ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

メルシャン 桔梗ヶ原メルロー 30周年

2015-10-26 17:47:11 | ワイン&酒
メルシャン が長野県塩尻市の桔梗ヶ原(ききょうがはら)地区でつくるフラグシップワイン「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー」 が、1985年のファースト・ヴィンテージから今年で30年を迎えました。

それを記念し、ファースト・ヴィンテージから最新ヴィンテージまでの5ヴィンテージ(1985,1990,1998,2005,2011)の垂直試飲会 が、都内で9月に開催されました。



今でこそ、“桔梗ヶ原”はメルロワインの産地として有名ですが、江戸時代は野原でした。
北緯36度、標高平均700m、松本盆地の南部に位置し、2つの川に挟まれた東西3km、南北5kmの扇状地で、土壌の表面は火山灰、下が河岸段丘という一帯です。
扇状地でありながら、一帯を流れる川はなく、水に乏しい地域だったために農耕に適さないとされてきましたが、明治以降に開拓されます。

故・麻井宇介さん(本名:浅井昭吾、生前はメルシャンにも勤務)の著書「ワインづくりの思想」(中公新書)には、桔梗ヶ原は開墾後に蕎麦が植えられ、次にトウモロコシを植え、その次にブドウを植えた、と書かれています。ただし、ブドウ単体ではなく、大きな農家は労力の配分を考慮し、他の果樹栽培との複合経営も行ないましたが、メインはやはりブドウだったようです。
この時のブドウ品種は、土地の自然条件に最も適合したという“コンコード”。
このコンコードから甘い“甘味果実酒”がつくられ、昭和の中期まで、桔梗ヶ原一帯はその原料の一大産地となっていきます。しかし、東京オリンピック(1964年)をキッカケに食の洋風化が進み、欧州からの輸入ワインも増え、1975年には、甘味果実酒と果実酒(いわゆる“テーブルワイン”)が逆転します。

これに危機感を覚えた桔梗ヶ原の果樹栽培者、ワイン生産者たちは、1976年1月、桔梗ヶ原中央公民館に集まり、今後の話し合いを行ないました。集まった人数は100人以上もいたそうです(「ワインづくりの思想」より)。

麻井氏は、これまでのコンコードでテーブルワインをつくるのではなく、欧州系の本格的なブドウ品種で転換を図るべき、と考えました。

そこで、桔梗ヶ原を一大果樹栽培地へと導いた先駆者である林農園の後継者、林幹雄氏に問い、その際に提案されたのが、欧州系のブドウ品種“メルロ”でした。

そこで、この年(1976年)、メルシャンは契約栽培農家にメルロの栽培をお願いします。
この時の栽培方法は、“棚栽培”です。

後に 初めて誕生したのが 「シャトー・メルシャン 信州桔梗ヶ原メルロー 1985」です。


シャトー・メルシャン シニア・ワインメーカー 藤野勝久(1979年メルシャン入社)が、桔梗ヶ原とメルロの歴史を語ってくれました。
手にしているのは、ご自分のデスクに置いているという桔梗ヶ原のメルロの若木。

「シャトー・メルシャン 信州桔梗ヶ原メルロー 1985」は、今年で30年。
その記念すべきファーストヴィンテージを飲めるのは、実に光栄なことでした。
近年のヴィンテージについては、現シャトー・メルシャン工場長でゼネラル・マネージャーの松尾弘則さんが解説してくださいました。


左端のグラスが1985年で、その右が1990年、1998年、2005年、2011年
色を見ると、1985年はレンガ色がかっていますが、色調は薄れず、しっかりしています。
さすがに右端の2011年は紫がかった若々しい色調をしています。

1985年は、香りに官能的なニュアンスがあり、ボディがとてもしなやかです、酸にうまみが乗り、じんわりしみ込んできます。ああ、これはうまい!

1990年は香りが閉じ気味。酸がしっかり保たれ、まだまだ若さがあります。フルーツと酸がエレガントにバランスを取り、これもおいしい!

