白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(351)「三婆」 平成8年版と令和元年版

2019-06-27 09:22:18 | 観劇

 久しぶりに三人の婆さんに会った 23年ぶりだ 
会ったのは松子、たき 駒代さんだ そうだ 重助さんにもだ

あまりにも切符が取れないとの噂が流れたものだから事の真相を探るべき演劇部に聞いてみると果たして夜の部に辛うじて三階に空席があるという そこをお願いして席を押さえてもらって出かけた
なるほど 劇場の雰囲気は初めて芝居を見るような女性客で一杯だ 若い女性客は八百屋役のジャニーズの役者がお目当てなのだろう

松井るみの金をふんだんに使ったセットは盆一杯に三方飾りで膨大な残された本宅と庭を一堂に見せる効果がある
(欲を言えばラストシーンは屋敷を囲んで建つ高層マンション群が欲しかった)


平成8年 僕は松竹芸能から「三婆」をかしまし娘結成40周年記念作としてやりたい、協力してくれという依頼があった

松竹芸能としてはかねて勝社長の発案で「商業演劇でもない新劇でもない中間演劇」として「松竹現代劇」を日生劇場でスタートさせていた
その流れで中座で試演して日生劇場でも公演する そんな芝居を「かしまし」で作りたいという
有吉佐和子原作「三婆」はその時点では昭和48年東京芸術座で小幡欣冶脚本、演出で初演上演、市川翠扇、北林谷栄、一の宮あつ子のコンビでヒットした 翌年原作者有吉さんの脚本で映画化 三益愛子 田中絹代 木暮美千代 有島一郎であった
この年芸術座でも同メンバーで再演 昭和51年にも北林さんの役を荒木道子に替えての再再演のみの公演しかなかった
(新劇の文化座が鈴木光枝さんで好評を得た公演があったが)

僕の仕事は小幡先生と打ち合わせして 時代をどうするのか 場所は? そして全部大阪弁にしてくれという注文だ
時代はズーット最近の話にして昭和44年の大阪の話ということで訳に入った 装置の中島正留と本宅の場所の帝塚山にもロケハンに行った
苦労は多かったが楽しい作業で 読み合わせの前に小幡先生が「吉村君が苦労して直して呉れたんだ 一字一句変える事あいならぬ」と言ってくれたので嬉しかった いつもいいかげんな本読みをしている「かしまし」と顔を見合わせたものだ

小幡欣冶の演出の言葉
「三婆」が初めて上演されたのは今から23年前の昭和48年である
(吉村注 奇しくもあれから23年 これ以降 この作品は多くの会社、東宝、松竹などで上演されている)
当時はまだそれほど深刻ではなかった老人問題も社会の高齢化が進むにつれて次第に現実味が帯び始め 今では身近な問題として考えざるをえなくなってきた そんなこともあってかこの作品は今日までの間に何度も上演され その都度個性豊かな俳優たちの競演で話題になったがこの度は「かしまし娘」の三人の諸嬢?が三婆に扮して競い合うことになった 役柄や三人の持ち味、さらに結成40周年の記念公演といったことを考えるとこれは絶妙の配役と言えるだろう (中略)、、、、どんな「三婆」が出来上がるか今から楽しみにしてるのだが 公演が中座ということもあり 舞台を大阪に設定し 時代も少し繰り上げることにした 幸い吉村正人さんが協力してくださって 台詞もすべて所謂大阪弁に統一した 時代が変わっても、また場所が変わっても人が老いるという問題は変わらない つまり芝居の中身は変わらないということである 今回は久しぶりに演出のテーブルに座ることになったが 残念なのは原作者(同じ関西圏の和歌山出身の)有吉佐和子さんに観て頂けないことである

この時の配役は 松子に歌江さん たきに照枝さん 駒代に花江さん 重助には山口崇 
天笑がやっていた部屋を借りに来る夫婦は玉ちゃんと羽衣子 
最後の政治家の演説のナレーション 新喜劇の江口直弥さんにお願いして録音 これは良かった

