(写真)ストライキで学生らに不法占拠されたリヨン第二大学河畔キャンパス
労組、学生らのCPE(contrat premiere embauche、新社会人雇用契約)反対運動は、4日の全国ストの成功を受け、勢いを増しています(これまでの全国ストの参加人数の推移については、ここを参照して下さい)。労組ら反対12団体は5日、政府・与党に対して。国会が休暇に入る前の4月17日までに、CPEを廃止するよう要求。それに連れて学生らの活動も先鋭化しつつあります。
当初、大学の不法占拠、授業のボイコットで始まった大学生らの反対運動ですが、最近では鉄道、道路、重要拠点(市場、郵便集配所など)の占拠といった形でエスカレート。パリ環状道路やパリ・オルリー国際空港へのアクセス道路の通行が学生らによって妨害されたり、パリの主要駅を学生の一団が襲って線路の上で座り込みをしたりしています。リヨンでも7日、環状道路(ローヌ県道D383号線)北側の料金所に学生らが現れ道路交通を妨害した他、トゥールーズでは「我々は消費したい!」と叫ぶ学生らによって大型スーパーが「襲撃」されました。
他方で、期末試験やバカロレア(仏版センター試験)が近づくに連れて、大学のロックアウトに反対する学生も増加。パリでは授業再開を求める高校生の保護者とスト続行を訴える生徒が「衝突」し、リヨンでは第二大学が5日にスト解除決議を行って再開された他、各地の大学でも同様の動きが徐々に見られるようになりました。
CPE反対運動が発生して以来、私も色々な文献や報道に接し、フランスの労働事情や大学生らの主張についてそれなりに理解を深めたつもりですが(参考:「フランス労働市場の停滞と矛盾」)、それでも最近の彼らのあまりにも幼い「やり方」には、正直言って憤りを禁じえません。街頭に出てデモをするのは一つの民主的な政治活動だとしても、勝手に大学を不法占拠して授業の進行を妨害するというのは、勉強を続けたい他の学生の権利を侵害する行為に他なりません。ましてや、鉄道線路上での座り込みや高速道路の占拠、郵便集配所の出入り妨害は、立派な犯罪行為(日本では往来妨害罪、威力業務妨害罪)。成人なら当然刑事罰を受けてしかるべきもので、無論、学生の中でも「やり過ぎた」者や学生に混じって略奪・破壊行為に及ぶ輩は逮捕・起訴されていますが、大多数は機動隊に排除されるだけで「お咎めなし」です。7日には、パリの大通りを不法占拠していた学生の一団に小型自動車が突っ込み、十数人がケガをする事件が発生しましたが、驚いたことにはこれに怒った学生らがこの自動車を「逆襲」し、車を横転させてフロントガラスを割り、「加害者」の運転手は駆けつけた警察官によって学生から「救出」される始末。全体として、フランス社会はこうした反対運動には(学生に限らず)極めて寛容で、そのことが更に彼らの幼稚な行動を許す結果となっています。日本なら、(実際のところは別としても)大学生ともなれば一応は「大人」の扱いを受け、大人としての権利も認められる代りに大人としての責任も要求される年代。大学の授業を正当な理由なく欠席すればそれなりのペナルティー(少なくとも、欠席したぶんの授業内容を知ることができないという「制裁」はある)が課されるのは当然ですが、フランスでは、ストが解除された各大学ではスト中に出来なかったぶんの補習授業が行われるそうで、(スト反対の学生のために補習を行うことは必要とはいえ)正に至れり尽くせりの甘やかされた対応です(そんな対応を学生時代にされるから、就職活動の段になって社会の厳しさを知り、愕然とするのでしょうが・・・)。これを「新自由主義的経済に抵抗する学生のダイナミズム」「フランスの健全な民主主義」などと称揚する意見(何故か日本人の中にもこうした見方をする人はいますが)には、到底賛同できません。
以前のエントリーでも触れたように、そもそも「労働者に有利な労働契約法制」という既得権益を守って改革を頓挫させようとする労働組合と、そうした既得権益のために雇用の調整弁として使い捨てにされ、雇用不安という被害を受けている若者・学生らが、CPE反対の一点で共闘できるということ自体が相当に奇妙な話なのですが、「フランスの社会モデル」を守るという国民意識は根強く、しばしば日本では考えられないような社会運動が起きたりします(以前扱った国営コルシカ・地中海公社「SNCM」の民営化問題 (参照:記事1、記事2)では、経営合理化・民営化に反対する公社職員のストを、被害を受けたマルセイユ市民が批判するどころか支援していました)。学生らはCPEに反対というばかりで建設的な対案もなく、同様に解雇を容易にした中小企業むけのCNE(新規雇用契約)が雇用増という成功を収めていること、「終身雇用」の美名の下で二重労働市場が形成されていることについてもまるで無関心のようです。
このCPE問題、一つの労働契約の是非を越えて、フランス社会のあり方、殊に学生のあり方についても問題提起をしているといえるのではないでしょうか。
※参考:フランスの主な労働契約形態