白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(453) 「キネマの神様」

2023-11-14 10:00:35 | 映画

キネマの神様

 コロナで観られなかった「キネマの神様」(2021) をBSプレミアムでようやく観た 前作「キネマの天地」の続編として作られたこの映画はスタートからつまずいた 主演に予定していた志村けんが死亡(しかもコロナで) 代役に志村の長年の友人であったジュリーこと沢田研二に変えて再スタートした

つかこうへい✕東映深作の「蒲田行進曲」の大ヒットに対抗して井上ひさし✕山田洋次で松竹が大船撮影所50周年記念作として作られた松竹版蒲田行進曲の「キネマの天地」その続編がこれだ そういえば撮影所の玄関の守衛はどちらも 桜井センリだ

大船撮影所の近くにあった松尾食堂のことは昔、単行本で興味をもって読んだ

物語はこの食堂の娘(永野芽郁〜宮本信子)を巡っての恋の鞘当からはじまる 

監督志望の剛(菅田将暉~沢田研二)と映写係のテラシン(野田洋次郎〜小林稔侍) だ 恋の勝利者になった剛は仕事も順調だ 念願の初監督が決まるが事故を起こしてしまい作品は流れ映画界から去る テラシンは当時からの夢自分の映画館「テアトロ銀幕」をかなえる 剛は未だにギャンブル依存症が治らず借金まみれで 家庭は自閉症の孫(前田旺志郎 )を抱え シングルマザーの娘(寺島しのぶ)と淑子(宮本信子)が働いている  大船時代の剛はあまりにも生真面目な映画青年すぎる もう少し不良っぽい部分を見せれば( 競馬、酒、女) 、老後のジュリーが悪ぶってみせれば見せるほど嘘っぽくみえる原因はそこにあるのだろう 話は自閉症の孫が剛の昔の作品の台本を見つけてきて(そういえば京都の古本屋にはカット割が書かれた台本が売っていた)動き出す そして二人で今風に直し「城戸賞」に応募して優秀賞に入る 

今フランスのミステリードラマ「アストリッドとラファエル」を観ているが主人公が自閉症なのだ その見事な自閉症の演技( ヒステリー、閉じこもりぶり) をみてる身からするともの足りない 前田君は一生懸命やっでいて好感がもてるが…… 

さて 剛とテラシンとの長年にわたる友情には最後まで泣かされるが コロナの現実(席を開けて座る、映画館を閉めざるを得ない) は 身につまされる

さてこの映画松竹さんにとって神様は微笑んたのか 前作「キネマの天地」では22億稼いた山田洋次監督作品は最近落ち目であるが悪いといっても9 億はあった でもこの映画は5億止まり 微笑みもしなかった

渋谷天笑、曽我迺家寛太郎の名前をタイトルバックでみたがどこに出ていたのかわからなかった

清水宏監督をモデルにした監督役のリリー・フランキーが好演、お見事!

松竹のこの手の映画はなんでこんなにケチがつくのだろう 前作「キネマの天地」では藤吉久美子が降板した この作品は志村けんの死亡降板

志村けんが演っていたらどうだろうと考えるのはヤボか?

 

 

 


白鷺だより(433) 「浮草」

2023-03-27 14:11:31 | 映画

浮草

3月一杯で終了する映画配信アプリGYAOで久しぶりに小津の「浮草」大映(1959)を観た

この映画の前年小津は松竹で「彼岸花」を撮った時大映スター山本富士子を借りたためそのバーターとして小津が大映で監督することになり、かねてから松竹で予定していた「大根役者」をまわすことになった(*)  この作品は戦前(1934) 小津が「浮草物語」として映画化したお気に入りの作品で1928年のアメリカ映画「煩悩」(ジョージ・スッツモーリス監督)を小津ことジェームズ・槙(ジェームズ三木がリスペクトしてペンネームにした) が換骨奪胎した坂本武主演の喜八ものの一本である 喜八もののもう一本は「出来ごころ」も名作である ついでに書くと「キネマの天地」の渥美清の役名も喜八である

役者市川左半次こと喜八に坂本武 他に八雲理恵子、飯田蝶子、三井秀夫

(*)予定配役は進藤英太郎、淡島千景、有馬稲子、山田五十鈴

成駒屋の鴈治郎は息子扇雀が宝塚映画に入って梅田コマなど東宝系の劇場に出たため、松竹に遠慮して歌舞伎を辞め大映に入り映画に専念していた

あらすじ

志摩半島にある小さな港町に知多半島を廻って来た船が着く嵐駒十郎(鴈治郎)一座がやって来た 駒十郎には副座長のすみ子(京マチ子)と懇ろになっていたのだがその町には彼の子供を生んだお芳(杉村春子)がいた 駒十郎はすっかり成長した息子清(川口浩)の相手をするうちに親心が芽生える すみ子はそんな彼の変化に苛立ち、真実を知ると一計を案じ若い座員の加代にある頼み事をするのだが……。