かしまし娘はリアルな年齢でもあり 余計なアドリブ無しで なかなか良かった 最後のぼけた演技は秀逸だ
山口崇さんの重助にも泣かされた

この翌年 この作品はアイエスさんに買われて井沢八郎さんのショウと共に巡業に出た
その巡業の千秋楽は彦根公演だった
僕は南座で別の芝居をやっていて 京都駅のホームでソバを食べて挨拶に行った
千秋楽でもあり打ち上げ代わりに 歌江師匠は大坂の仕出し屋からお弁当を持ってきてもらい お昼に配った
僕も頂いたが駅でソバを食っていたので 後から来たマネージャーに回した
芝居が始まって様子がおかしい みんな出番が終わったらトイレに駆け込むのだ
結論をいうと例のお弁当を食べたもの全員が食中毒にかかったのだ
地獄絵とはこんなことを言うのだろう
動ける役者はまだいい スタッフは部署によっては漏らしながら動くことも出来ない
演出判断で第二幕が終わったところで打ち切った 彦根の観客は皆でカンパイするハッピーエンドで芝居は終わったのだ
幸い次の井沢さんはお弁当は食べてはいず 少し長めのショウをお願いした
役者で症状のヒドイ者は保健所の車で搬送 
歌江師匠は泣きじゃくり 悲惨な千秋楽となった
僕の代わりに弁当を食べたマネージャーは会社に手伝った搬送の次第を自慢げに報告したトタン吐いた
という嫌な結末で終わった「三婆」ではあるが愛着は残った

自分で言うのも何だが この大阪バージョンは中々良く出来た脚本であった 
関西辨でやりたい方は是非 

今回の舞台は大竹しのぶ、渡辺えり、キムラ緑子のいわゆる芸達者の役者が勢揃いしたが 三人とも達者すぎて上っ面の笑いでしかない
最後の老婆もそれなりに面白いが 悲しみが裏打ちされてないのが残念
笑いも大阪的ではなくそれほど笑いもない
東京の評判だけでアリガタがってるおばちゃんたちは喜んでいる(このおばちゃんたちが一番お金を持っている)
よく見ると三階席も何回も劇場に通っている人たちで一杯だった
ジャニーズの若い子のフアンが芝居を観るきっかけになればいい
しかし一回でも充分な芝居なのに嬉しそうに3回も4回もカーテンコールを繰り返す作品でもない

 

 

                    (6月24日 松竹座 夜の部観劇)


白鷺だより(350)熊谷真実一座旗揚げ公演

2019-06-05 11:53:56 | 日本香堂
 
今年の日本香堂観劇会も好評裏に無事千秋楽を迎えることが出来た
今回は多少冒険かと思われる「熊谷真実一座旗揚げ公演」と銘打った公演でいわゆる商業演劇では取り上げることのない座組である
 客を呼べる歌手でもなく、大劇場での座長公演も何度も演った経験もない熊谷を座長として公演するのは 以前にも左とん平さんがいた もちろんいい作品を持ってくれば「客」は心配しなくてもいい スポンサーである日本香堂さんにはそう言ってもらってはいる
もちろん それに甘えていてはダメだ 観に来てくれたお客様にそれなりに「満足感」というものを持って帰ってもらわねばならない
それはお弁当やお土産品にも もちろん内容にも言える

今回の出し物は日本香堂さんのご挨拶に続いて
第一部に正装した熊谷座長による「口上」
その後速水映人による「女形舞踊」続いて
小松政夫さんが挨拶代わりの「電線音頭」「しらけどり音頭」、
そのあと小松さん+かんからの入山君(何年かぶりの仕事)とニュースコント 
音無美紀子さんと川野太郎、あご勇さんの司会で「音無美紀子の歌謡喫茶」(音無さんが昔の「歌声喫茶」風に歌を持って東北の被災地を励まして回っているのを再現)
そのゲストに熊谷さんが華麗なるドレス姿で第二部のお芝居のテーマソング「煙が目に染みる」を歌う
そして日本香堂のキャラクター「かおるちゃん」と「定吉くん」が出て一緒に「青雲の歌」を歌おうと客席にお願いする
客席にいる残りの出演者たちと共に「青雲のうた」を歌い特売品の「お線香」を販売

