ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第42回 Chateau Tour Grise@「キャッチ The 生産者」

2009-05-19 15:00:05 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2008年1月11日)

第42回  Phillipe Gourdon  <Chateau Tour Grise>

今回のゲストは、フランスはロワールでビオディナミ栽培によるブドウづくりを行っている、 『シャトー・トゥール・グリーズ』フィリップ・グルドンさんです 。


<Phillipe Gourdon> (フィリップ・グルドン)
ル・ピュイ・ノートル・ダム村生まれの55歳。
1990年にシャトー・トゥール・グリーズを設立。
現在、シャトー・トゥール・グリーズ当主。


ビオディナミへの取り組み  - Chateau Tour Grise -  

フィリップさんがワインづくりに携わる前の20年間は、家業のキノコ栽培に携わっていましたが、1990年にもうひとつの家業であるブドウづくりにも関わるようになりました。

この頃は、つくったブドウは協同組合に売っていたそうですが、1991年に父から運営を引き継いだのを機に協同組合との契約を切り、自らの手でワインづくりを始めました。

そして現在は、AOCソーミュールの北東にあるル・ピュイ・ノートル・ダム村でビオディナミ栽培を行い(カベルネ・フラン14ha、シュナン・ブラン9ha)、『シャトー・トゥール・グリーズ』の当主としてワインづくりに取り組んでいます。


* ル・ピュイ・ノートル・ダム村
 村全体が丘の頂付近にあり、土壌は石灰白亜質。





Q.なぜビオディナミ栽培を行おうと思ったのですか?
A.祖父の時代の畑は生き生きとしていましたが、1960年代から農薬が多く使われるようになり、私が父から引き継いだ1990年当時の畑は農薬まみれの状態でした。

これはなんとかしないと・・・と思い、まずは有機栽培に取り組みました。
その後、段階的にビオディナミを取り入れ、1998年に完全にビオディナミに移行しました。(現在はEcocertとBiodivinに加盟)  


Q.リュット・レゾネ(減農薬栽培)は考えなかったのでしょうか?
A.リュット・レゾネは、できるだけ農薬を使わないようにしようというものですが、それでも自然界にないものを投与することになります。ビオディナミでは、自然界にないものを投与してはいけないと考えるので、この2つの境界線には大きな意味があります。


Q.大きな意味というのは?
A.そうした物質の投与は子の世代に伝わる危険性があり、すべての生命体への危険性をはらんでいます。そうした理由から、私はリュット・レゾネよりもビオディナミを選んでいる人の方が100倍良いと考えます。

ビオディナミで投与するものはすべて自然のものに限られています。雑草は焼いて取り除き、虫が増えた場合も、ビオディナミでは虫が多いということは生命体が多様性を持っていることと考え、共生するということで解決を見出していきます。


Q.ビオディナミにする理由は、ほかには何かありますか?
A.ワインづくりそのものに係わるものがあります。すなわち、AOCはその地方の伝統をリスペクトして初めて名乗れるもので、ただ品種だけを選ぶものではありません。
テロワールを表現していなければそのAOCを名乗ることができませんし、テロワールの表現にはビオディナミ栽培を行うことが不可欠だと考えたので、私はビオディナミを選びました。

よって、畑にもワインにも、よそから何かを添加するということは一切行いません。


Q.ビオディナミによって大きく変わったものは?
A. です。化学的なものを施した畑は、その土地の特質を土壌に反映することができません。土地の特質を土壌に反映させるには生命体の介在が必要なのです。

生命体の豊かな土壌とそうでない土壌は“匂い”が違います。ビオディナミでない畑は土壌に生命体が全く存在しないため、土の匂いが全くしません。
また、木の木片などは普通はバクテリアなどによって分解されてなくなりますが、ビオディナミでない畑の木片はそのまま残っています」
(土の写真をいくつか見せてもらいましたが、確かに彼の言う通りでした)


Q.ビオディナミに転向して、ワインに変化はありましたか?
A.すぐには結果が現れませんでしたが、ビオディナミに転向して4年が経過した2002年、ブドウが真の力を発揮し始めた!という手ごたえを感じました。
やはり時間がかかります。


Q.醸造では何か特別なことをしていますか?
A.ビオディナミでは、畑はミネラル、アニマル、ベジタルからのプレパラシオン*1によってエネルギーの刺激を受けるため、ワインづくりの90%は畑で完結しています。
ワイナリーではテクノロジーは不要で、我々はブドウがワインになっていくのを見守るだけです。

良いブドウが毎年得られれば良いですが、天候などの影響でそうはいきません。
そこで、木が疲れることなく毎年良いブドウを得るには、収穫はいつ?どのブドウをどのくらい?赤?ロゼ?白の甘口?それとも辛口?など、さまざまなことを見極めねばなりません。それが経験の中でわかってきましたので、人間のやることにも大きな役割があると思います。

毎年同じワインをつくる人もいます。
が、“その年のその区画からのブドウをよく表現したものをグラスの中につくる”ということが私の目指すものです。毎年同じものをつくりたいとは思いません。


*1) プレパラシオン
ビオディナミで使用する特別な溶剤。牛糞や植物を煎じたものなど、いくつか種類があり、雨水で希釈したものを月のカレンダーに合わせてごく少量ずつ散布する


<テイスティングしたワイン>



Chateau Tour Grise Saumur Brut Non Dose 2000
「シュナン・ブラン100%で、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵のスパークリングワインです。ブドウに対して何も付け加えたくないので、酵母も糖も添加しません。