この息子役は戦前の「浮草物語」は三井秀夫=戦後版「浮草」の座員役の三井弘次である この2本とも出演したのは彼のみである

さてこの映画が藤田まことによって舞台化されたのは昭和58年のことである 「人生まわり舞台 旅役者駒十郎日記」がそれである

それまで名鉄ホールのお正月公演は花登筺作品であったがこの時に藤田まことに変わったのである この初演の舞台はこの年梅田コマでの再演が決まっていたので何度も観た 以降藤田の代表作となり 新コマ、明治座などの再演を繰り返して来た その殆どを僕は観ている この舞台版のミソは駒十郎の子供ではなく娘であることだ 

小さな町の小さな映画館で大映ファンだった僕は公開時にこの映画を観ている舞台が同じ三重県と云うこともあるが若尾文子が好きだったこともある

ともあれこの旅役者駒十郎一座の何十年に渡った良き贔屓客だったことは間違いない

 

 

 

 

 


白鷺だより(430) 「バビロン」と「キネマの天地」

2023-03-04 11:01:09 | 映画

「バビロン」と「キネマの天地」

「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督作品として鳴りもの入りで封切られた「バビロン」がどうも不調らしい 先月(2023年2月)たまたま沖縄のシネコンで観たのだが観客はわずか8名だった いつ終わってもおかしくない入りだ 長時間の映画との予備知識をもって臨んだが最後はシッチャカメッチャカになってしまい訳が解らなくなっていた どうも映画に臨む姿勢が間違ったらしい 

リウッドのSEXシンボル クララ・ボゥがモデルといわれるマーゴット・ロビー扮する新人女優の出世の物語、そう松竹映画の「キネマの天地」の有森也実扮する田中小春( 田中絹代がモデルか)を観る姿勢で見始めたのだ それ程この二つの映画には共通点が多い 時代も近くトーキーに切り替わる1920年代から1930年の頭まで映画産業が異常に大きく伸びた良き時代を描いていることもあるが( そうキネマの天地の副題はThe Goldenage  of  Movie)   アメリカと日本ではこんなにも違うのか 「バビロン」のブラピの役どころのサイレント映画の二枚目スター役の田中健が遊びに行くのは木の実ナナが歌って踊るクラブだが、ハリウッドの酒池肉林のパーティに比べその貧弱なこと アメリカでは役者のウサバラシに使うのは酒池肉林のパーティと大量のヤクとSEXを使うのに日本ではたかが酒とSEXだ

「キネマの天地」の脚本部の島田(中井貴一)は「バビロン」では映画製作志望のマニー(ディエゴ・ガルパ)だが極めて日本的にブルジョワの息子で左翼闘士の友人がいる(面白いのは本棚にマルクス兄弟(喜劇グループ)の洋書がありマルクス主義者に間違えられる) 岡田嘉子のソ連逃亡など日本の「キネマの天地」では近づく戦争の影が描かれているが「バビロン」ではそんなそぶりも全くない

ちなみに「バビロン」にはアメリカ映画の名作「雨に歌えば」が頻繁に登場するが この映画も又同じ時代を描いた映画である トーキーに変わっていく過程を面白おかしく描いた作品であるが封切当時は不入で不評であったが売れない映画をテレビの穴埋めに使われ、何度も放送されているうちにその主題歌も相まってだんだん良さが判ってきて今やアメリカ映画のベスト映画に必ず入っている

「キネマの天地」

東映の深作欣二に「蒲田行進曲」を作られ松竹人として悔しく思っていた野村芳太郎は 盆暮れに必ずニ本撮っていた「寅さん」を一本中止して貰って(寅さんレギュラー陣はこの映画に全員参加)製作した 脚本には井上ひさし、山田太一、朝間義隆、山田洋次が参加、監督には山田洋次 

松竹大船撮影所50周年記念 (たかが50年前の話だ)

蒲田末期から大船に移る直前までの話である(1986年封切)

「バビロン」2022

バビロンの名に相応しい狂乱の1920年代からトーキー革命を経て30 年代の新しい映画に順応できずある者は自殺してある者は人知れず消えていく 戦後昔映画製作志望だった青年が懐かしいハリウッドを訪れる 小さな映画館にフト入るとあの頃の話の映画をやっていた

脚本・監督  デイミアン・チャゼル

ブラッド・ピット マーゴット・ロビー

遥かかなたの話のようだがたかが100年以内の話しだ 映画はそれ程歴史を持っている訳でもない

たかが映画!!、されど映画!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


白鷺だより(420)ロッパの新婚旅行

2022-12-17 18:03:38 | 映画

ロッパの新婚旅行

You Tubeで懐かしい映画を観た 戦前(昭和15年)の映画だ 当時人気者だった古川ロッパの主演映画だ

スタッフには脚本・監督に山本嘉次郎 製作主任はなんと若き日の黒澤明だ

あらすじ

ビール会社社長のガラマサどん(古川ロッパ)(*)は朝風呂で義太夫を唸るのが趣味である 毎日西洋歌を歌っている一人息子一郎(ロッパ二役)に嫁を持たそうと思い立ち、今はレコード屋をやっているかっての使用人夫婦(川田義雄、清川虹子)に相談する 夫婦は由緒ある家の娘でレコード歌手の映子に白羽の矢を立てるが当の一郎にはおでん屋で働くお千代(三益愛子)という恋人がいた