ここに一年前のラインの記録がある 制作の岩崎と僕 それに当時の熊谷のマネージャーYさんの三人のグループラインだ
タイトルを「熊谷真実座長公演実行委員会」という
これを見ると昨年の4・5にグループを作り 
その間昨年の公演(明日の幸福)の稽古 本番があり 公演が落ち着いた5・12 僕は下北沢の劇場に加藤健一事務所の「煙が目に染みる」を熊谷さんとYさんとで見ている この公演は昔Yさんが初演をみて感動した芝居だ
今回は作者の堤さんが演出ということで 他の劇団の公演をいくつか見た僕にとっても興味ある公演であった
公演を見た後 四人で近所で食事をした 
このグループラインはポスター撮りのキャラクターや段取りを決めた頃 いつしか立ち消えになった
理由が良く判らないうちにYさんはマネージャーを辞め 個人事務所は解散となり 熊谷の新しい事務所が発表された
岩崎がラインから脱会したのが 6・15だ

さて今回稽古二日前に小松さんから提案があった 小松さんは前月博多座公演に一か月参加しており その疲れから台本を覚えられない、
もう少し軽い役にしてくれと言ってきた 幸い八十吉さんが役の変更を快く招致してくれ その役の代わりをあご勇さんにお願いし あごさんの役を小松さんにやってもらうことになった このメンバーで本読みをしたが全く問題なくむしろ最初からその配役だったようだった

正直言って今回の「煙が目にしみる」は僕がみたどの劇団(YouTubeを含む)の「煙~」より出来が良く涙も感動も笑いも大きかった
もともと声優たちの劇団の「あてがき」で始まったこの芝居は当然ながら余計な処も多く饒舌になりすぎていた 
それを二本立ての一本ということで短く収めなければと 多くの「刈り込み」や「カット」をした分 内容が纏まり より笑わせ より泣かせという結果になった 配役も皆適役で熊谷の桂おばあちゃんをはじめ 奥さんの音無さんはドンピシャ 川野太郎、八十吉の幽霊も良く、
高校生役のの梨澤さん(カゾクマンのイエロー)、大学生役の田村も年齢的には無理なハンデを克服した
北見の娘役の西浦八重子もプロフィールだけで選んだのに期待以上よくやってくれた

今回の成功の要因は音楽だ 第一部で音無さんにたっぷり歌って貰ったので 劇中急に歌い出しても違和感がなく彼女が歌う古関裕而の
夏の高校野球選手権大会の歌、「栄冠は君に輝く」はお客の涙腺を緩めるのに十分だった
あとはいつも僕とコンビを組んでくれて音楽を担当してくれている小野尊由さんの阿吽の呼吸と言おうか素晴らしい「煙が目にしむる」のBGアレンジは見事な出来であった (今回は第一部の歌謡喫茶のカラオケまで担当してもらっての失礼かつ無茶なお願いも聞いてもらっての仕事だった)あと「ギターを持った渡り鳥」のウエスタンアレンジも往年の旭ファンも納得させる出来栄えだった

おばあちゃん役が成功すれば後はどんな役でも喜んでもらえる
第三部岡本さとる作・演出「おくまと鉄之助」はおきゃんな芸者役で鉄之助との恋物語や小林功さんとの父娘の情愛もたっぷり見せる好作品になった

第一部、第二部、第三部と居並びの挨拶まで熊谷真実のあらゆる「いいところ」を見せることが出来た

千秋楽には立ち上げメンバーでもある元マネージャーYさんんも駆け付けてくれ なみだなみだの千秋楽となった
大坂某所で行われた打ち上げには某有名歌手の飛び入り参加もあり 夜明け近くまで続いた

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