カエサルの世界

今年(2019年)1月中旬から「休載中」ということになっているのだけど、まあ、ときどき更新しています。

■七帝柔道記

2018年02月02日 | ☆読書とか    

 久しぶりに「紙の本」を読みました。
 増田俊也さんの『七帝柔道記』です。


 飲み会のときに先輩から薦められていたのだけど、それだけじゃなく、突然、送ってくださったのです。正直なところ、ちょっと戸惑いました。
 当然、読まなければならないわけですけど、それは、まあ、読めばいいだけの話です。でも、読んでみてつまらなかったりしたら、その後の先輩との会話に支障を来すことになります。
 でも、杞憂でした。凄く面白かったです。
 先輩、ありがとうございました。


 『七帝柔道記』は、自伝的青春小説です。登場する飲み屋などは実在のもので、今でも営業中のようです。登場人物も、ほとんどは実名ではないかと思います。
 作者(=主人公)の増田さんは1965年生まれ。2浪して、北海道大学に入り、柔道部に入ります。北大で「七帝柔道」をやりたかったのだそうです。
 カエサルは増田さんより8歳年上ということになり、仙台と札幌の違い、ラクビーと七帝柔道の違いなどはあるのだけど、同じような匂いを感じました。


 北海道大学・東北大学・東京大学・名古屋大学・京都大学・大阪大学・九州大学は、戦前の帝国大学なので、七帝大と呼ばれます。現在でも、七大戦(全国七大学総合体育大会)が行われているということは知っていたのだけど、七大戦にラグビーはなかったため、あまり関心はありませんでした。ましてや「七帝柔道」のことなどまったく知りませんでした。
 「七帝柔道」は、「講道館柔道」とはルールが違うのだそうです。国際的に圧倒的な勢力をもつ講道館柔道に対し、たった7つの大学だけが異なったルールでの柔道を続けているというのは驚異的なことだと思います。ちょっと小気味よくもあります。
 七帝柔道は寝技が中心になるそうですが、「練習量がすべてを決定する」と言われているそうです。寝技は、運動神経やスピードが要求される立ち技と違って、努力すれば努力するだけ伸びるからなんだそうです。「努力は必ず報われる」なんてことが安易に言われちゃうわけですけど、努力すれば努力するだけ伸びるというのは恐ろしいことだと思いました。無間地獄です。増田さんの学生生活は、凄まじいものになっていきます。


 この小説、とにかく恐ろしい話だ・・・ということができると思います。カエサルもラグビー部時代にはかなり辛い思いを重ねてきたつもりでいたのだけど、これほどのものではありません。読んでいるのが辛くなったりしました。
 でも、理不尽なイジメやシゴキにあっているというわけではないのです。先輩たちは、みんな「いい人」なんですね。だからこそ、このような無間地獄が生じてしまうのかもしれません。さっきの話に戻っちゃいますけど、努力すれば努力するだけ伸びるというのは、恐ろしいことなのだと思います。
 同学年の部員同士での関係も、何とも言えないものがあります。なかよしこよしの友情物語とは趣を異にします。大学生になってからの友人関係は、このようなものではないのかと思ったりしました。


 辛い話ばかりが続くわけではありません。やんちゃな学生生活の話も入ります。一口で言うと、バカヤローですね。
 まず、勉強はしません。授業には出ないし、授業に出ても、その態度は劣悪です。飲み屋などでは、同じ大学の他の運動部の上級生たちと対立したりします。実際のケンカの場面はないのですが、書いていないだけなのかもしれません。おそらく、表沙汰にはできないようなことをいっぱいしているんだろうと思います。とにかく、バカヤローですね。
 カエサルも同じようなバカヤローだったので、そうした状況はわかるような気がします。けっして褒められた話じゃないんだけど、ピカレスクロマンみたいな味わいがあって、読んでいて楽しいです。


 暖かい話もあります。入院しているときの、普通のおばちゃんとの交流なんて、なかなかいいです。
 札幌での北大生って、地域の人たちに愛されているんだと思うんですよね。それは、仙台での東北大生でも同じです。逆に、「北大生は頭がいいんだから勉強だけしてればいいんだ」なんて言われたりもするんですけど、そうしたことも含めて、愛されているんだと思うんですよね。
 この街に愛されて、この街を愛して、我らが青春の日々、風渡る東北大・・・なんて、東北大の校友歌(作詞・作曲:小田和正)を書いてしまいました。
 ついでに話を脱線させちゃうと、カエサルは学生時代に「日本で1番の大学は東京大学で、2番目は東北大学だ」という話をマジでされたことが何回かあります。おそらく札幌には「日本で2番目は北大」と思っている人が少なくないんじゃないかな。入学難易度ランキングなんて、一部の人にしか関係のないものだし、地域でのそういう感覚って根強いんじゃないかという気がします。
 増田さんも、1年目に留年して、父親に弁解をしにいくとき、「北大は九大と一緒なんだ」という話をしたりします。増田さんのおとうさん、名古屋在住なんだと思うんだけど、九州出身なんだそうで、「日本で2番目は九大」と思い込んでいるみたいなのです。なんか、わかるような気がします。


 試合の話は、かなり面白いです。「15人の抜き試合」という試合形式です。技のかけあいみたいな話はほとんどわからないのだけど、一喜一憂できます。北大がんばれ、北大がんばれ・・・と思って読んでしまいました。でも、東北大との試合のときは、東北大の応援をしました(笑)
 恋愛話のようなものは、ありません。同じ大学の他の運動部の女子部員の名前を覚えたりしているのだけど、彼女たちと話をしたことさえありません。でも、それだけに、チラリと登場する女子の話はけっこう萌えます。
 北大柔道部初の女子マネージャーが登場して、それなりの交流が描かれたりもします。でも、話が中途半端という気がします。もっといろんなドラマがあったと思うのですが、そういう話を続けちゃうと、この小説の通奏低音みたいな部分が乱れちゃうということなのかもしれません。


 この小説で描かれる北大柔道部は、かなり悲惨な状況にあります。ネタバレになるので詳しい話は書きたくないのだけど、さらに悲惨な状況、絶望的と言ってもいいような状況でお話が終わります。スポーツ物語にありがちなサクセスストーリーなど微塵もありません。カタルシスなどまったく得られません。
 カエサルは「つなぐ」という言葉を思い浮かべました。悲惨な、絶望的な状況の中、北大柔道部員たちは何かをつないでいるんだと思います。この後も、つないでいくんだと思います。


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