12/28 私の音楽仲間 (347) ~ 私の室内楽仲間たち (320)
参入者の対話
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弦楽器のための室内楽、その "定番" と言えば、もちろん
弦楽四重奏曲ですね。
混成四部合唱にも見られる、この "四" は、作曲の基本的
な書法で重視される数です。 四声部の形作るハーモニー、
四声部の絡み合い…。
弦楽四重奏曲は、作曲家が交響曲のような大作を目指す
前のステップとしても、 "習作" の意味で作られることがあり
ます。 弦楽器の扱いに習熟するためにも、重要な分野なの
でしょう。
この『プロシャ王』第3番が、Mozart の最後の四重奏曲と
なったことは、この場でも何度か触れました。 以後、弦楽器
のために書かれた室内楽は、2つの五重奏曲だけです。
もし、彼がもっと長生きしたら、「その先どうなったか」…は、
もちろん解りません。 しかし、この最後の四重奏曲には、
五重奏への傾斜を感じさせる部分が、少なくありません。
[譜例 ①]は、その第Ⅱ楽章の冒頭です。
Mi、Mi…Sol、Re。 Fa、…。 Violin が素朴な主題を歌います。
その次に耳を捉えるのが、チェロでしょう。
ところが譜例の2段目になると、ViolinⅠが一人だけ、
自由に動き始めます。 これまでの狭い低音域との
対比が鮮やかです。
そして、これまでのテーマの動きを引き継ぐのは、
Vn.Ⅱです。 それに、もう一つ低い音がありますね。
1段目には4人分の音がありましたが、それを
今度は3人で演奏するので、誰かが2つ音を弾か
ねばなりません。
これは重音、"ダブル ストップ" と呼ばれる奏法です。
今まで弾いていたのは、"Do"の音" から始まるライン
です。 これを Viola に譲り、代わりに、Viola の "Sol の
音" からのラインを担当しています。 交換した方が弾き
易くなります。
ところが楽章も後半になると、今度は Vn.Ⅰが重音を担当
します。 理由は、Viola が新しい動きを始めるからですね。
[譜例 ②]の、"L1" と書いてある部分です。
ちなみに、この新しい形は、分散和音、特に上昇3度が
基本になっています。 正確にリズムを演奏するのが、
大変難しい形です。
よく見ると、テーマの Vn.Ⅰにも、またチェロにも、この
3度があります。 それゆえに、"新しい" 形が加わって
も、違和感はまったくありません。
そう言えば[譜例 ①]の冒頭部分では、Vn.Ⅰが自由
に動いていましたね。 ここにも3度がありましたが、
下降形が多いので、ずっと穏やかに聞えました。
さて、この新しい形。 今度はチェロと Vn.Ⅰに受け
継がれ、対話が始まりました。 "L2" からです。
重音は、内声の二人が担当します。
"L3" の前からは、やはり冒頭でもチェロに現われた、
上昇、下降する形が延々と続きます。 ちなみに、前者
も3度音程で始まっています。
ここからは、より自由で伸びやかな音楽になります。
チェロが、この形でキャッチボールを始める相手は、
Viola。 やがて Violin たちにも引き継がれると、この
形は連続して15小節間も聞かれます。
さて、やはり15小節間も続いていたのが、重音奏法です。
弦楽器がこの作業に携わるのは、Mozart の四重奏曲でも
決して珍しくありません。 しかし、これほど長く連続する例は、
他に思い当りません。
その原因は…? それは、元のテーマに "新しい形が
加わった" からですね。
さらにそれを用いて "対話" が始まるのですから、また
しても人手が足りなくなり、残りの人間の仕事が増えるの
は当然です。
この二つは、もちろん作曲者が望んだ音楽語法。 それ
を表現するためには、もはや「4人では足りなく」…なって
しまったのです。
二つのラインの絡み合いと、それぞれを用いた対話は、
この後も、特に第Ⅳ楽章の "Allegro" で顕著です。
今回この曲に挑戦したのは、Violin 私、T.さん、Viola B.さん、
チェロが Si.さんです。
音源は、[譜例 ②]の、"L1" から始まり、楽章の終り近くまで
続きます。
[第Ⅱ楽章 後半部分の演奏例]
[音源サイト]