花の都、パリ。
オスマン調の建物が立ち並び、伝統を守った街路が整備されているこの国の首都はしかし、物価が地方と比べて極めて高いことでも知られています。特に高騰しているのが家賃で、パリ市内や周辺の高級住宅街(ヌイーなど)では、T3タイプ(寝室2つ+居間)で1000、2000ユーロを越える物件がほとんどです。無論、郊外に住むか狭い家を選べば家賃は下がりますが、交通の便や治安等を考えると、どうしても都心部に住みたくなるのが心情。
実は、最近ストラスブールに住んでいる友人が、仕事の関係でパリに転居することになったのですが、今家探しでとても苦労しています。はじめは「数日で見つかるだろう」と気楽に考え、ネットで目をつけた物件7~8件の下見を予約しておき、パリ市内を巡っていたのですが、なにしろ家賃がまず高い。予算(会社の住宅手当)の範囲内のものであっても、古い物件だとエレベーターが無かったりと不便なこともあり、なかなか条件に合う物件に出会えませんでした。
しかも、運よく入居したくなるような物件に出会っても、不動産屋、大家との交渉というカベが。彼の勤務先は日本でも名だたる立派なところなのですが、「外国人」という条件がハンデになるためか、下見は気軽にOKしてもなかなか賃貸契約(bail)のサインにまで辿りつけないそうです。一番問題なのが家賃滞納保険を引き受ける保険会社で、「外国人だと滞納しても国外に逃げられたら追及しづらい」等という理由をつけて、「あなたの月収は家賃の3倍未満しかないので、支払い能力に不安がある」「仏国内に居住し、家賃の3倍以上の月収があるフランス人を保証人としてつけないと、難しい」としばしば言われるとか。元来、彼の会社の場合、住宅手当は賃金とは別途実費で出る(限度額はあるものの)システムになっており、総収入額が家賃の3倍未満となるほうがむしろ普通なのですが、とにかく保険会社としては、形式的にも3倍の月収がないと動かない姿勢。一介の日本人にそんな高収入の仏人友人(しかも保証人になってくれる程の人)がいるわけもなく、結局断念に追い込まれるそうです。他方、大家さんは大家さんで、高額の契約になる以上滞納保険なしでは貸すリスクが高すぎるため、たとえ大家さんの心証がよくても保険会社がダメだと契約できません。
こうした事情の背景にはフランスの借地借家法も影響しているようで、借主の権利が大幅に保護されている結果、家主としては簡単に借主を追い出せず、ために契約をする際に極めて慎重になる傾向があるそうです。その為、低所得者や外国人、移民出身の仏国民はやはり相対的に不利な立場に置かれることになります(無論、移民出身者でも仏国民であれば公営住宅等の社会保障制度はありますが)。
「弱者保護」の美名の下、既存の権利者(この場合では、借家人)に対する保護を強めるあまりに却って「真の弱者」の権利が保護されなくなる、という矛盾。そういえば、CPE(新社会人雇用契約)制度導入問題でも、既存の無期労働契約(CDI)の手厚い労働者保護による労働市場の流動性の無さ、雇用機会の減少が議論されていましたが(そしてその矛盾は不正規雇用、外国人不法労働といった形で表面化しつつありますが)、借地借家関係でもこれと同じ構図が見て取れます(参考エントリー:こちら)。
果たして、この「フランス型社会モデル」を維持していくべきか否か。2007年の大統領選挙では、そういったことも争点になるかもしれません。