白き焔BLOG

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【感想】UN-GO 6話 あまりに簡単な暗号

2011-11-24 17:54:08 | UN-GO

1~5話まで見て、因果論見て、6話を見ました。
やっぱり因果論見てから、本編を見ると違う印象になるかも。
ネタバレしてますのでご留意ください。(因果論のネタバレは避け気味ですが…)

まず原案となる「アンゴウ」について、軽く説明する。



矢島という復員してきた男が、古書店で「神尾蔵書」と印のある「日本古代に於ける社会組織の研究」という書籍を見つける。

矢島と神尾は同じ出版社に勤め、古代史研究を趣味とする友人であった。
書籍の中からは、出版社専用の原稿用紙を使った暗号が現れる。
「いつもの処にいます七月五日午後三時」

神尾は矢島より一年後に出征しており、戦地で死んでいる。
矢島は、空襲で失明し、子供を失った妻タカ子が、神尾と浮気をしていたのではないかと疑いを持つ。

いつも左に寄り添っていた妻が、復員してみると右に寄り添うことがあった。神尾は左利きであり、女は右にいた方が扱いやすいのではないか。

神尾の妻に神尾の蔵書を尋ねると、売った本もあるが、その本は疎開先に持っていったから残っているという。それは矢島が朱線を引いた矢島の蔵書であった。

どこで本が入れ違ったのだろうか。
しかし、この本は矢島が神尾に貸していたことがあり、後に神尾が入手し、矢島の出征の惜別の宴で酔っていたときに返却してくれたのだった。そのときに入れ違ったのだろう。

では、矢島の家にあった神尾の蔵書印の本は、なぜ古本屋にあったのか。
古本屋を問うと、本を売った男を紹介される。その男の家には、矢島の蔵書があった。空襲の後、焼け野原で本を売っている男がいたのだという。

タカ子は空襲の時に、子供たちと共に家財を持ち出そうとしたものの、失明してしまった。子供たちは死に、家財は盗まれたのだろう。

発見された矢島の蔵書の中には、さらに暗号が隠されてあった。
それらを解読すると、暗号のやり取りをしていたのは、矢島の二人の子供であった。

秘密の遊び場、縁の下の子犬などについて書かれた暗号を読み、矢島は遺骨も見つからなかった子供たちが、天国から父を慰めてくれているのだと感じる。




標題は「安吾」「暗号」、さらに「暗合(偶然の一致)」のトリプル・ミーニングとなっている。

アニメでは、神尾が海勝に入れ替わっている。(利き手の設定も逆。矢島=左利き、海勝=右利き)

また、矢島の蔵書を持つ男は、二人に分割されている。
冒頭で件の本を矢島に渡すのは、新キャラ「小説家」であり、最後の大量に矢島の蔵書を持つ男は海勝である。

矢島と海勝は、学生時代の友人で、矢島は評論、海勝は技術へ向かったという。

矢島は復員ではなく、戦時中の言論が<新情報拡散防止法違反>とされ、東関東社会復帰促進センターなる民間刑務所で、暗号入りの本を受け取り、出所したところから話は始まる。

矢島より、暗号を解けという依頼が、探偵である新十郎になされる。

本のタイトルは、「犯罪心理研究史」に変わっている。その本は矢島の蔵書に、偽造された蔵書印が押されたものだった。

またその刑務所は医療刑務所のようである。矢島は胃をわずらい、本を渡した「小説家」は「頭が病気」と自称している。

空襲ではなく、行方不明になった子供を捜しに行く途中、妻はテロにあって失明した。子供は1年行方不明のまま。

これらの設定変更により、矢島は戦死者と戦争被害者の妻との不倫関係を疑うのではなく、生きている男(しかも金持ちの権力者)と盲た妻が不倫し、邪魔になった子供が殺されたのでは? と疑うことになる。

新十郎は矢島に「子供の行方を捜すという依頼でよいか?」と確認する。そう、探偵は依頼なしに仕事はできないのだ。

因果が新十郎に言う。
「ミダマがはちきれそうだよ、聞かせてよ、あの女に。お前の子供たちはどこだって。海勝が手伝ったかもしれない。そうしたら、あいつが溜め込んだ嘘も真実も、ミダマが全部あらわになる。それがお前の望みじゃないの?」
しかし、新十郎はそれを行わない。今回は因果が力を発揮しないのである。

矢島はタカ子を殺そうとするが、寝言で贖罪する哀れな姿にそれを断念する。

矢島の蔵書が、タカ子によって売られた古書店から目録買いされて海勝の家にあることが判明する。暗号に残された遊び場は、車の廃棄場所であった。車に閉じ込められるなど、子供の事故が何度かある場所らしい。矢島が子供たちの遺骸を捜す中、海勝が現れ、真実を語り始める。

タカ子によるネグレクト(育児放棄)が行われていたことを海勝が隠蔽した。子供が行方不明になってから、タカ子は自分で目を傷つけた。また海勝はタカ子に恋愛感情を抱いていたと思わせることも吐露するが、タカ子は矢島だけを愛していたようである。

