ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

伊坂幸太郎さんの新作「火星にすむつもりかい?」を読み終えました

2015年03月11日 | 
 ミステリー作家の伊坂幸太郎さんの新作の単行本「火星にすむつもりかい?」を読み終えました(この新刊を読み始めた時のエピソードは2015年3月8日編をご参照ください)。

 この新作は2015年2月20日に光文社から発行されました。



 今回の新刊は、“平和警察”という戦前の特高警察のような悪の官僚組織が冒頭から登場し、地域住民に恐怖を与え、無実の“危険人物”とみなされた住民を“ある種の拷問”になる尋問によって、やってもいない罪を自白させるなどの悪の限りを尽くします。自白を強制された住民は力尽きて、最後は公開処刑されます。とても暗い前半部分です。

 冒頭部分の読後感が悪く、ページが進まず、半分まで読むのに10数日と時間がかかりました。

 いつものように仙台市が物語の舞台なので、約半分過ぎた辺りで、青葉区にある東北大学大学院工学研究科の白幡(しらはた)教授という高性能磁石の研究者が登場します。この白幡教授という登場人物は、最終ページに謝辞が載っている、同大学の杉本諭(さとし)教授を基に、伊坂幸太郎さんがつくり出した登場人物です。

 小説の中では、ある策略から、この白幡教授も“平和警察”が“危険人物”にでっち上げる、ある罠をつくります。さて、白幡教授の運命はいかに・・

 本物の杉本さんはネオジム・鉄・ボロン(NdFeB)系の高性能磁石などの研究開発を進めている研究者として有名な方です。そして、文中に紹介されているように、この高性能磁石の耐熱性を高めるために添加されているレアメタル(希少金属)であるディスプロシウム(Dy)の添加量を大幅に削減するという素晴らしい研究開発成果を最近上げています。

 今回の物語では、開発中の一層高性能化した磁石が、文中に登場する“正義の味方”の武器になっています。しかし、冷静に考えると、いくら高性能磁石といっても、物理的に無理な仕組みです。謝辞に書かれているように「想像上の道具につきましては、僕がでっち上げたものです」と書かれているとおりです。

 さて、冒頭からの“平和警察”の話は重苦しい内容ですが、今後起こりえないとは限らない点が不気味です。

 この物語では、“平和警察”の生みの親である、残忍な薬師寺警視長、その部下筋に当たる、上司にこびて、部下に厳しい宮城県警の上野刑事部長、組織から離れた独立した特別捜査室の真壁鴻一郎捜査官などが登場し、地域住民をいたぶります。

 この“平和警察”に一人で立ち向かう“正義の味方”と呼ばれる人物が登場し、“平和警察”を少し苦しめます。本当の主人公は、この“正義の味方”を利用して“平和警察”を、内部から壊し始める人物です。

 この作品には、昆虫の生き残りをかけた生態の比喩(ひゆ)がよく出てきます。これが伏線になっています。そして、実に様々なところに、最後の謎解き時に意味が分かる布石が散りばめてあります。伊坂さんの掌の上で、読者は右往左往していたことを知らされます。

 本作品は、壮大な仕掛けの失敗作だと感じました。やはり、“平和警察”という悪の恐怖態勢を内部から破壊するには、都合が良すぎる展開になっています。壮大な悪の組織を描き出しながら、“パッピーエンド”に向けた着陸点が強引な気がします。もう少しうまい結末があるような気がしました。再度、似たような設定で、うまい“解”を描いてもらいたいと感じました。

 こうしてみると、伊坂幸太郎さんの「ゴールデンスランバー」や最近の合作の「キャプテンサンダーボルト」は、よくプロフィットを考え抜いてあったと、改めて感心しています。