MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

各馬一斉にスタート…しないね

2013-05-29 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

05/29 私の音楽仲間 (490) ~ 私の室内楽仲間たち (463)



         各馬一斉にスタート…しないね




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




          関連記事 『ラズモーフスキィ』第

               やさしいのに合わない…
                   減七で幻惑
                   序奏は倉庫
                    細く長く
                曲との出逢い、再会
                 支え合い?妨害?
                   忠実な片腕
                 事前のインプット
                単純な音符の二面性
                   優美な音階
             各馬一斉にスタート…しないね
               沈黙を呼ぶ第Ⅳレース
                  第五コーナー?
                Beethoven の騙し絵
                    刻苦勉励
                 作曲家 対 演奏家
                演奏家 対 ギャラリー
                  繰り返しは嫌




 Beethoven の弦楽四重奏曲 『ラズモーフスキィ』第3番
その第Ⅳ楽章は、まるでレースのようです。

 徒競争、100メートル走か。 それとも 1,500メートル走?



 どう見ても短距離走ではない。 走り終わると、少なく
とも精神的に、“ハアハア” 言うでしょう。

 429小節、時間にして7~8分、走りっ放し。 その間、
「これでもか、これでもか!」…と作曲者の鞭が、演奏
者を駆りたてます。



 してみると、これは競馬? 競争馬は4頭。 一番馬 (ViolinⅠ)
から、四番馬 (チェロ) までいます。

 4頭が同じペースで “並走” することが、決してないわけでは
ありません。 しかしこの第Ⅳレースでは、“走りの目立つ馬”
が交代で現われる。 観客の目は、そのつど、一頭に釘づけに
なります。



 かと思うと、一番と四番が並走して、デッドヒートを繰り広げる。
すると今度は二番、三番がこれに加わり、四番は脱落します。

 その四番が追い上げ、追い抜く。 これに続くのは三番だけ…。
息をもつかせぬ大レースです。




 ところがレースの開始時は、スタートがばらばら。 普通は
“一斉にスタート” するはずなのですが…。



 まず三番馬。 次いで二番、四番、最後に一番。 それぞれの
間は10秒…、じゃなかった、きっちり10小節の間隔があります。

 まるで、箱根往復駅伝の “競馬版” みたい。 復路では、まず
往路優勝のチームから順にスタートします。 もちろん、タイム差
どおりに間隔を空けて。



 それぞれの馬は、「10小節間は自分が目立つ」…ことを知って
いるのです。 でも意識過剰になると、ペースが乱れてしまう。




 このような部分は、フガ―トと呼ばれますね。

 もちろん “フーガ” と関連しています。 語源は共に “逃げる”
で、“抜きつ追われつ” のレースに、打ってつけの言葉です。

    関連記事 『頭の体操 (85) 漢字クイズ 問題/解答』 (3) フガ―ト




 [譜例]は、レースの中ほどから。 一番馬のパート譜です。
演奏例の音源]は、譜例の1小節前からスタートします。
      (ただし、ここはフガ―トではありません。)

 拍子は 2/2。 テンポは “Allegro molto” です。 スタート
時点の調性は “ハ長調” ですが、この部分は “ニ短調” で
始まり、転調を繰り返します。







 一段目の最後の小節からは、一番馬が独走 (ソロ) する。
8小節間に亘って、観客の目を惹きつけます。
 
 すると今度は二番馬が登場。 順に、三番馬、四番馬。
持ちタイムは、すべて8小節です。




 あれ…? レース (競争) というより、コンテスト (品評会) だ!

 むしろ、馬術競技と言ったほうが相応しいですね。



 この参考ページにある言葉を、いくつか見てみましょう。

 軽乗競技。 軽快さを競うのかな?

 障害飛越競技。 難所ばかりだよ。

 長途騎乗 (エンデュランス) 競技。 そのとおり!

 選手の男女が区別されない唯一の競技。 うそ。




 そして、愛馬精神! これ、私たちの場合は、他の馬を愛する
ことです。

 レースやコンテストなら、相手の失敗を願うこともあるでしょう。
でも私たちは違う。 触発されることはあっても、互いを尊重し、
4頭で一つの音楽を作ります。



 「ドイツ馬術…の騎乗法・調教法が今日の馬場馬術の基礎を
なしている。」

 気丈ではあっても、協調精神は旺盛です。




        [音源サイト    [音源サイト