ブドウは熟すギリギリまで待ち、かなり遅くなってから摘みます。ブドウがよく熟したという点を活かし、その力をワインに反映させています。
ハーモニーを取るのに時間が必要なので、6年間カーヴでシュル・リーの状態で寝かせます。
デゴルジュマン(オリ抜き)の後にも何も加えず(ノン・ドゼ:甘いリキュールを加えないこと)、ブドウが最初から持っているものしか入っていません。

これはストラクチャーがしっかりしているので食事の際に飲んでいただいても負けず、食事の最初から最後まで合わせられると思います。地方の特徴をよく表していますが、シャンパーニュと違って好き嫌いがあるかもしれません」(フィリップさん)

かなり濃いゴールドの外観で、香りはふっくらとしています。ノン・ドゼであり、酸が豊かであるにもかかわらず、口当たりはやわらかくで、ふくよかで旨味を感じる味わいを感じました。


Chateau Tour Grise Saumur Blanc “Les Fontanelles” 2002
「ブドウはジュラ紀の硬い地層の上に植えています。土壌は生きていなければならず、土壌を活性化して生かすために3種(ミネラル、アニマル、ベジタル)のプレパラシオンを使います。それによって大きなエネルギーがもたらされます。
そのため、ビオディナミの土壌からできたブドウは酸がしっかりします。白ワインはまろやかさがなく、キツイ味わいだと思うかもしれませんが、何年経ってもおいしいものになります。

この白ワインをつくる際には、色の黄色い、よく熟したブドウ(シュナン・ブラン)を選びました。アルコール発酵は自然に任せ、もちろん何も加えません。年によってほの甘口になったり辛口になったりしますが、2002年は辛口になりました」(フィリップさん)

このワインも非常に濃い色合いをしています。酸がキツクなるということですが、たしかに酸がたっぷりとしていますが、とてもまろやかな味わいでした。




Chateau Tour Grise Saumur Rouge Cuvee 253 2004
「カベルネ・フラン100%の赤ワインで、すべて除梗しています。マセラシオンは40~50日かけ、じっくりと抽出しますので、しっかりしているのに繊細で良質のタンニンが得られます。ルモンタージュ(液体部分の循環)は行いません。
樽の影響は出したくないので、使うなら10年使用樽を使います。
とにかく、ブドウ本来のものを変化させるものを加えたくない、ということにこだわっています」(フィリップさん)

熟した感じの香りが良く、タンニンはたっぷりなのに、やわらかなボディを持った赤ワインで、アグレッシブな点は全く見られません。ワインとして飲みごたえがあります。


フィリップさんのワンポイントアドバイス

ロワールの赤ワインは何も食べないで飲むと強すぎるかもしれませんので、パンを口に含むとちょうどよくなります。
サービス温度は、室温より低めの15℃が適当です。

実は、昼にパリで一番飲まれているワインはロワールワインです。ラングドックのワインは昼には濃すぎます。

北の産地であるロワールでは、ブドウの収穫率を下げるとアルコール度数が高くなりますが、南のワインほどは上がりませんので、ロワールのしっかりした赤ワインは昼でも楽しめるというわけです。





VDT Zero Pointe NV  <参考品>

「シャトー名も地方名も年号も入れられないVDT(ヴァン・ド・ターブル)ですが、ブドウは2007年のカベルネ・フランを100%使っています。アルコール度数は8.5%で、若いうちから楽しんでもらうロゼワインとして4年前からつくってみました。

ロゼワイン用のブドウは赤ワイン用のブドウより8~10日早く収穫します。酸を必要とするワインですので、フレッシュさを残しました。良いと思ったバランスで、アルコールの低くなった時点で発酵を止めました」(フィリップさん)

きれいな色のロゼで、口にすると爽やかな甘さも魅力です。いわゆる“新酒”的なフレッシュなワインですが、こういうワインを日本でも飲んでみたいですね。


VDT Zero Pointe Ze Bulle NV  <参考品>

「まだ完成していないものですが、サンプルとして持って来ました。昨年試作品をつくり、07年から市場(フランス)に出します。これもカベルネ・フラン100%で、スパークリングです。
フィルターをかけると透明になりますが、今は濁っています。1番目のスパークリング(Saumur Brut Non Dose 2000)とは違い、食中ではなく、食前や食後などに楽しんでほしいですね」(フィリップさん)

これもきれいな、でもかなり色の濃いロゼ。プチプチとした泡が爽やかで、ナチュラルなジュースという味わいがチャーミング。



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インタビューを終えて

Zeroは、新しいもの、ほかとは違ったものをつくりたい、というイノベーター的な気持ちでつくったワインですが、ワインの愛好家がちょっと飲みたいなぁと思う時に開けていただけるといいかなと思います。もちろん、飲み慣れていない人にも飲んでいただけるものに仕上がっていると思います。
先にリリースした Zero Pointe は著名レストランのグランシェフたちにもとても好評です」とフィリップさん。

ビオディナミの生産者はきっちりしている、という印象が強いですが、フィリップさんは、肩の力を抜いて気楽に飲める、ゆる~い雰囲気をかもし出している 『Zero』 (ブドウはもちろんきっちりビオディナミですが)もつくっていて、ワインも人も“自然体”だなぁと思いました。

しかも、“ゼロ”という名前も“何も手を加えないもの”に通じ、なかなか遊び心があります。

このユニークな『Zero』がまだ日本で手に入らないのは残念ですが、今回これをテイスティングできたことは、なかなか意味深いものがありました。

今後のフィリップさんの展開に期待が高まった出会いでした。



奥様のフランソワさんと

「自然に囲まれた村での暮らしも彼のワインも気に入っているわ」(フランソワさん談)


取材協力: 大榮産業株式会社

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