(*)ガラマサどんとはロッパが得意とするキャラクターで映画の前年有楽座の舞台でやっていた 当時のユーモア小説家佐々木邦の代表作

昭和15年がどういう年かというとまず前年古川ロッパに長男清が生まれた 後の東宝プロデューサーで数々の東宝ミュージカルをプロデュースした それから新興芸能による吉本タレント引抜き事件がおこり吉本からアキレタボーイズが引き抜かれ残った川田義雄がミルクブラザーズを結成して再起を図ろうとしていた 清川虹子は東宝の大株主の大沢商会専務で恋人大沢清治との結婚を控えて益々きれいになっていた時代である この映画と同じような御曹司との恋の最中であった清川はこの映画をどう思っていたのだろう 三益愛子は愛人川口松太郎との間に私生児、浩を産んだばかりであった 「新婚生活」は晴れて結婚出来る戦後1952年まで辛抱しなければならない

川田義雄のキャラに合わない役どころだなと思っていたら この役は元々柳家金語楼の予定だったが製作のミスで押さえてなかったので急遽の代役だった

古川ロッパというのは膨大な日記を残しているのでこの映画の撮影状況が手に取るように分かる それによると昭和14 年11月15日 山本嘉次郎が自ら「本読み」をする 「念のいったいいシナリオだ」 11月27日 クランクイン 砧村セットでガラマサどん出社シーンを撮る 同28日 社長室シーン(有楽座千秋楽)同29日 ロケ予定が風強くセットでガラマサどん、朝風呂シーンを撮る 同30日 一郎の部屋 12月1日 スタジオ撮影 同2日 スタジオ撮影  同3日 ロケ リヤカー引いて引越しのシーン 同4日 応接室 二役シーンをガラマサどん部分 同5日 渡辺はま子の家のシーン 同6日 曇につきセット 同7日 齒か腫れる ジャズチンドン屋演奏シーンのみ 同8日 齒の腫れ引かず ロケ愛染かつらパロディ、同9日 ロケ ジャズチンドン屋の行進シーン 同10日 聖路加病院近く ジャズチンドン屋シーン 同11日 トラック荷台で歌うラストシーン 同12日 撮影終了 川田義雄のシーン 昭和15年1月 封切り

ガラマサどんと一郎が会話する合成シーンはお見事

〽どこまで続く泥濘ぞ の「討匪行」のメロディでロッパが歌う替歌に乗せて描く駆け落ち貧乏世帯と対比的に描かれるガラマサどんや歌手渡辺はま子の昭和初期の裕福な生活ぶりが面白い

ロッパのガラマサどんの老人キャラは「家光と彦左」の大久保彦左衛門で完成をむかえる 


白鷺だより(410) 美空ひばり芸能生活10周年記念映画

2022-06-18 18:31:31 | 映画

美空ひばり芸能生活10周年記念映画

 You Tubeの東映時代劇チャンネルが時々自社の古い映画を期間限定で特別配信してくれる 今回は1958年上映のこんなミュージカル映画「希望の乙女」、 芸能生活10周年と言っても少女時代のデビューだから御年21歳の美空ひばりだ

 物語は北海道から歌手になるために上京してきた少女、美原さゆりが青函連絡船の中で出逢ったサックスを吹く男(高倉健)と知り合う 担任の教師に書いて貰った紹介状を持って作曲家月森浩一(山村聡)を訪ねるが彼は奥さんを亡くしたばかりで なかなか心を開いてくれず弟子入りも許して貰えない 近所の下町商店街の素人バンド「あけぼの楽団」のメンバー(北村英治ら)と親しくなる

 戦後すぐヒットした並木路子の「そよかぜ」(松竹、主題歌リンゴの歌)とストーリーが似ているが 原案のひばりの母親加藤喜美枝が昔観た映画だったりして、そう言えば「そよかぜ」の監督は佐々木康だ

スタッフ

製作  大川博                       原案                      

原案  加藤喜美枝

脚本  笠原良三/ 笠原和夫

監督  佐々木康

音楽  米山一夫

振付  矢田茂

笠原和夫は東映宣伝部在席だった19:56年社内シナリオコンクールで1位となる

キャスト

美空ひばり/山村聡/高倉健/山東昭子

柳家金語楼/小野透(当時、17歳.のちのかとう哲也)

ダークダックスが北海道時代の音楽仲間で東京で再会する役( 芝居もしている)「アカシヤ楽団」は北村英治とシックスブラザースのメンバー

さて吉村は梅田コマにて美空ひばり芸能生活30周年記念公演「鳳城の花嫁」、33周年記念「北条政子」40 周年記念「春秋千姫絵巻」を手伝った