在は同社の輸出部長を務める。
ミステリアスな パニエの地下回廊カーヴ
ヴァレ・ド・ラ・マルヌは、シャンパーニュ地方の中心にあるエペルネから西に広がる生産地です。このヴァレ・ド・ラ・マルヌのぶどう畑の中心の地下には、12世紀に騎士ユーグ・ランベール公(通称ティエリー)が掘ったという2kmにおよぶ回廊があり、そのため、この町は"シャトー・ティエリー"(Chateau Thierry)と呼ばれています。
実は、このミステリアスな回廊をシャンパーニュ熟成のための地下カーヴとして使っているのが、メゾン・パニエです。1930年代に回廊はカーヴに生まれ変わりました。
メゾン・パニエは、1899年にエペルネの郊外ディジィに設立され、その後1937年にシャトー・ティエリーに移転しました。
元々は創設者のパニエ家がメゾンを所有していましたが、現在は1974年に買収した共同栽培者グループ(SCVM)が運営に当たっています。グループは350人の組合員で構成されています。
Q.パニエのシャンパーニュの特徴は?
A.ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエという3種のぶどうのブレンドの妙にあります。もちろん、ぶどうの選別は徹底して行います。
また、熟成期間にも注意を払い、シャンパーニュの規定では、ノン・ヴィンテージなら15ヶ月のところを3年、ヴィンテージ入りなら3年のところを5年というように、長めに熟成させるようにしています。それにより、バランスが良く、優雅な味わいのシャンパーニュが生まれます。
Q.プレステージュ・シャンパーニュ"エジェリ"(Egerie)について教えて下さい。
A. "エジェリ"は当社の最高級品で、特別良い年にしかつくらないヴィンテージ・シャンパーニュです。
1985年が最初で、その後は、88、89、90、95、96、98年があります。
"エジェリ"という名前は、ローマ神話の女神"エジェリア"から取っています。王が霊感が欲しい時にエジェリアに助けを求め、彼女のおかげで繁栄を続けることができたと言われています。表立ったことはしないけれど、良いアドバイスを与える女性の代名詞で、女性にとって"エジェリ"と言われることは、最大の賞賛の言葉でしょう。私のイメージでは、故ジョン・レノンの奥さんのオノ・ヨーコさんかな?
といったことから、複雑で、まじめで、霊感を与えるようなシャンパーニュにしたいということで、"エジェリ"と名づけました。
Q."エジェリ"のブレンド比率は決まっていますか?
A.年によって変わります。毎年1~2月にテイスティングし、2月にブレンド(アッサンブラージュ)を行います。
なお、ドザージュ(*1)の際のリキュールの量は、デゴルジュマン(オリ抜き)の時に決めます。よって、同じヴィンテージのものでも、デゴルジュマンの時期が違うボトルはドザージュの量も違います。
Q.パニエでは、ヴァン・ド・レゼルヴ(*2)の管理はどのようにしていますか?
A.ヴァン・ド・レゼルヴとして25%取っておきます。ステンレスタンクで保存し、3年前のものをドザージュの時に使います。これはノン・ヴィンテージ用で、ヴィンテージ入りのシャンパーニュには、マグナムボトルにして取っておいた同じ年のものを使います。
ヴァン・ド・レゼルヴとして取っておくことは、非常にお金のかかることですので、小さな生産者ではストックできないこともあります。
Q.国内外のシェアの比率は?
A. 65%はフランス国内で消費され、35%が輸出です。イギリスやアメリカが中心で、アジアではシンガポールなどにも輸出しています。しかし、日本のマーケットが一番成熟し、本物をわかってくれていると思っています。
いずれの場合も、いいホテルやレストラン、ワイン専門店に置くようにし、クオリティにうるさい人たちをターゲットにしています。
Q.ヴィンテージ・シャンパーニュの楽しみ方を教えて下さい。
A.ヴィンテージの入ったシャンパーニュは、軽い味わいのものではありません。もちろん、そのまま飲んでもよいのですが、ガストロノミー(美食、美味しい食事)と合わせるのはとてもいいことです。現在は、フランス料理のガストロノミーも再検討され、よいものになってきています。日本人は情熱があり、知性も高いので、料理とうまく合わせて楽しんでいただきたいですね。
(*1)ドザージュ
オリ抜きによって減ったワインを足してあげること。この時に、甘さの調整としてリキュールを加える(辛口に仕立てるため、全く加えないこともある)。
(*2)ヴァン・ド・レゼルヴ
オリ抜きで減った分の補填用ワインのこと。リザーヴ・ワインともいう。
<テイスティングしたシャンパーニュ>
Egerie de Pannier 1998
ピノ・ノワールとシャルドネが同量で、ピノ・ムニエが約10%。ドザージュの糖分量が3.5gというドライなブリュット。ケニーさん曰く「ダイエット・シャンパーニュ」。 香りが華やか!やわらかく熟成した感じがあり、飲みやすいのにコクのある味わい。
Egerie de Pannier 1990
ドザージュは7~8g。ものすごく夏が暑く、ここ最近では最良の年。酸度は十分あったが、思ったよりも熟成が早く進んでいるようです。 蜂蜜の香りがあるが、酸が熟成した感じで、後味にレモンや柑橘も感じられます。
Egerie de Pannier 1989
良年の1988年と1990年に挟まれ、忘れられた存在と言われているが、実は素晴らしい年。生産本数は3000本のみ。柑橘のニュアンスは少なく、最初からまろやかに感じるはず。 骨格がしっかりとし、かつ繊細な部分もあり、メインの料理にも合わせられます。
Egerie de Pannier 1988
ドザージュは7~8g。90年と似たニュアンスがあるが、酸は穏やか。コクのあるボディが魅力。
Egerie de Pannier Rose de Saignee
ピノ・ノワール80%とシャルドネ20%のロゼシャンパーニュ。シャルドネで軽やかさを出している。 淡いロゼ色が美しく、きりっとドライだが、ふくよかさもある。バランス良好。
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■ インタビューを終えて
乾杯だけではもったいない!
このところのシャンパーニュ人気は大変なものです。特に日本では、昔からロゼ・シャンパーニュの人気が高く、それは雰囲気で飲まれているような感じもあるのですが…。 たしかに、シャンパーニュによる乾杯は、優雅かつゴージャス。でも、それでおしまい、という飲み方が多いのも事実です。
ケニーさんも言うように、ガストロノミーと合わせるという楽しみもシャンパーニュにはあります。エスプリを感じるタイプや軽快なタイプ、芳醇でコクのあるタイプ、心地よい甘さのあるタイプetc…と、とても多彩なシャンパーニュだから、乾杯はもちろん、前菜、メイン、そしてデザートまで活躍してくれます。 私も以前は、「ずっとシャンパーニュで通すなんて…」と思っていましたが、ここ数年は、シャンパーニュの多様さ、懐の深さを実感し、「ずっとシャンパーニュだけでもOK」と思えるまでになりました。
これからの季節、色々なシーンでシャンパーニュが登場するかと思いますが、固定観念にとらわれず、もっと自由にシャンパーニュを楽しんでみてはいかがでしょうか?
*パニエのホームページ http://www.champagnepannier.com/
(取材協力:ディス・エクスポール・ジャポン)
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