1998年は雨が多い年だったそうで、香りにもハーブや青っぽいニュアンスを感じます。濃度も他よりやや薄く、酸がやや目立つでしょうか。

2005年は「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー 2005 シグナチャー」。“信州”が抜け、“シグナチャー”が追加されています。

ワイン名が長いこと、桔梗ヶ原が信州(長野県)という認知度が高くなってきたことから、2002年ヴィンテージから“信州”を外しています。
“シグナチャー”は、成熟とワインの個性が出る区画のブドウを特別に仕込み、瓶詰めまで厳しく選抜したキュヴェのこと。

この2005年には垣根式で栽培したブドウ(樹齢4年)が一部加えられています。
垣根式は、ボルドーのシャトー・マルゴーの最高醸造責任者ポール・ポンタリエ氏の助言により1999年から導入しています。熟度の高いブドウが得られるということですが、従来の棚式栽培も続けています。

2005年を飲んでみると、フルーツのアロマに加え、なめし革のニュアンスが出てきています。フレッシュ感がありながら、濃度のある凝縮した果実味、チョコレート的なビター感、充実した酸のバランスがよく、フィネスとエレガンスを感じさせるワインです。

2011年もシグナチャーで、垣根式のブドウの樹齢が上がってきたこともあり、この年は垣根式ブドウ100%。房選り、粒選りと、二段階の選果を行なっています。
エッジは紫で、なめし革、樽のフレーバーがあり、口にするとキュッと引き締まる収れん味があります。華やかでモダンな風味で、若さがあり、凝縮感のあるワインなので、私としては、もう少し寝かせておきたいと思いました。



“信州”が名前に入っている1990年、1998年。
ラベルデザインも2002年にリニューアルしています。


この後、サプライズで、ワイナリーの秘蔵品である1989年ヴィンテージの6リットルボトルと、19971年のシャトー・メルシャン甲州(甘口)が登場しました。


6リットルボトル!


手前左)「信州桔梗ヶ原メルロー1989年」 右)「シャトー・メルシャン甲州 1971(甘口)」

1989年の桔梗ヶ原メルローは棚式100%で、今みたいな厳選はできなかったといいます。
6リットルというビッグボトルのせいか、熟成の速度が遅く、まだ若さを感じる部分(タンニンがシュッとしている)があります。が、やはり熟成による官能的なニュアンスも見られ、ふっくらまろやかで、丸く、ほっこり。酸がジューシーでおいしい。やや煙っぽい、タバコっぽいニュアンスも感じました。

1971年の甘口甲州は、ピュアで上品な甘さがあります。べたっとした甘さではありません。酸がしっかり残っており、そのおかげで若さが残る印象も受けました。
これは甘味果実酒が主流だった時代のワインですから、本当に貴重です。それが現代でもまだ全然飲めるとは、素晴らしいことです。ていねいなワインづくりの賜物でしょう。




ファーストヴィンテージ「シャトー・メルシャン 信州桔梗ヶ原メルロー 1985」が1989年の“リュブリアーナ国際ワインコンクール”で大金賞を受賞!

以降のヴィンテージも国内外で数々の賞を受賞し、最新ヴィンテージも“リュブリアーナ国際ワインコンクール”“日本ワインコンクール”で金賞を受賞しています。





現在の日本のワインづくりは、ここ10年で飛躍的に変化し、若い生産者が日本各地で活躍する時代になりました。
それに伴うかのように日本ワインの人気が上昇し、その一方で、原料となるブドウが足りない、と聞きます。

“ワインづくりは農業” ということを、1976年のメルロへの転換の話も含めて、改めて認識した日でもありました。

今回、さまざま貴重なお話をしてくださった藤野さんにお礼申し上げます。
また、桔梗ヶ原メルロのファーストヴィンテージにはじまり、日本のワインの歴史において、いずれも貴重なものを試飲する機会をいただけましたことにも感謝いたします。


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