そこへ、海勝によって、車の中から救い出され保護されていた供たちが登場し、父・矢島へと駆け寄る。

「君が真実を明かすのは何のためだ」海勝の問い。
「ミダマのためだ」と因果が答え、新十郎は黙っている。
「真実は常にひとつだろうか…?」
海勝は、新情報拡散防止法なるものの首謀者であり、人が受け入れやすい「真実」を選ぶことのできる人間である。海勝が決めたもの以外は、法に触れたといって消すことができる。

最後に、新十郎は小説家の下へ向かい、蔵書印を偽造したのはお前だろうと問う。

「私は小説を書く、ペンでではない、この現実でだ。名探偵によりすべての謎は明かされ、矢島は妻を殺すはずだった。それが名探偵というものの役割だからだ。どんな冷酷な結果になろうとも、すべての被害者が殺された後に推理を終えるのが名探偵だ。どんな悲劇的な理由があろうとも、すべて白日の下にさらすのが名探偵だ。君は私に選ばれたのだ。この世界最後の名探偵として」

因果論を見ていると、この小説家の後ろにいる女の子の能力が分かっているので、小説家のこの明言が恐ろしい。

さて、本格ミステリには、ヴァン・ダインの二十則、ノックスの十戒など、いくつかの規範が存在する。(犯人が最後にいきなり出てきちゃダメとかそういうの)

ここでの「小説家」のセリフは、これに類する宣言のようにも見える。夢枕獏や京極夏彦的には、これは「呪」という言霊であるとでも言おうか。

また、海勝の問いも、海勝は自分の捏造した真実の方が、社会に受け入れやすく他への悪影響がないと判断しているため、新十郎が真実を明かすことの目的を問うている。
新十郎は答えない。因果にしてみれば「僕にミダマを与えるため」なのだが。

この二つは(特に海勝の問いは)、りほ様のご指摘の通り、後期クイーン問題なのだろう。



1)「作中で探偵が最終的に提示した解決が、本当に真の解決かどうか作中では証明できないこと
2)「作中で探偵が神であるかの様に振るまい、登場人物の運命を決定することについての是非」
 探偵が捜査することにより、本来起きるべきではなかった犯罪が起き犠牲者が増えてしまうことへの責任や、名探偵の存在そのものにより事件が引き起こされるケース、探偵が捜査に参加することを前提として計画された事件が起きるケースなど(wikiより)



1)については、海勝との二重推理もあるため毎回曖昧にされる。
Whodunit?において正解でも、Whydonnit?については、定かではないのではないか。
2)今回は、矢島がタカ子を殺さなかったからよいようなものの、(「小説家」の蔵書印偽造含め)明らかに新十郎の存在が犯罪を誘発している。今後は、もっと小説家が暗躍するのだろうから、ますますその傾向は強まると思われる。

「小説家」の呪が発動したとき、海勝の捏造した真実よりも、新十郎の真実の方が世に知られるのであろうか? そして、それにより、誰かが傷ついたり、新たな犯罪が誘発されるのであろうか?
アンゴウが暗合(偶然の一致)だとしたら、それが多発してしまう原因がこの呪には存在する。次回以降、気になる点である。

全体として、あまり原作を変えてないなという印象。「安吾捕物帖」ではなく独立した短編だが、うまくはめ込んだなと思う。
ただ、最後に子供が生きて帰ってきたシーンは、ちょっと不気味に感じたのだ。
この子たちは、本当に矢島の子供なのか? 何か操作されているのではないか? いやR・A・Iではないか? など……。

海勝自身が、家を出てくる状況があるのは想定外。安楽椅子探偵じゃなくなってしまった。おまけに推理じゃなくて、探偵が知りえなかった事実を語り出すわけだし。

余談1:
目玉焼きのガレット(おかずクレープ)を梨江と新十郎が食べるシーン。「甘くないクレープだけど、文句言うな」みたいなことを梨江がいい、新十郎は「アジアの戦地はフランス領だったところがあるから、食べたことがある」と応じる。

因果論で出てきた場所によく似た場所を、私は知っている。
カンボジアにあるアンコール・トム遺跡群の中に「バイヨン寺院」だ。
四面塔とも呼ばれる、大きな仏の顔が四面にある塔だ。
この仏は諸説あるが、観音菩薩とされることがある。

カンボジアはフランス領だったことがあるし、長らく内戦状態にあった。
アンコール・トムの中には、「癩王のテラス」という遺跡もある。
癩といえば、R・A・Iも出てくるではないか。
(そもそも第3話 「覆面屋敷」で、原案では当主の死因は癩病だとされていた。)
癩王のテラスは三島由紀夫の戯曲にもある。この王は、病気に犯されつつも至高世界を求めてバイヨンを建て、死んでいく。王は誰だ? 海勝か?

この辺りの宗教は、ヒンドゥー教とクメール仏教が混在しており、ネタにできそうなものは一杯あるのではなかろうか。

オープニングに登場する仏像が誰か、分かったら面白いのになぁ。
普通に観音菩薩と地蔵菩薩なのかなとも思うが…。一人は天王だから、妙見菩薩とか…?
坂口安吾は真言宗やインド哲学を学んでいるから、ヒンドゥー系を引っ張ってくるという手はありえる。

いずれにしても、新十郎が行った戦地は、カンボジアであると推測される。

余談2:
ちなみに、6話予告編では、因果が最後に「快感」と言っているように聞こえるが…? 「セーラー服と機関銃」、因果論で歌ってたけど…関係あるかな?

 


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