MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

退却ラッパ

2012-11-25 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

11/25 私の音楽仲間 (449) ~ 私の室内楽仲間たち (422)



               退却ラッパ



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 Mozart のイ長調 四重奏曲、K464 には、主題と変奏
から成る楽章があります。

 “Andante” で、通常は第Ⅲ楽章の位置に置かれます。



 作曲の熟達ぶりを、師ハイドンにアピールしようとした、
この6曲のハイドン セット。 “変奏曲” は、その手腕を
示す、格好の形式と言われます。



 6曲の中では、名高い ニ短調 K421 の終楽章も、やはり
変奏曲で書かれています。

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 [譜例]は、その楽章の冒頭で、ViolinⅠのパート譜です。

 主題部分は、最初の三段。 前半8小節、後半10小節
から成っています。 四段目からは変奏が始まります。







 この第一変奏は、Vn.Ⅰの独壇場で、装飾の趣向を
凝らした音楽が、最初からいきなり登場します。

 演奏例の音源]では、前回と同じ、Violin 私、Y.さん
Viiola T.さん、チェロ F.さんが演奏しています。





 「何だ、この演奏は! 2分半で終る変奏曲なんて、
おかしいじゃないか!?」



 あ、今回は読者代表が、いきなり登場しましたね…?
いらっしゃいませ!

 この場では、あまり長い音源はアップできないんです。
容量や費用の問題もあるので、いきなりコーダに跳ぶ
しかなかったんですよ…。

 コーダも短縮したので、これが本当の “尻すぼみ”!




 「…何でもいいが、この[譜例]のとおりには演奏してない
じゃないか。 二段目に入ったと思ったら、すぐに四段目の
変奏が始まってるぞ?」

 はい。 主題前半の後に、変奏をすぐ聞いていただいた
ほうが面白いかなと思って…。 テーマの後半でも、その
変奏が続きます。



 「そんな支離滅裂なことを、お前は仲間に強制して
いるのか? 軍隊じゃあるまいし。 指揮系統に問題
があるようだな。」

 いや、違いますよ。 ちゃんと譜面のとおりに演奏
してもらったのを、後から編集しただけです。



 「それは編集じゃない! “変醜” だ。」



 ……、………。




 「最後にもう一つ。 あんなに “そそくさ” と終って
いいのか? 最初のテンポと、全然違うじゃないか。
それとも、そういう解釈なのか?」

 …、あの、これには事情があって…。



 「それに、軍隊式のリズムが出て来るな? チェロに。
これは一体、何かね? お前に対する叛乱か?」

 はい! 全曲の中で、もっとも特徴的なリズムなんです!



 「何でもいいが、こんなに恥ずかしそうに楽章を終えたら、
作曲者に対する冒涜だぞ。 音楽に落着きが無さすぎる。」

 いや、実は…。

 「それとも、お前の技術的限界か?」




 実は、この曲は私たちのために書かれたんです。



 「…!!」

 これ、全曲を二回目に通したときの音源なんですけど、
“楽章順” じゃないんですよ。 この楽章は、わざと一番
最後に持って来たんです。



 「…なぜだ?」

 会場の使用時刻は、午後五時まで。 10分前には
後片付けを始めないと…。

 「………。」

 だから、時計とにらめっこしながら、“行ける所まで
行こう” というつもりで。 この楽章、長いんです。

 「……。」




 ほら、最後の軍隊調のリズムはね、あれ、
“退却ラッパ” なんですよ。

 さすがに Mozart、200年も先を見越している。
凄いですよね! 天才だけのことはあります。

 「…。」



 そしたら、何とかギリギリに終ったんですよ。
もちろん、“繰り返し” は抜きにしましたからね。

 終るや否や、ヨーイドンで、一斉に後片付け、
始めたんです!




 「それじゃ、“ヨーイドン セット” じゃないか。」




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