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佐野眞一『東電OL殺人事件』新潮社、2000年

2011-09-17 00:56:03 | 
福島第一原発の事故が起きて、東京電力という企業の病理があまねく知られるようになった。
そうした時、私の脳裏を1997年に渋谷で起きた東電OL殺人事件がかすめていった。被害者の女性は父親も東電の幹部社員で、本人も東電の社員であることを強く誇りに思っていたという。
そうしたら今度は事件の容疑者として逮捕され、無期懲役の判決を受けて服役中のゴビンダ受刑囚とは別の人物と被害者が殺害現場で接触した可能性を示すDNA鑑定結果が出てきて、冤罪事件だった可能性が出てきた。
そこで改めて佐野眞一氏の『東電OL殺人事件』を読み直してみた。佐野氏はネパールまで取材に行って様々な証言を集め、ゴビンダは無罪なのではないかと推測している。被害者となった東電OLの謎の行動についても方々の関係者に取材して、その心理の分析を試みている。容疑者と被害者の関係先をあまねく踏破するかのように徹底して取材した傑作だと思った。本書は一審で無罪判決が出たところで終わっている。だが二審で逆転有罪となり、勾留期間も含めて以来14年もゴビンダはとらわれの身となっている。本書を読むと警察がいわゆる「不法労働者」だったゴビンダを最初から犯人だと決めつけるような予断に満ちた捜査を行った姿が浮かび上がってくる。ゴビンダを犯人として有罪にできれば、日本で「不法」に働いている外国人たちに「日本は冤罪で捕らわれる恐ろしい国だ」と思わせることができ、彼らを日本から遠ざけることができて、治安がよくなるとでも思ったのだろう。
最近になって事件を見直す気運が起きていることは、福島第一原発の事故処理と被害補償などで東京電力の財務状況が悪化し、これまで東電が湯水のように使ってきた様々な「対策費」が使えなくなったことと無関係なのだろうか?