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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

よせてはかえす‥

2005-11-16 16:35:18 | 好きな絵本

 幼いころに思い描いた夢のとおりに、今、自分が歩いていたとしたら
それはとっても素敵なことです。

 
 バーバラ・クーニー作 『おおきな なみ』 は、クーニーが自分のお母さんの、
小さかった頃の話を元に作った作品だそうです。
 
 クーニーのおじいさんは、ドイツからアメリカに渡って「成功した移民」。
なので、主人公のハティー(この少女がクーニーのお母さん)は、両親、兄弟と共に
お手伝いさんが居る大きな家で暮らしています。休日には、親戚が大勢集まって
何時間もかけて食事をした後、シタンのピアノの上の油絵を見たり、夏服が
出来上がるのを待って、海辺の町へ避暑へ出かけたりするような生活です。

 ある年、お父さんが、今までの夏の家よりもさらに大きな「新しい夏の家」を買いました。
お姉さんは「プリンセスみたい」と大喜びしますが、ハティーだけは嬉しいのかどうか
わかりません。なぜかというと、今までの夏の家のそばの浜辺がとても好きだったから。
それにお姉さんはおしゃれも大好きだったけど、ハティーが好きなのは、なにより絵を描くことでした。

 年頃になり、お姉さんはお嫁入りし、弟はお父さんの仕事を手伝うようになり、
ハティーは、お父さんが建てたブルックリンのホテルの最上階で、両親と共に暮らします。
(窓からイーストリバーが見下ろせる、相変わらず贅沢な暮らしです)
 
 
 
そしてある日、それは、突然ハティーの前に現れました。

両親と共に出かけたオペラ劇場で、若い女性歌手の歌声が、ハティーの心に染みたのです。
本文では、こんなふうに書かれています。

 ハティーにもわかったのです。身も心も、じぶんの
 すべてをはきだして、絵をかくときがきたのです。

 
翌日、ハティーはすぐに美術学校へと出かけます。手続きを済ませた後、今度は、
コニーアイランドへ向います。

 海辺で、寄せてはかえす波の音を聞くよりも前から、ハティーの胸は高鳴っていた
ことでしょう。自分への期待と、すこしの不安。よせては、かえす波の音が、
どきどきという鼓動とともに、ページの間から聞こえてきそうな気がします。

 どくっ・どくっ・どくっ・・・・と繰り返すそれは、ハティーのものだけではなく、
もしかしたら、私の鼓動かもしれません。幼い頃の夢のとおりでなくても、
「これからの」自分を夢見て、高鳴っている鼓動かも。

 
 本文の最後は、とても素敵なハティーのひとことで締めくくられています。
ここまでくると、これは「お母さんのことを書いた話」だと知っていても、
ハティーがクーニー本人に思えてしかたありません。



このページは小さい頃のハティー。最初の「夏の家」。


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6 コメント

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素敵な話ですね (newsongs)
2005-11-17 11:03:41
クーニーの色んな絵本が紹介されてとても助かります^^



これはまた絵が美しくて、お話も素敵ですねぇ。

身近な人のことだから、内面的に深いものが描けるのでしょうね。

仰るとおり、クーニー本人と重なるところもあるのではないでしょうか。

私も読んで、考えてみたいと思います^^
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出会い (Moon)
2005-11-17 13:46:09
こんにちは!



>そしてある日、それは、突然ハティーの前に現れました



こんな瞬間が誰にもあるのでしょうが、見逃しているのではないかと思うことがあります。

その時その場所で出会えたからこそ心に染みる。めぐり合わせというか、運というか。

そんな出会いを見逃さないように、気持ちを研ぎ澄ませていたいなと思います。
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娘に・・・ (くっちゃ寝)
2005-11-18 13:54:28
クーニーの絵本の中でも私が一番好きな絵本です。

娘たちが自分の好きなことを見つけて旅立つとき、この絵本を贈ってやりたい、と密かに企んでいました。

この絵本を読んだときはまだまだ先のこと、と思っていたのに、あと数年でそんな日が来てしまいそう。

ちょっと、淋しいかな・・・。

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楽しみ (ruca)
2005-11-18 14:01:15
newsongsさん、こんにちは。



早速のコメント、ありがとうございます。

この本は、「ルピナスさん」「エミリー」と並ぶ、私の大好きな絵本です。(あ、「にぐるまひいて」もあった)

クーニーの絵がついている話は、長い話が多く、子供と一緒に楽しむのはちょっと無理かなと思いますが、かえってそれが「自分だけの楽しみ」のようで気に入っています。



読んだらまた感想、聞かせて(書いて)くださいね。

楽しみにしています。
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日頃の準備 (ruca)
2005-11-18 14:06:37
Moonさん、こんにちは。



そうなんですよね、「それはある日突然やってくる」のですよ。ある種の神の啓示?なんて思ってしまいますが。



若くても、そうでなくても、自分のその後の人生を決めてしまうかもしれない「出会い」が、ある日突然やってくるかも。なんて思っているとそれだけで、どきどきしてしまいます。



あっ。気持ちを研ぎ澄ませて準備していなくっちゃ。
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素敵な計画 (ruca)
2005-11-18 14:12:37
くっちゃ寝さん、こんにちは。



>娘たちが自分の好きなことを見つけて旅立つとき、この絵本を贈ってやりたい、と密かに企んでいました。



そんなステキな計画をお持ちだったんですね。

く~。泣けてきちゃいます。(私が今から泣いてどうする、ですけど)



ハティーのように、好きなことをみつけ、好きなことを続けていってくれたら。ルピナスさんのように、志を持って長い人生を歩んでいってくれたら、と親なら誰もが思いますよね。
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